契約成立
「契約成立ね。じゃあ、ちょっと傷を見るわよ。」
男がうずくまっている辺りには、乾き始めた血だまりがあった。
それを踏まないよう気を付けながら近づき、スマホのライトで男を照らす。
顔色は青白く、シャツが赤黒く染まっている。
そっとシャツをめくると、左胸の上部から鳩尾にかけてぱっくりと切られていた。
「血は・・とまっているみたいね。内臓も傷ついていないみたい。
これなら縫い合わせて安静にしていれば助かるかも。
さすがに輸血なんてできないから、体力勝負になるけどね。」
「お嬢さん、医者だったのか。」
「いいえ、しがないOLよ。」
「それにしちゃテキパキとしてるな。」
「まあ、これくらいの傷なんて何千、何万とみてきたからね。」
「は?」
「こっちの話。さあ、立てる?とりあえず消毒して縫い合わせる必要があるから、私の部屋に行きましょう。」
男の靴裏に血痕が付いていないことを確認し手を引っ張ると、男はよろけながらなんとか立ち上がった。
「あ、血だまり踏まないでよ。
あなたを襲撃した奴らや、警察に追跡されると面倒だから。」
「あ、ああ。」
ほんの数百メートル先のアパートまで、男の荷物と拳銃を回収し、痕跡が残らないように移動するのは骨が折れた。