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知った顔

「手応えはあったかな。ザロフ軍団長」

 タルカ将軍が少しにやけながら声をかけてくる。

「もう少し反発や、罵声が飛ぶのではないかと思っていたのですが、思っていたより反応がありませんでしたね」

 もともと特に武名が高いわけでもなく、後方で輸送部隊を襲撃していただけの存在なのだ。反発もなにもないだろう。

「もっと兵士たちを鼓舞こぶするような演説を期待していたのだが、案外あっさりしていたね」

「都合のいいことばかり伝えて、後ではなしが違うといわれても困りますから。連れていく兵士の九割は新兵とここから連れていく徴募した兵士になるはずです。現地で反乱でも起こされるわけにはいきません」

 タルカ将軍から引き継ぐ予定である、投槍部隊の生き残りが三百。ここで三百の徴募兵ができたとして、これで六百。おおよそ一個大隊程度の兵となるが、これでは信用できる古参の兵士が少なすぎる。それを考えると、無茶なことはできなかった。

「下士官が足りないのはわかっているが、優先的に北方軍団に配属する必要があるんだ。これは本当に申し訳ない。ひとつ君に借りだな」

 将軍は軽く頭を下げた。こういう屈託のない姿が、タルカ将軍の人気を高めているのだと思う。ギュッヒン侯の参謀だったころから、誰にでも好かれていたことを思い出す。

「仕方ありません。当面は西方で大きな兵力が必要になることはないはずです」

 ハーラントのために西方軍団を率いて鬼角族と一戦交えなければならないが、十分な兵力を集めることは現実的に不可能だ。それに、正規の一個軍団の指揮が身分の低い私などに与えられるなどと、うぬぼれてもいない。基幹部隊を育成することこそが、主な任務ということは理解している。

 そんなことを考えているうちに、ふと右側へ目をやると、捕虜を収容している囲いの横にもう一つの小さな囲いがあることに気がついた。

「将軍、あの囲いはなんですか」

「ああ、あれは捕虜の士官がいる所だ。前にもいったが、士官はダメだぞ」

 捕虜の士官がこちらに寝返ってくれるとは思えないが、なにかに導かれるように士官が閉じ込められている場所へ向かう。

 簡易な柵のむこうには数人の男たちの姿が見えるが、近づいていく私に誰も興味を持つ様子はない。一人の男が足を引きずりながら天幕の方へ向かう。その時、その男の顔に見覚えがあるような気がした。

 記憶の糸をたどる。新兵として鍛えたのか、いや違う。あの男と会ったのは比較的最近のことだ。足を引きずっているということは、怪我でもしたのだろうか。

 ああ、そうだ。その横顔を鮮明に思い出した。たしか、ギュッヒン侯の末っ子と戦ったときに、羊たちに投槍でやられた重騎兵の男だ。手当をして放置しておいたが、無事に戻ることができたのか。運がいいのか悪いのか、残念ながら刑場の露と消えることになるだろう。あの男ならなんとかなるかもしれない。すぐにタルカ将軍のところへ戻る。

「将軍、さきほど私にひとつ借りだとおっしゃいましたよね。さっそく、その借りを返していただきたいのですが」

 苦虫を噛み潰したような顔で、タルカ将軍はいった。

「士官はダメだといったはずだが」

「一人だけです。あの足を引きずっている男が欲しいのです。あの男には貸しがある。重騎兵の経験は、余人に代えがたいものになるはずです。重騎兵は西方での決定的な武器になる。なんとかあの男をもらえませんか」

 処刑される人数が一人減ったくらいで、将軍が困ることはないだろう。だが、経験豊富な重騎兵の経験を受け継ぐことができれば、その恩恵は計りがたい。

「説得できなければ諦めます。無理を承知でお願いしているのです」

 将軍が副官をよび、何事か指示を与えた。

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