自己紹介2
「今更なんだが、自己紹介してなかったな。」
男の言葉に思考が引き戻される。
「そういえば、そうね。」
「俺は、獅子組若頭の黒田 昴だ。」
「獅子組って、ここら一帯を仕切っている、あの?」
「そうだ。」
獅子組といえば内部抗争が激化し、しばしば負傷者を出してニュースになっている。
そこの若頭。
・・・意外と大物だったようだ。
どうしよう、これ、大丈夫かな?
そんな不安が顔に出ていたのか、
「迷惑はかけねぇ。たとえ殺されても、あんたのことは話さない。」
「・・・そう。」
私は名乗ろうかどうか少し迷って、
「・・・私は、楠 月桂
まあ、偽名だけどね。」
「偽名かよ!」
「あら、知らないの?名前って簡単に名乗ってはいけないのよ?
何されるかわからないんだから。」
「ははは、なんだそれ。」
男---もとい、黒田が笑う。
拾った時とは違い、顔色もよくなった黒田の屈託のない笑顔に、私の心臓が跳ねる。
黒田は一通り笑うと少し名残惜しそうにしながら、
「それじゃあ、そろそろ。
本当にありがとう。この恩は絶対に忘れない。」
そう言って、玄関の扉を開け夜闇の中に消えていった。
その後姿に軽い既視感を感じたが、すぐに扉を閉め、鍵をかける。
黒田が生き残れるかどうか、かなり分の悪い賭けになるだろう。
もし、生き残れなかった場合を考えて、黒田と接触した痕跡はできる限り残したくない。
見送りなどリスクでしかない。
「・・ちゃんと生き残って、約束を守ってもらわないと困るんだから。」
2日ほど面倒を見ていたから、ほんの少しの寂しさを感じるだけだ。
そう自分に言い聞かせた---。