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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白薔薇を君に

作者: 花衣

魔力で動く車とか出てきます。車便利、バンザイ(御都合主義)

「提案があるんだけど、いいかな?」


「なんでしょうか」


「婚約を破棄しない?」




「は?」




 ある晴れた昼下がり、王都にある貴族に人気のカフェのテラスで制服姿のいかにも上級貴族と言わんばかりのオーラを纏っている麗しい青年と美しい少女がいました。

 2人は婚約中のようで仲良く話していましたが、話題が一区切りついたあと青年が爽やかな笑顔でトンデモない提案をしました。少女は何を言われたのか一瞬理解ができませんでした。しかしさすがは上級貴族(仮)、すぐに状況の整理をしはじめました。




「破棄とは、何か理由があるのでしょうか。わたくしには、思い当たることがありませんの。」


「理由ね、あるけど言えないかな。」


「理由を教えていただけないのに婚約の破棄を了承するわけにはいきませんわ。気分が悪いので本日は失礼致します。」




 婚約破棄の理由を教えてくれない青年に、怒りと悲しみの表情で席を立ち、きちんと自分のお会計だけを済ませカフェを後にする少女。

 残された青年は深くため息をつき、残りの紅茶を飲みほしテラス席から見える少女の背中を見つめていました。






 所変わって、ここはとある公爵家の執務室。当主の公爵がもくもくと執務をこなしている最中に、ノックの音が聞こえます。




「どうぞ。」


「お父様、お話があります。」


「メイか、どうしたんだ?まあ、そこに座りなさい。」




 公爵は40代前半のイケオジ。先ほどの少女改め、メアリージュンの父親でもあります。いつもは元気いっぱいの娘が婚約者との放課後デート(侍女からの報告)で何があったかは粗方把握しています。娘の正面に座り執事が淹れてくれた紅茶で喉を潤すと、優しく問いかけました。




「殿下となにかあったのか?」


「……エド様に、婚約を……破棄しないか、と言われました……」




 公爵の問いかけにメアリージュンは、しばらくの沈黙の後に震える声で今日の出来事をぽつりぽつりと話し始めました。メアリージュンの話を優しく、黙って聞く公爵。話し終え、少し冷めた紅茶を飲み鼻をすするメアリージュンの隣に腰かけた公爵は、優しく頭を撫でました。




「メイ、殿下の性格はわかっているだろう?あのお方は言葉が足りない。近しい者には特にだ。メイは殿下との話を途中で終わらせて帰ってきてしまったのだろう。まだその話には続きがあるかもしれなかった。それに毎日花の贈物をもらっているのに不自然だとは思わないかい?」


「お父様……エド様は確かにお言葉が少々足らず、周りの方々に誤解を与えてしまいます。でも、今回は婚約を破棄しないか、と言われたのです。理由があるにしても、それだけで十分ではないですか?」




 メアリージュンの婚約者の青年はこの国の王子様なのです。王子エドワードは外見はとても良く、公務もできる優秀な方ですが、一つだけ欠点があります。それは【言葉が足りない。】説明、話をするにしても端折りすぎて、誤解を与えることが多いのです。学園では皆が理解をしているので、円滑なコミュニケーションが取れますが、公務には凄く出来る側近候補がいつもついてまわります。公爵は今回の件も言葉が足りなかったせいで起きたすれ違いではないかと予想しました。

 メアリージュンはそのことも十分理解していましたが、今回はいつもとわけが違うと思っています。婚約破棄、このたった一言でいくら言葉が足りないエドワードでも、これ以上言葉の含みは無いと思ったのです。





「それは私にはわからないよ。今日はもう遅いから、明日殿下ときちんと話し合うといい。」


「わかりました、明日エド様と話してみます。」


「うん、いい子だ。さあ、あともう少しでディナーの時間だ。準備をしようか。」




 少々頑固なところがあるメアリージュンに公爵は、お互いもう少し話をする必要があると諭しました。メアリージュンは納得がいかない様子でしたが、これ以上公爵の邪魔は出来ないと思い、執務室を後にしました。





