実験1
合同演習で燃え上がった炎は世界中に飛び火し、各地でまた新たな火種となった。
ある国ではクーデターが起きて政権が奪われ、ある国では部族間のわだかまりが内戦になり、またある国では隣国と武力衝突が起きた。
その全てに魔王軍が関わっていたわけではないが、いくつかの燻っていた火種に油を注いで回っていたことは確かだ。
「クーデターに内戦、武力衝突か。
人間同士で潰し合わせて戦力を削ごうとしているのかしら。」
第一拠点でコーヒーを啜りながらそう独りごちる。
オーストラリアの合同演習に現れた所属不明機による襲撃から既に数ヶ月が経っていた。
ゴーストアタックと命名された転移魔法を使ったこの攻撃は、世界各国の主要な艦船・航空機に甚大な被害を及ぼしていた。
また、各地で起きる戦乱は世界規模の不景気を引き起こし、ゴーストアタックの恐怖は流通を阻害した。
「お金のない国では餓死者も出ている・・・ね。
それはゲートが開く前からでしょう。
とはいえ、このままこの状況が続けば日本も危ないわね。」
第一拠点に引きこもって1年以上。
独り言が増えた気がする。
「他の勇者は何をしているのかしらね。
みんな私みたいに戦わない選択をしたのかな。
東高辻からの連絡もないし、どうなっているのかしら。」
隠れ住む生活にも飽きてきた。
私の予想では、そろそろ日本も魔王軍の襲撃を受けている頃だったが、ゴーストアタック以外の直接的な被害はない。
バレない程度に魔王軍の兵士を捕獲して魔王軍の情報を集めたり、弱点を探ろうとしてた計画が狂ってしまった。
「ああ、暇だわ・・・。
・・・仕方ない。
本来なら魔王軍の下っ端で予備実験をしてからと思っていたけれど、藤谷への拷問も飽きてきたし、そろそろあの実験を始めましょう。」