実験2
第一拠点の明るく快適な居住空間と暗く陰鬱とした牢獄を隔てるのは、三重の扉。
居住空間である地下2階に最も近い扉は魔法による施錠がされている。
地下3階に降りるには、その魔法錠を解錠し、暗証番号とカードキーが必要な電子錠を解錠し、私の指紋と虹彩、両手の静脈が登録された生体認証式の鍵を開けなければならない。
入ることも出ることも不可能な場所。
それが藤谷を閉じ込めている地下3階の牢獄だ。
地下3階は、独房、拷問室、実験室の3つがあり、用途はその名の通りだ。
藤谷をここに閉じ込めて約2年。
考えうる拷問は大体試した。
藤谷が苦しむさまも、命乞いするさまも何度も見てきた。
「何をやっても反応が同じだから、正直、ちょっと拷問には飽きてきたのよね。」
そう呟きながら、私は独房の扉を開けた。
「ひっ」
「毎度毎度、まるで怪物を見たようなリアクションね。
まあ、間違っちゃいないけれど。
さて、モルモット君。
いいニュースと悪いニュースがあります。
どちらから聞きたいですか?」
この2年で初めての展開に、藤谷はきょとんとした顔をした。
それも致し方ない。
藤谷はきっとこう思ったのだろう。
初めてこの独房に放り込まれた時は、こんなに狭くて暗くて汚い場所なんてすぐに逃げ出してやると思っていた。
しかし、放り込まれてから1カ月ほど放置され、水も食料も枯渇する頃には逃げ出そうという気力さえ無くした。
それが最悪かと思っていたら、それは最善で、そこから思い出すだけで吐いてしまうほどの拷問の日々が続いた。
逃げ出したいと思っていた独房が唯一の安寧の場となり、不定期に開かれる扉と、その向こうから現れる怪物よりも恐ろしいナニカに怯え続けた。
恐ろしいナニカはいつも笑顔で扉を開けて、今日の拷問のメニューを読み上げ、それに怯えたり泣きわめいたりする私を見て楽しんでいた。
しかし、今日は違った。
いいニュースと悪いニュースがある?
こんな展開初めてだ。と。
「で、どっちから聞きたいの?」
私の質問にはっと我に返った藤谷が、かすれた声で答える。
「い、いいニュースから聞きたいです。」