鬱憤を晴らす6
「このことが知られたら、クビでしょうね。」
パワハラが生きがいのような男が会社をクビになる。
きっと、こう言ってくるはず。
「!そ、それだけはどうか!!
何でもしますから、会社には言わないでください!」
想像通りの言葉に、笑いがこみ上げる。
きっと私は醜悪な顔でこの愚かな男を見下していたに違いない。
とその時、扉の向こうで影が動いた。
いつもなら課長の怒鳴り声が廊下まで響いているのに、全く何も聞こえないことを不審に思ってか、どうやら誰かが様子を見に来たようだ。
私からは扉の向こうの誰かの様子を窺えるが、背を向けた状態の課長には何も見えていない。
せっかくだ。利用させてもらおう。
「ふん。まあいいわ。私の口からは言わないでおくわ。」
その言葉に課長の顔がぱあっと明るくなる。
「あ、ありがとうございます!」
「はいはい。もういいから椅子とテーブルを元に戻してくれる?」
「もちろんです!」
この地獄から解放される見込みが立ち、喜び勇んでなぎ倒した椅子とテーブルをもとあった位置に戻し始めた。
「終わりました!」
「お疲れ様。」
私はそう言いながら課長の頭から初級ポーションを浴びせかける。
課長は何をされるのかと一瞬身構えたが、追加で負わせた傷が治っていく様をみて驚いているようだった。
私は傷やスーツがもれなく治っていることを確認すると、音を遮断するために使用した魔道具を取り出した。
「音遮断結界解除」
魔道具を取り出しそう唱えると、今度は赤い光が魔道具からあふれ出し、会議室を覆うように広がるとふっと消えた。
これで元通り会議室の中の音は外に聞こえるようになった。