東高辻冬馬の計画2
冬馬が大学を卒業した翌年、2つの事件が起きた。
一つ目は、冬馬の兄が突然の交通事故で帰らぬ人になったことだ。
跡取りを亡くした父と母の悲しみ様はすごかった。
父が涙を流す姿を初めて見たほどだ。
ただ、冬馬にとってみればこの上ないチャンスだった。
東高辻家には兄と冬馬の二人の子供しかいない。
つまり、兄亡き今、父の地盤を継ぎ、政治家となるのは冬馬しかいないのだ。
冬馬は「兄を亡くして悲しむ弟」を上手に演じて見せた。
二つ目は、スナッフフィルム殺人事件が起きたことだ。
冬馬は藤谷による中継をリアルタイムで視聴していた。
「ははは、すげぇ。
マジでやってるじゃん、これ。」
異世界で多くの死を見てきた冬馬には、それが本当に起きていることだとすぐに分かった。
しかし、通報するわけでもなく、むしろどんどん惹き込まれていった。
蘇るのは異世界で斃してきた魔王軍の断末魔。
聖剣で魔物の肉を裂くあの感触。
冬馬のうちに眠っていた加虐性が藤谷と重なり、羨望は崇拝へと変化した。
藤谷が逮捕されて、冬馬は他の信者と共に暴動に参加しようとしたが、寸前で思いとどまった。
それは良心や道徳心といったものからではなく、打算と悪知恵を働かせた結果だった。
3年後、藤谷の死刑が確定し、翌年元号が変わり、恩赦が実施されることが決定した。
通常、殺人を犯し、死刑判決が出た者に対して恩赦は行われない。
藤谷もその例に漏れず、死刑執行の日を待つのみだったが、冬馬はこの機会を逃さなかった。
息子が信者であることが世間に露見すれば、お前が失脚するのは明らかだ。
兄亡き今、俺が信者だとバレて、お前が失脚すれば、東高辻家の未来はないぞ。
そう言って当時法務大臣だった父を脅し、ありとあらゆる手段を使って藤谷に恩赦を施したのだ。
冬馬の父はこのことがきっかけで体と心を壊し、翌年亡くなってしまう。
結果として、冬馬は父の地盤を継ぎ、衆議院選挙に立候補。
魔道具の力を使って政党の有力議員たちを洗脳し、総理大臣になった。
そして今、冬馬は特別監房の前に立っていた。