治療
「まあ、ずいぶんと手ひどくやられているわね。」
とりあえず風呂場で服を脱がせ、丁寧に血をぬぐうと、全身に打撲や切り傷があった。
「この胸の切り傷はやっぱり縫わないとだめね。
それから、これだけのケガだから今からそうとう熱が出るわよ。
物騒なものは預かっていてあげるから、今からでも救急車を呼んだら?」
「・・・」
「はあ。まあいいわ。苦しむのは私じゃないし。
じゃあ、縫うわよ。麻酔なんてないからね。」
「頼む。」
合計何針縫っただろうか。
男はその間微動だにせず耐えていた。
異世界で何人もの兵士の傷を縫い合わせてきたが、ここまで耐えた兵士はそうはいなかった。
回復魔法やポーションが切れた時の応急措置としていつの間にか身に着けたスキルだったが、思わぬところで役に立つものだ。
「はい、おしまい。」
「すまない。世話をかけた。」
よろける男に肩を貸して、とりあえずリビングに移動させる。
すでに発熱し始めた男の体を冷やすための氷嚢を作りながら、横目で様子を窺う。
年は30代前半くらいか。
黒髪で、身長は180cmくらい。
顔色は青白く、疲れた様子ではあるが、それを差し引いても目を引く顔立ち。
ありきたりな表現だが、道をすれ違えば振り向いてしまうかもしれない。
身に着けていたものもいいものばかりで、背中から肩、胸のあたりまで見事な刺青が入っていた。
・・・1時間前までは日本は平和だと思っていたが、どの世界にも裏社会の人間というものはいて、日常のすぐそばで命のやり取りをしているのだなと思った。