侵攻開始3
とある国の南極基地。
夏の間は200名ほどの隊員が活動しているが、冬を越すのはその3分の1ほど。
肉体のないレイスは、魂を感知することにたけており、70名ほどの魂が集まった南極基地を最初は村だと思って偵察した。
しかし、近づいてみれば彼らの知る村,いや、建物とは様相が大きく違っていた。
木材や石材ではなく、金属を主体とした大きな建物が数棟あり、その間を廊下が繋いでいた。
また少し離れたところにも複数の建物が確認でき、金属で構成されているであろう大きな箱のようなものも複数見受けられた。
レイス達をさらに驚かせたのは、建物の中の状況であった。
暑さ寒さを感じないレイスと違い、人間は暑さや寒さに弱い。
積雪の状況からみて、ここは極寒の地と呼ぶにふさわしい場所のはずなのに、建物の中の人間たちの服装ときたら、とても寒さに耐えうるものとは思えなかった。
長袖の服を着てはいるが、腕まくりしている者もいる。
つまり、この村のような場所にある建物の中は、外よりも格段に暖かいという事になる。
しかし、暖を取るために燃やすような樹木はあたりに見当たらない。
なんなら暖炉も見当たらない。
何らかの魔法を駆使しているのかと思ったが、空気を温める魔法はおろか、魔獣除けの結界や転移阻害魔方陣など基本の防御魔法すら使用された形跡はなかった。
「それはおそらく、科学という我々にはない技術によるものだろう。」
村らしき場所を発見したと報告を受けた魔王が、そうレイス達の疑問に答えた。
「カガク・・でございますか?」
「ああ。
魔法とは全く異なる理論を用いて、まるで魔法のような効果を発揮すると聞いたことがある。
科学を使えば空を飛ぶことも、空気からパンを作ることもできるとか。」
「な、なんとそのような技術を人間が有しているとは。
しかし、魔法やそれに準ずる攻撃に対しては何も対策をしていないようでした。」
「・・・魔法が存在しないのかもしれんな。」
「大気中にこれだけ豊富な魔素が存在しているのに、でございますか?」
「魔素を感じる能力がないのか、あるいは魔法を権力者が占有しているのか。
どちらにせよ一つの村だけで判断するのは早計だ。
引き続き観察を続けよ。
可能であればあの作戦を実行せよ。」