「さて、この後の展開は殿下にかかっている。どう転ぶかはわからない。でもきっと明日のメイは笑顔で帰ってくるだろう。」




 執務室に響く公爵の声は少し寂しさが感じられたのでした。






 翌日、メアリージュンは重い足取りで学園に向かいました。昨日の出来事になかなか寝付けず、うっすらと隈ができ、まだ少し腫れている目を気にしながら何度もため息をつきます。




「お嬢様、そうため息をついてばかりだと幸せが逃げていましますよ。」


「いいのよレナ、もう幸せは逃げているもの。」


「私にはまだお嬢様の幸せは逃げていないように見えます。」


「どうして?昨日エド様に婚約破棄の提案をされたのよ。わたくしの幸せはエド様のお嫁さんになることだったの、ずっとずっと好きなのよ?なのに、っ」


「泣くのにはまだ早いですよ。さて、学園につきました。準備してくださいね。」




 さばさばとした性格の侍女に優しく涙を拭かれ、更に泣きそうになったメアリージュンは学園につくと分かれば気合で涙を引っ込めました。日々の王妃教育で、家族の前以外ではむやみやたらに泣かないと教えられています。淑女の鑑と言われているメアリージュンは気合をいれ、車を降りました。ちなみに、この世界には魔力で動く車があります。貴族はこの車で出かけます。

 俯き深呼吸をし、歩き出そうと顔を上げるとそこには昨日婚約破棄の提案をした本人、エドワード殿下が立っていました。なぜ、そんなところにエド様が?と思ったメアリージュンでしたが、驚きと心の準備が出来ておらず固まってしまったのでした。

 そんな学園イチのビックカップルの珍しい状況に他の生徒達は何事かと遠巻きに眺めています。みんな気になるけれど、余計なことには巻き込まれたくないんです。




「メア、昨日はすまなかった。あの後スコットに怒られたよ。また言葉が足りないってね。」


「い、あ、あの」


「あの話には続きがあったんだ。本当は昨日言うつもりじゃなかったんだよ。もっと最高な状態でしたかったけど、あまりにもメアが可愛くて愛しくて我慢が出来なった。」


「え?」




 急なあまーい雰囲気に周りは砂糖を吐きそうになるが、きっと面白いものが見れると我慢しながら見るのです。しかしメアリージュンだけは状況が理解できず、言葉になっていない声が出ます。昨日婚約破棄の提案をした婚約者がいつもは言わないような言葉を言っている??これは夢なの?頭のなかで問いかけます。

 すると先ほどまで前に立っていたエドワードが片膝をつき、メアリージュンの白魚のようなきれいな手を取り、優しく口付けると




「メア、婚約は破棄して、すぐにでも僕と結婚してくれないかい?」




 エドワードがパチン、と指を鳴らすと1本の白いバラが現れました。スッと立上りそのバラをメアリージュンに挿頭ました。どうしたらいいのかわからないメアリージュンにエドワードは微笑みこう言います。




「白いバラはメアの一番好きな花だよね。白いバラを結婚式の日まで毎日1本ずつ贈る。今日のこの1本は『あなたしかいない』って意味。結婚式は107日後、意味、わかる?」




 いっぱいいっぱいのメアリージュンでもこの言葉の意味は分かります。この学園で最終学年の二人は卒業したらすぐに結婚式をする予定でした。そう、107日後は結婚式の日にちです。

 いままで悲しい気持ちだったメアリージュンは、幸せいっぱいに微笑むと涙をぽろぽろと溢し、エドワードを見つめます。




「はい、わたくしはエド様のお嫁さんになるために今まで頑張ってきました。その夢が叶うのです、こんな最高な日は今までにありませんわ。」




幸せそうな二人を温かい目で見守っていた学友たちは、惜しみない拍手で二人を見送るのでした。

それからと言うもの、結婚式までの間に108本のバラを花嫁に送ることが流行ったりしたとかしないとか……

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