下心
「気になるか?」
私の視線に気づいたのか、男が声をかけてきた。
「気にはなるけれど、詳細を聞くつもりはないわ。
拳銃を持っているカタギじゃない人間がこんなに一方的にやられている。
面倒くさい事情があるに決まっている。
これ以上面倒ごとが増えるのはごめん被るもの。」
「こっちとしてもその方が助かる。
でも安心してくれ。約束は必ず守る。」
「当り前よ。」
打撲の跡に氷嚢を当てながら答える。
踏み倒されては困る。
「傷の手当はこんなところね。
食事はできそう?少しでもいいから胃に入れておいた方がいいわ。」
レンジで温めたお粥を差し出す。
「ありがとう。」
口の中も切れているのか、男はゆっくりとお粥を食べ始めた。
(ありがとう・・ね。)
なんだか久しぶりに聞いた言葉だった。
この世界で私はただの一般人で、勇者様、賢者様と慕ってくれる人はもちろん、恋人もいなければ友達もいない。
会社ではパワハラ大好きな上司から日々叱責される。
こんなに人と喋ったのなんて、いつぶりだろうか。
食事を終えた男に気休め程度の鎮痛剤を飲ませると、すぐに眠ってしまった。
頭も身体も包帯でぐるぐる巻きでよく見えないが、顔色は幾分かましになったようだ。
この男に請求する見返りは、もう決めている。
というか、それが目的で裏家業の人間と分かって助けた。
欲しいのは、お金とあれと、そして、あの情報。
もしすべて手に入るのなら、今回のことは厄介ごとというより、むしろラッキーな出来事なのかもしれない。
男を見張りながらそんなことを考えていると、いつの間にか夜があけていた-------。