最後の日常
あれから数週間が経った。
その間、警察が訪ねてくることも、黒田やそのお仲間の人が訪ねてくることもなかった。
警官たちが口にしていた発砲事件はニュース番組を賑わせ、黒田を拾った周辺では報道陣を見かけることもあった。
その後、獅子組の「内部抗争が終結!」「世代交代か!?」といった話題がもてはやされ、発砲事件はこの内部抗争の一端であろうという結論に落ち着いたようだった。
結局どうなったのか、もう少し獅子組について詳しく知りたいところだったが人の世の流れは早いもので、最近の旬の話題は今月中頃に公示される衆議院選挙に移り変わり、獅子組のニュースはめっきり見なくなってしまった。
しかし、若頭が--黒田が死んだという話は聞かないから、おそらく跡目を継いだのは黒田だろう。
「なんとか上手くいったみたいね。」
あの状況からどう盤面をひっくり返したのか、次に会ったときは話を聞いてみたいものだ。
何はともあれ、約束が果たされる可能性が見えてきたとことに胸をなでおろした。
「おい!聞いてるのか!」
その声で、ここが会社で、目の前には上司がいたことを思い出した。
いつものように上司のどうでもいい小言を全く関係ないことを考えながら聞き流していたら、どうやら態度がお気に召さなかったらしい。
「はい。聞いています。」
思ってもない返事をして、何のためにもならない説教という名のパワハラを受け流す。
「だったら、もっと------」
はあ、しかしなんだかんだとよく動く口だな。
酸欠のフナみたいだ。
もし魔法が使えたならば、すぐに丸焦げにしてやるのに。
そんな妄想を何度しただろうか。
妄想で1日1回は殺しているから、もう千回は死んでいるはずなんだけどな。
アンデットか、こいつ?
などとどうでもいいことを考え、やっとパワハラから解放されたころには、もう日が暮れかかっていた。