実験3
「あなたの拷問はとりあえず今日でおしまいよ。
どう?いいニュースでしょう?」
「・・・!!??」
私の言葉にフリーズしていた藤谷だったが、その言葉が自分の最も望んでいた言葉だと理解すると、暗くどんよりと沈んでいた瞳に光が灯る。
「え、ほ、本当ですか?」
「もちろん本当よ。」
私が笑顔でそう告げると、藤谷の表情が明るくなり、痩せこけた頬が赤く染まった。
「ただ、悪いニュースもあるわ。」
その言葉に藤谷の体がびくっと震える。
「・・・・・悪いニュースは、な、何でしょうか?」
「あなたには実験の被験者になってもらうわ。」
「実験の被験者ですか?」
「そうよ。
実験内容は実験の際に説明するわ。」
そう言って私はアイテムボックスから掃除用具を取り出した。
「被験者が不健康だと正しいデータが取れないの。
まずはこの掃除用具を使って部屋を掃除しなさい。
そのあと体を洗って、食事をして、布団で寝なさい。
実験は一週間後からよ。」
「!は、はい。ありがとうございます!」
いったいこれの何が悪いニュースなのだろうか。
これまでで一番良い状況じゃないか。
口には出さないが、藤谷の表情からそう思っていることは明白だった。
いそいそと掃除を始める藤谷を監視しながら、私は拷問の師匠だった国指定拷問官の言葉を思い出していた。
曰く、人間はどん底に突き落とされれば、その場で耐えようと必死にもがく。
どん底から這い上がってきた人間は、つらかった記憶を捨て、新たな幸せに縋る。
拷問でも同じだ。
どうしても口を割らない奴らは、苛烈な拷問を施した後、人並みの生活に戻す。
そして人並みの幸せを味合わせて、また拷問をする。
口を割ればまた人並みの生活に戻れるぞと言ってな。
すると一度目の拷問を耐えた一流と言われる暗殺者でも、大概の奴は心が折れる。
ふり幅はでかい方がいい。
その方が心が折れるのが早いぞ。と。
「つかの間の幸せを噛みしめるがいいわ。」
私は藤谷に聞こえない程度の声でそう呟いた。