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虜囚

 低く垂れ込めた雲は、いまにも大粒の雨をまき散らしそうだった。

 反逆者として虜囚の辱めを受けている兵士たちは、都の郊外にある近衛部隊の駐屯地にいた。

 もっとも、辱めなどと思っているのはギュッヒン侯の信奉者だけであり、ほとんどの兵士たちにとっては上官のいうがままに戦い、なぜか反逆者とされたというのが現実だろう。

 急ごしらえの柵に囲まれ、野営用の天幕に暮らす捕虜の姿は、一見するとただの兵士に見える。

 五百の捕虜を見張る兵士たちの姿はまばら。捕虜が一致団結して反乱でも起こそうものなら、容易に逃げ出せるように思えるが、うなだれた敗残兵には一か八かの賭けにでるような覇気はなかった。

 そもそも、よほど身分が高い戦士以外は、捕虜などというものにはなりえない。雑兵の命は十把一絡(じっぱひとからげ)げで、その首の数でのみ評価されるものだ。しかし、今回の戦いは内戦であり、どちらも同じ国の人間である。人という国家の基幹をなす財産を失うことは、国にとっても大きな損失となる。故に、敵軍として戦った兵士たちの処遇については、合理主義者のタルカ将軍にも思うところがあったはずだ。ギュッヒン侯の亡命先に近い北方軍団に配属するのは危険すぎるし、処罰を求める人々の声もある。西方軍団とは因縁を持つ兵士もいるだろうが、私が引き受けるのが最善の策といえなくもない。それが笑顔の意味だったのだろう。

「捕虜といっても、五百ほどが武装を解除されて柵の中に閉じ込められているだけだが、君が引き取ってくれるのであればうれしいよ。だが、士官はダメだぞ。兵士と違い、士官には責任を取ってもらわなければならない」

 タルカ将軍は、こちらを見て笑う。

「将軍、いくつか質問をいてもかまいませんか」軽いうなずきを確認してからことばを続ける。「ギュッヒン侯側についた士官の中には、すでに免責を得て家に帰っているものもいるという噂をきいています。一部の士官には責を問わず、別のものには問うのは不公平ではありませんか」

 将軍は渋い顔をしてから、ひとつ大きなため息をついた。

「やんごとない方々が保証するというのであれば、軍人ごときが異議を唱えるわけにはいくまいよ。ここに残っているのは、低い身分からに取り立てられた連中だ。ギュッヒン侯への忠誠は揺るがない。それに、生け贄も必要だからね」

 捕虜となった士官は反乱の責を負わされるのだ。名誉のない絞首刑か、それとも磔刑たっけいか。一般の兵士は、鉱山送りくらいが適当か。

「それでは君のお手並み拝見だ。どれくらい徴募できるか楽しみにしているよ。私を快く思わないものもいるので、このあたりから眺めているよ」

 捕虜の中には、タルカ将軍へ恨み骨髄に徹するものもいるだろう。さりげなく捕虜たちを外からみることにするらしい。

 イングとストルコムに目配せをして、捕虜たちの方へ歩みを進める。

 イングには拳闘ボクシング贈物ギフトがある。素手の相手には滅法強いから、捕虜たちが暴れだしてもなんとかしてくれるはずだ。歴戦の古参兵であるストルコムが睥睨へいげいすれば、大抵の兵士は震え上がるだろう。頼りになる二人と比べると、なんと自分の小胆なことか。

 柵の入り口に立つ兵士に書類を見せると、黙って兵士は扉を開いてくれる。三人の侵入者に数人の俘虜たちがこちらに視線を向けるが、すぐに興味を失ったようでそっぽを向いた。

「一同注目!」

 ストルコムが銅鑼声を張り上げる。戦場でもかき消えない腹から送りだされた怒声に、男たちの目が集まる。

「一同注目!」

 古兵ふるつわものの叫びで、だらけたような無気力な空気が一変する。

「一同注目!」

 十分に間をあけた三度目の咆哮は、元兵士たちを天幕から引きずりだした。

「西方軍団軍団長より、お前たちにはなしがある。謹んで聞くべし」

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