自己紹介1
もう大丈夫だと言ってきかない男をなだめすかして、なんとか熱がひくまで面倒を見た。
男を拾って丸2日が経っていた。
「世話になったな。」
まだ痛みがあるだろうに、そんな様子をおくびにも出さない。
強がりというか、他人に頼るのが下手というか。
「ちゃんと医者に診せるのよ?」
「ああ。」
今、少し視線が揺らいだ気がするが、見なかったことにしてやろう。
それよりも、確認しておかなければならないことがある。
「それから、あの時約束した通り、3つなんでもいうこと聞いてくれるのよね?」
「もちろんだ。少しゴタついてるから、1、2ヶ月くらい待ってもらえるか?」
「まあ、それくらいなら。」
本当は今すぐにでもと言いたいところだが、無理を言っても仕方ないだろう。
「何か今渡せる物があればいいんだが、あいにくボロボロになっちまってるからな。」
そう言って、腕時計に視線を落とす。
見るからに高そうな腕時計の文字盤にはひびが入り、全体的に傷だらけになっていた。
「別にいいわよ。変なものを預かって、余計なトラブル増やしたくないわ。」
それに、この手の人間は約束を守るという確信がある。
異世界で裏稼業の奴らと何度か対立したり、取引したり、命を救ったりしたが、彼らは一度言ったことや契約したことを、反故にしたことは決してしなかった。
いい意味でも、悪い意味でも決して。
特に、命を救ったときは、その対価として自らの命を差し出してきた。
もちろん、だれかの命を預かるなんて御免だと断った。
でも、彼らは私の盾となって死んでいった。
驚きと悲しみと不甲斐なさに、慟哭したのを覚えている。