対峙3
「私は日本人の勇者を集めて、魔王軍に対抗する組織を作成しました。
その過程で、あなたのもとパーティーメンバーという方がいらっしゃって、あなたはとても優秀だったと伺いました。
そこでこうしてスカウトに来たのです。」
これは嘘だ。
私の直感がそう言っている。
アスガルドの仲間は、アトラスをなくした私が自爆魔法を使ったことを知っている。
そんな私を新しい戦争に巻き込もうと考える人たちではない。
ニルヘムでの仲間は、まずクソ勇者は私の事を優秀だとは言わない。
そして、勇者以外は日本人ではない。
つまり、東高辻の組織に私と面識のある勇者経験者はいない。
「そうですか。
でも、ごめんなさい。
私は魔王軍と戦うつもりはありません。」
嘘をついてまで私を勧誘しようとする、私の拠点を探し当てるような奴についていくことなど危険極まりない。
できるだけ穏便におかえり願いたい、が・・・
「そう言わずに。
世界の危機なのですよ?
女神さまからいただいたその力を、世界を守るために使わなければならないと思いませんか?」
どこぞの宗教の勧誘かと突っ込みたくなるセリフだ。
「勇者だろうとそうでなかろうと、人は簡単に死にます。
だから、私の命の使いどころは私が決めます。
他人の指図は受けません。
お帰り下さい。」
そう言って扉を閉めようとすると、冬馬が扉の隙間に足を差し込み、閉じようとするドアをぐっとつかんだ。
「ちょっと、離してください!」
「ちっ!
こっちが下手に出てりゃいい気になりやがって。」
ああ、こいつ本性を出してきたな。
心の中でそう舌打ちし、冬馬とドアの主導権を巡って十数秒押し合いを繰り広げた。
「痛い目見ないと分かんねぇみたいだな!」
そう声を荒げ、冬馬がドアを掴んでいた手を離した次の瞬間、その手に聖剣を持っていた。