国王来訪
ここは、とある王国の街、ダイノソー。
私が友人と共に立ち上げた新興の街である。
この街に店を出す商人達は、とても個性が強い商人が揃っている。
私ことあいぽんはとてもまともな人間なので、この商人達がとても異質なものに見えてしまう。
「ないないw」
「ちょwwwww」
私の心の中を読んで突っ込んできたのはダンス。
踊りではない。ダンスという名前なのだ。
ダンスは私の夫であり、この街の商人の一人である。
なぜ一緒に商売をしないのか?
当然である。私たちは夫婦以前にお互い商人なのである。
お互いが高めあい、切磋琢磨することで良い関係を築いてきたのである。
「ねぇ、ダンス。ここのレイアウトどうしたらいいかな?」
私は、店のレイアウトの一部が気に入らず、ダンスに相談していた。
ダンスは私の店のマーケットのオファーをいじりながら適当に話を聞いている。
「そこ、縦に置いて2マス右にずらしたらいいんじゃない?」
適当に答えてはいるが、結構的確だったりするので困る。
ダンスの言う通り置いてみると、見事にしっくりきた。
「さすがダンス!前より格段に良くなった気がするわ!・・・ん?」
ダンスが青ざめた顔をして隣に寄ってきた。
「どした?ダンス?」
「やっちまった。これ買っちまった。」
ダンスが私の店のマーケット発注書を見せてくる。
ちなみに、この世界のマーケットはすべて魔法で注文納品をやりとりする。
発注するときも、モノが届くときもすべて魔法でやり取りや転送を行うのだ。
したがって、世界中どこにいても何が売られているか、何が求められているかが一瞬でわかる。
「いやいや、別にいいんだけどさ、何買ったの?」
「プレイステーションプラスの利用券年額。」
「あんたこの世界で何買ってんの?w」
ダンスが怯えた目をしながら報告してくる。
ダメって言ったことないんだけど、よっぽど怖かったのかな。
「ご家庭、恐怖政治なんですか?」
「いやいや、何言ってんのwって、ええ!?」
急に変態さんが話しかけてきてビビる。
「いつ店に??」
「ずっと居ましたけど・・・。」
「ずっと居るとかビビるんですけどw」
この赤い顔をしたおっさんはつい最近街で火事をおこした張本人である。
気付いたらこの店に入ってきて、お茶まで飲んでいる。
「こんにちはー。」
すると隣で店を出しているゆゆさんが入ってくる。
この変態さんとゆゆさんは店が私の店を挟んだ両隣であるため、
ちょいちょい私の店を溜まり場にしている。
まあ、店が賑やかになるのはいいんだけど・・・。
「あ、変態さん!僕のお店、家具のレベルがたくさんレベルアップしましたよ!」
「なにいいいいいいいいいいいいいいい」
すぐにこうなる。
変態さんが叫ぶたびに、お店に来ているお客さんがびくっとなる。
営業妨害で訴えようかしら。
そう考えていると、やがて変態さんはゆゆさんに泣かされてすごい勢いで私の店を出て行った。
彼はゆゆさんに泣かされる度に店がパワーアップしていく。
ド〇・キホーテがMEGAド〇・キホーテになる日も近い。
騒がしい商人と入れ違いで、また一人私の店に入ってきた。
「あら、てんさんいらっしゃい!」
「失礼します。」
この礼儀正しい青年は・・・という。
決して伏字というわけではなく、これまた奇天烈な名前で、「・・・」が本名なのである。
呼びにくいのでみんな「てんさん」と呼ぶことにしているようだ。
彼もこの街の新人さんで、ゆゆさんと変態さんの次に新しい商人である。
彼はこの街でも非常に貴重な常識の持ち主であり、期待の新人さんだ。
その二人もそうだが、てんさんについても、どうしてその名前をつけたのか親に小一時間以下略。
「てんさん、珍しいね?どうしたの?」
「ええ、先ほど仕入れた情報なのですが、この街に国王が来るらしいのです。」
「え、あいつ毎日この街くるよ?w」
「え?そうなんですか??」
「あいぽんさん、国王をあいつ呼ばわりwwww」
ゆゆさんが突っ込みを入れてくる。
でも、国王はアホなのであいつ呼ばわりで十分だと思う。
みんなそう呼んでるし。
「知らなかった。何しにくるんですか?」
「あいつね、いろんなお店の品質高そうなものを通常価格の5倍くらいで買っていくのw」
「5倍!?馬鹿なんですか!?」
「そう、馬鹿なのw」
国王に仕える人たちに聞かれたら卒倒しそうな会話をしながら、てんさんに国王の馬鹿さを教える。
「こうしちゃいられない。値段が高くて品質のよいもの仕入れに行かなきゃ。」
そう言って、てんさんはすぐに店を出て行った。
「ゆゆさんは準備大丈夫なの?」
「ええ、自分はもうすでに準備終わってますw
ただ、準備してもゴミしか買っていきませんけどw」
「そうよねwあいつ何もわかってないし。」
他愛のない話をしていると、店の扉がいきなり開かれた。
「僕こそが偉大なる王、ラインホルトだ!思う存分見つめるがいい!」
噂をすれば影、である。あいつが入ってきた。
「何買うの?請求書書いとくからさっさと決めて帰って。」
「む・・・、一応この国の王なんだが、扱いひどくないか!?」
「はやくしなさい。私は明日のお弁当の準備をしなきゃいけないの。」
「むう・・・ではコレを・・・。」
「はいはい、じゃあね。あと、あんた名前ライホルトなの?ラインホルドなの?
