第一章 復讐の炎 勇者の娘
4.勇者の娘
次の日から本格的に学園生活が始まった。朝はシエルと待ち合わせをし、クラスまで一緒に登校する。この聖アルテミス学園は入学できればお金が必要ない仕組みとなっているが食事は別であるため、お昼はシエルの分も含め、俺が弁当を作ることにした。それを渡すと天使のような笑顔でありがとっと言い、Bクラスの方へ歩いていった。
俺も自分のクラスであるDクラスに向かう。もうすでに結構の人が席に座っていた。大丈夫だとわかっているがこれだけいると自分の正体がバレやしないかドキっとする。
「あっ、はじめまして、僕はニックっていうんだ。これからよろしくね」
自分の席に着くと隣の男の子が挨拶してくれたのでそれに笑顔で返す。
「俺はリオンだ。これからよろしくな」
それからニックと他愛もない話をした。隣の席がいい人そうで安心した。ここ数年で俺の人間嫌いもだいぶ薄れてきたと思う。これならやっていけそうだ。
「あっそうだリオンこれは聞いた噂なんだけど..」
ニックが俺に何か言おうとした瞬間、教室の扉がバンっと音を立てて開く。長髪のいかにも厳しそうな女性が入ってきた。おそらくDクラスの担任だろう。
「静かに、私が今日からこのDクラスを担当するマリア・クラインだ、よろしく頼む。さっそくだが君たちには自己紹介から始めてもらおうか」
先生の指示に従い、番号が早い順から生徒が名前や出身などを告げていく。それを俺は聞き流していた。Dクラスには復讐対象はいない、奴らの子供ならきっと全員Aクラスだろう。なら適度に顔と名前を覚えて当たり障りのない程度に仲良くしておけばいい。ある者の姿を見た瞬間、ぼんやりとしていた意識が覚醒する。
「ユウナ・シャーロットと言います」
確かに初対面のはずだ。しかしユウナと名乗る少女には何処か見覚えがあった。
ふと横にいるニックが俺近づき、小声で話しかけてくる。
「あの娘のことだよ、さっき言おうとしてたのは。彼女はあの有名な勇者の娘なんだって」
その言葉で思い出した。見覚えがあったのはあの瞳だ。魔王を前にしても全く怯みもしなかっだ力強い瞳、それを彼女も持っているのだ。あの日のことを思い出し、ドクンと心臓が跳ねる。奴が俺の復讐対象か。
だが魔王を討った勇者の娘だというのに教室の雰囲気が少し変である。全く好意的に感じないのだ。この国では勇者は英雄だろう、ならその娘も英雄の娘として持て囃されるものではないのか。しかし明らかに嫌悪感を示したものばかりだった。
「ニック、なぜ彼女は勇者の娘なのにDクラスにいるんだ?普通Aクラスだろ」
疑問を解消するため、ニックに尋ねる。Dクラスは悪く言えば入学試験の落ちこぼれが集まるクラスだ。最初から入学が決まっていた英雄の娘ならここにいることがおかしい。しかしニックは俺の質問にびっくりしていた。
「リオン、知らないの?勇者がこの国を裏切って処刑されたこと」
勇者が処刑?そんな大事なこと俺は知らない。心の中がざわつく。既に一番の復讐対象が死んでいる事実を俺は受け入れられなかった。しかしなぜだ、勇者は魔王を討つことができたのは聖剣を持つ勇者だけだ。魔王が倒れた以上、勇者が裏切ったとは考えにくい。
しかし、それならば納得できる。嘘か真かはわからないが勇者は裏切り者として処刑され、その子供がこの学園に入学してきたというわけだ。他の英雄の子供達はAクラスであり、彼女がDクラスである理由も説明がつく。勇者本人がいないならその娘が一番の仇ということになる、予想外の出来事ではあるが俺にとっては好都合だ。
俺は当たり障りのない自己紹介をして、自分の席に戻る。特に問題はないはずだ。話せる友人も数人できたし、勇者の娘も把握することができた。後はAクラスから復讐対象を割り出すだけだ。…いや、あとでシエルの教室も見に行こう。
これが俺とユウナとの出会いだった。
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