実験4
藤谷に人並みな生活をさせて一週間が過ぎた。
痩せこけ、不健康そうだった見た目は幾分かましになり、目には生気が宿っていた。
「一週間が経ったわね。
体の調子はどう?」
「以前に比べれば、かなりマシになりました。」
「それは重畳。
じゃあ、移動しましょう。」
「移動?」
不思議がる藤谷を実験室へと連れていく。
実験室の中は大きく2つに分けられており、入り口を入ってすぐは病院の診察室を思い起こさせる造りになっている。
もう1つの部屋は、手術室のような部屋で、中央に被験者を寝かせる台がある。
2つの部屋を隔てる壁には大きな窓が取り付けられており、診察室から手術室を観察できるようになっている。
「さあ、そこに座って。」
私は診察室に置かれた椅子に座るよう促した。
「は、はい。」
「じゃあまずは、採血ね。
腕を出して。」
藤谷は、私の指示に素直に応じ、腕を出す。
この1週間はまともな食事をしていたとはいえ、それ以前は悲惨な環境・食事状況だったせいか腕は細く、黒ずんでおり、簡単に折れそうだった。
まあ、だからといって申し訳ないといったような罪悪感など、1ミリも抱きはしないのだが。
「よし、採血終わり。
じゃあ、今日は簡単な実験か始めましょうか。」
「あ、あの、実験って、何をするのでしょうか?」
「ん?あ、説明してなかったわね。
簡単に言えば、病気をポーションで治す実験よ。」
「え?」
「例えば、腕を切られたとするでしょう?
その腕にポーションを使えば傷が癒える。
ここまではもう分かっているわ。
でも、風邪をポーションで治すことはできないと言われている。
だけど、それは本当かしら?
風邪は呼吸器の疾患でしょう?
なら、呼吸器を体から取り除いて、ポーションで呼吸器を再生すれば、風邪が治るんじゃないかしら?」
癌を切除して治療するのと同じだ。
現代医学では胃がんなどで病巣を切除すると、再生させることはできない。
けれど、ポーションを使えば切除した臓器を再生することができる。
外科手術とポーションを組み合わせることで、病気を治す。
これがこの実験の目的だ。
この理論が正しいのか、もし正しいとするならば、どの病気の時にどこをどれくらい切除すればよいのか。
また、精神疾患の場合は、脳を切除するのか、あるいは、記憶玉によって記憶をコントロールすることで治すことができるのか。
それを今から藤谷で試してみようと思う。