私が世界を救わない理由1
----回想----
その事件が起きたのは、今から6年前。
私が16歳の時。
ちょうど明日からゴールデンウイークという、4月30日の夜だった。
その年は祝日と土日がうまく並んでいて、有休もとらずに5連休だと父が浮かれていた。
そして浮かれた父は、反抗期真っ盛りの私と、大学生の兄を呼び寄せて無理やりキャンプの予定を立てた。
家族でキャンプなんて反抗期の私にとってみれば全く歓迎できないイベントだったが、帰りに大型のアウトレットモールに寄って、好きなものを買ってくれるというからしぶしぶついていくことにした。
「あ!日焼け止め買うの忘れてた!」
キャンプだというのに日焼け止めがないなんて、女子高生の私にとって死活問題だった。
「コンビニ行ってくる。」
「もう夜遅いぞ。明日でいいんじゃないか?」
「えー、すぐそこだし、買ってくる。」
「なら車を出すから、ちょっと待ってなさい。」
「だからいいって。一人で大丈夫だし。」
日常の何気ない会話。
だけど、もしこの瞬間に戻れるとしたら私は自分の頬を思いっきり引っ叩くに違いない。
この時、父と一緒にコンビニに行っていれば、きっと、きっとあんなことにはならなかった。
行きは何もなかったし、誰とも会わなかった。
近くのコンビニで日焼け止めを購入し、来た道を戻った。
何ら変哲のない日常だったはずなのに。
「ん?」
夜闇を照らす街灯。
コンビニへ行くときには誰もいなかったその街灯の下に、見慣れない男が立っていた。
身長は180cmくらいで、ヒョロリと長い。
それが第一印象だった。
初夏だというのに裾の長い上着を着て、フードを被っている。
服と同じ黒色のリュックサックを背負っているようだった。
顔は・・マスクでよく見えない。
「うわあ、不審者だ。」
相手に聞こえないよう小声でつぶやく。
父の言うことを聞いていればよかったとちょっぴり後悔した。
路の幅は3メートルほど。
進行方向向かって右手の街灯の下にいる男を避けるように、道の左側を小走りに駆け抜けた。
寒がりの人だったんだ、きっと。
そう言い聞かせながら走り続ける。
いくつかの街灯を通り過ぎ、角を曲がり、自宅が見えたところで安心してしまい、私は足を緩めた。