鬱憤を晴らす5
「傷は治ったはずなんだけどな。おい、起きろ!」
なかなか意識を取り戻さない課長に平手打ちをする。
「う、うわあああ。」
平手打ちによって意識を取り戻した課長は、まるで鬼を見たように驚き、叫び声をあげる。
バタバタと手足を動かして逃げようとするので、
「おい、逃げたらまたやるぞ。」
どすのきいた声で脅す。
「ひいっ。す、すみません、逃げません。」
あの威張り腐った態度はどこへやら。
正座して縮こまっている姿を見ると、なぜこんなやつの言いなりになっていたのかとまた腹が立ってくる。
とはいえ、いつもは課長の怒鳴り声が響いているはずの状況で、あまり長く無音の時間が続くと不審に思われてしまう。
暴力をふるった記憶は消去予定なので、当初の予定通り暴力以外の方法で課長を屈服させなければならない。
色々と方法は考えられるが、一番簡単なのは、
「おい、お前の誰にも知られてはいけない秘密を教えろ。」
「え?」
「2度言わせるな。」
「!は、はい。申し訳ございません。」
「で?」
「わ、私は不倫しています。」
「そんなことは分かっている。もっとあるだろう。」
「え、えーっと、ぐはッ」
あまり時間がないのに、生意気にも口ごもったので鳩尾を蹴り上げる。
「で?」
もだえ苦しんでいる課長を見下ろし、変わらない口調で問いただす。
「お、横領しています。会社の金を横領しています。」
「いくら?」
「600万円ほど。」
「何のために?」
「不倫相手にバックや車を買いました。」
「いつ、いくら横領した?」
「2年前に50万円、そのあと何回かに分けて500万円ほど。」
「ふーん。相変わらずのクソっぷりね。
そういえば、去年の冬、ボーナス用に銀行から引き出したお金が一部なくなったわよね。
あれもあんたの仕業?」
「そ、そうです。」
ヒュッと風を切ってまたも課長の顔面を蹴り飛ばす。
「あんた、あの時私を犯人にしようとしたわよね?
自分で横領しておいて、なんてやつ!」
「も、申し訳ごじゃいません。」
頭を床にこすりつけるようにして謝ってくる姿を見て、かかと落としをくらわせたくなったが、高級ポーションがもったいないのでぐっと堪えた。