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徴募

 集まる視線。

 無気力にこちらを眺めるもの、何事かと険しい顔で睨むもの。

 ざっと五十名ほどの人間がぞろぞろと集まってくる。ここにはおおよそ五百の兵士がいるということだったので、やっと十分の一にすぎない。

 声がうわずらないように、腹に力を込めて号令をかける。

「西方軍団長のローハン・ザロフだ。諸君の処遇について重要なはなしがある。すぐに全員を集めてくれ」

 反応は鈍い。

 どうしていいかわからないのか、見知らぬお偉いさんの命令なんぞ知ったものかというつもりなのか。

 いや、そんなことはどうでもいい。動かない()()をどうにかするのは、教官トレーナー贈物ギフトを持つ私にとっては本業だ。今度は新兵教練の要領でいこう。大きく息を吸い込むと、腹の底から命令を絞り出す。

「ぼさっとするな! これから諸君の将来についての重要な伝達事項があるといってるんだ。後になって知らなかったとか、聞いていなかったとかは通用しないぞ。さっさと、その足を動かして全員をここに集めてこい!」

 兵士たちの、きょとんとした表情。

 パチン!

 大きく打ち手を鳴らす。

「さあさあ、さっさと仲間を集めてこい! 動け!」

 げんとした命令には、つい従ってしまうのが兵士の性。もちろん全員が動き始めたわけではないが、半数くらいの男たちは踵を返し、思い思いの方向へ散っていった。


 ぞろぞろごそごそ、男たちが集まってくる。五百といえば、大隊規模だ。饐えた臭いと、人いきれすら感じる。

 一人の人間が直接指揮できる兵の数は、六十名くらいだといわれている。もちろん軍団を指揮する軍団長は五千四百の兵を指揮するわけだが、直接命令を下すのは十名の大隊長だ。大隊長は三名の中隊長に命令を発し、中隊長は三名の小隊長に指示を与える。しかし、小隊長は六十名の兵卒に命令を下さなければならない。小隊の六十名という数は、指揮できる兵士の数を元に定められているのだ。つまり、兵士を指揮・訓練するという私の教官トレーナー贈物ギフトでは、この集団を御することはできないということだ。

 全員が集まったのかどうかはわからないが、人の群れが動きを止めたところで姿勢を正す。良い号令はは良い姿勢から。

「西方軍団長のローハン・ザロフだ」

 ざわめきが収まるのを待つ。ざわめきに声をかぶせると、一層うるさくなるものだ。

「ここに集まった諸君に、重要なはなしがあってきた」

 自分たちに関する事柄ならば、聴こうという気持ちも生まれる。

「そう遠からず、諸君が反逆に加担したことに関する処罰が科せられるだろう」

 再びざわめきが起こる。

「処罰の内容はわからないが、そのまま無罪放免とはいかないことだけは間違いない」

「俺たちは上官の指示に従っただけだ!」 

 兵士から怒号がとぶ。

「わかっている。そうだ、上官の命令に従うのが兵士の務めだ。だが、結果としてギュッヒン侯の軍とともに戦った事実は変わらない」

 すでに侯でもなんでもないギュッヒン将軍に、あえて侯という尊称をつけることでギュッヒン侯の信奉者を刺激することを避ける。ざわめきはどよめきにかわる。

「だが! だが! だが!」

 もうこうなっては静かにすることは不可能だ。どよめきを吹き飛ばすように吠える。

「私は正式な命令を受けてここに来ている。諸君を救う為の命令書だ!」

 一拍置いて、どよめきが収まるのを待って続けた。

「いま、わが西方軍団では兵士を募っている。西方軍団に参加するのであれば、すべての罪は許される。ただし三年従軍すれば、だが」

 目配せ、どよめき。兵士たちが一斉にお喋りを始める前に、追い打ちをかける。

「ひとつだけハッキリとしていることがある。戦場である限りは命を失うこともあるかもしれない。だが、西方では誰が敵で誰が味方かなど悩む必要はない。我らが同盟者キンネク族以外は全て敵だ。武勲をあげれば、士官にだってなることができるぞ。このストルコムは先日まで下士官だったが、士官に昇格した。どうするかは諸君の意思に任せる。西方軍団へ志願するものは、明日の昼に申し出て欲しい。以上だ」

 いいたいことは全て伝えた。どうなるかは、明日になればわかるだろう。

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