どっちでもいいけどハッキリしなさい。」
「う・・・む。」
国王はあからさまに肩を落としながら店を出て行った。
取っつきやすい王で非常に助かる反面、毎日あんな感じで入ってこられても迷惑である。
「ダンス~、ゆゆさん~、国王帰ったよ。店はいいの?」
「あー、いいやw」
「自分も今日はいいですw」
どうやら国王のためにイライラするのが嫌らしい。
その気持ちわかる。でも5倍だよ?運が良ければすごいお金落としていくのにw
ドッゴーーーーーーン!!!
国王が返ってひとときの平和が訪れてまったりしていたら、隣から物凄い音が聞こえた。
この平和な街で、ありえない爆発音が聞こえたのである。
「またですか・・・。」
「とりあえず行ってみますか?」
「ええ、そうね。」
ゆゆさんとダンスと私は、つい最近聞いたようなセットのセリフをそれぞれが吐き、
私の店を出て音源である隣の店に向かった。
「おまえ!!この僕を誰だと思ってるんだ!?」
「知るか死ねええええええええええ!!!」
駆け付けた隣の店の前には、尻もちをついて泥まみれになった国王に向かって、
金色に輝く贅沢な斧を振り上げる超変態の姿があった。
「今日も平和ね。」
「そうですね。」
「はははw」
ゆゆさんとダンスと3人で微笑ましく国王と変態さんを見守る。
そこへ金髪の女性が割って入った。
「待ちなさい。」
「どけやボケカス!!」
割って入った金髪の美女に3人が目を丸くする。
「あれは、この国の顧問、シア・リオネルだな。」
珍しくダンスが真面目に解説を入れる。
ただ、割って入ったのが美女だからというわけではない。
彼女には黒い噂がある。
カーン帝国の皇帝が王国への贈り物として遣わしたということになっているが、
実はこの国の国王を監視するためのスパイという噂がある。
そういう理由もあって、ダンスも私も緊張が走る。
「サッカーがとても上手そうな名前ですね。」
「そのサッカーが上手な人はリオネルが名前だからね?w」
「あ、そっかw」
緊張していたはずの私たちがおふざけモードに切り替わると、目を真っ赤にした変態さんがシアを見ながら叫ぶ。
「おいババアそこをどけよ!!」
「バ・・・ババア!?」
「どかないと、おまえごとそのバカを真っ二つだぞ!?」
「私のどこがババアなのよ!!」
「どこをどう見てもババアだろうが!!!!!」
茫然とする私。
横を見るとダンスとゆゆさんが笑い転げている。
「私はノートルダムの鐘のエスメラルダがコンセプトなのよ!?」
「そんなの知るか!!」
「ひぃぃ、シア!僕を守れ!」
「わかってます、陛下、お下がりください!」
「どけよ!!おまえ!女に隠れて恥ずかしくないのかよ!!!」
わけのわからないやり取りが続いている。
ゆゆさんとダンスは腹を抱えて涙を流して笑っている。
とりあえず、原因はどうせ変態さんが高級品5倍売りを企んでたのに国王がゴミを選んだから。
とはいえ、もう変態さんは何故暴れているのか自分でもわかっていないはず。
彼も国王に負けないくらい馬鹿だから。
「どうする?止める?」
「そうですね、止めましょう。」
ダンスとゆゆさんが止めに入る。
「変態さーん、ベアトが見てますよー。」
「えっ!!!!???」
変態さんの暴走が止まるのは一瞬だった。
ゆゆさんの一言で、変態さんは斧を引っ込めて店の中にすごい勢いで入っていった。
ちなみに、ベアトというのはベアトリーチェの略で、この街でオイル職人をしている、
とても豊満な熟女だ。
変態さんはベアトのことが大好きなのである。
誰もが予測できないチョイスである。
「効果てきめんwさすがゆゆさんねw」
「彼、あの状態の暴走があんな言葉で止まんのかw」
私とダイスが再度唖然とさせられる。
「ふぅ。何とか助かった・・・。」
「陛下、大丈夫ですか?」
「ああ、さすがの僕も焦った。」
「国王の命を狙うとは、もしや他国のスパイ!?」
(いや、スパイはあんたでしょ・・・)
白々しく国王を助け起こすシアに気づかれないように小さくため息をつく。
この国王は大丈夫なのだろうか。
「まあ、気にしてもしかたがないよw」
「また私の心を読んで!」
ダンスが心配している私の心を見抜いたかのように声をかけてくる。
確かに、気にしてもしかたがない。
しかし、買い物好きなこの国王のおかげで経済が倍加速しているのも事実。
馬鹿だけど無事でいてくれることが一番である。
こうして、国王の殺害未遂事件があったのがまるで嘘のようにまたいつもの喧騒を取り戻し始めたのであった。