頼みたいこと
「さて、コーヒーを飲んで落ち着いたところで、本題に入っていいかしら。」
すでに平静を取り戻し、テーブルをはさんで向かいに座っていた黒田がその言葉に応える。
「ああ。今日はそのために来たんだからな。
俺にできることなら何でも言ってくれ。
あの時より出世したから、できることも増えたぜ。」
「頼もしいわね。
早速だけど頼みたいことは2つ。
1つはとある人物がどこにいるのか、所在を明らかにしてほしい。
2つ目は大量の物資の調達を代行してほしい。」
「3つ目は?」
「それはまだ思いついていないから、保留で。
それか、物資調達が大変だと思うから、それに2つ分のお願いを使ったってことでもいいわよ。」
「いや、3つは3つだ。保留のままでいい。
それで、その探してほしいやつっていうのは誰だ?」
黒田の言葉で、しんと空気が凍る。
テーブルに置こうとしたコーヒーカップが、テーブルとぶつかってガタガタと音を立てる。
私は唐突に震えだした右手を、左手で押さえつけた。
「おい、大丈夫か?」
「・・・ええ。大丈夫。」
嘘だ。大丈夫ではない。
その男の名を口にしようとしただけでこの様だ。
その男のことを思い出すだけで、体中の血が凍るような恐怖と、体中の血が沸騰するような怒りにまみれる。
「ほんとに大丈夫か?
真っ青になったり、真っ赤になったり。言いづらいなら言わなくても。」
「いえ、大丈夫。
ちょっとだけ時間をちょうだい。」
情けない。
異世界で過ごした時間も含めると、18年も経っているのに。
魔物を何万と屠り、魔王を2度倒し、今や魔法を使える身となったというのに、あの恐怖は、あの怒りは、未だ私の中に巣食っている。
すう、はあ、と大きく深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせる。
「・・・探してほしいのは、藤谷 星一という男よ。」
「藤谷星一・・・なんか聞き覚えのある名前だな。」
「そうでしょうとも。
あいつは、あの男は、私の両親と兄を殺した殺人鬼なんだから!!!」