第一章 復讐の炎 手段、目的
2.目的、手段
命からがら勇者だちから逃げ切ることができた。しかしもう魔界には戻ることができない。俺と妹であるシエルは魔界では顔が割れているため、見つかったら捕らえられてしまう可能性が大きい。必然的に人間界で生活するしかない。
「リオン、これからどうするの?」
シオンが不安そうな顔で訪ねてくる。これからは二人きりで生きていくしかない。幸い何があってもいいように人化の能力は身につけている。余程のことがない限り、普通の人間には魔族であることはバレないだろう。
「もう魔界にはいられないから、人間界に行くつもりだよ。大丈夫、何があっても俺が守るから」
そう言ってシエルの頭を撫でると少し表情が和らいだ。
「ならシエル人化はできるかな?これから人間界に向かうからその姿だとマズいからね」
コクっと頷き、姿を変えていくシエル。魔王の血族である象徴の禍々しい角も消え、見た目は人間の美少女だ。それを見て俺も人化をし、シエルと共に人間界を目指すのだった。
人間界での生活は大変だった。誰も知らないような王国の片隅にある村に孤児の兄妹として迎え入れてもらったのはいいが、非常に貧しく、その日の食料にも困るくらいだった。
それでもシエルとの生活は貧しいながらも幸せだった。毎日、早く起き、村の仕事をして、汗を流し、食事をとって寝る。唯一の家族であるシエルを守ることが俺の生きがいになっていた。
しかし俺は一日たりともあの日の光景を忘れたことはない。シエルと過ごす日々は確かに俺を癒してくれるが、同時に満たされないものもあった。この憎しみは奴らに復讐することでしか消えることはないだろう。いや復讐しても消えることはないのかもしれない。
忙しい日々の合間を縫って俺は人間界のことを学習した、復讐の機会を伺うために。
こんな辺境にある村なため有益な情報はあまり手に入れることはできなかったが、この国には学校と呼ばれる教育施設があり、その最高峰である聖アルテミス学園には将来を有望視された者達が集う。噂では将来勇者達の子供も通うことが約束されているらしい。
俺は心に決めた。その聖アルテミス学園にいくことを。そして家族の仇である勇者達の子供達に会い、復讐を果たすことを。人間界で力を伸ばせば魔族達の首も刈ることができる。俺が人間界で上り詰めた時に勇者達にも裏切った魔族達にも復讐のすることができる。この日から学園に通い、復讐のために昇り詰めることが俺の目標となった。
そのために俺は少ない賃金を学習道具に当て、毎日、勉強と特訓に明け暮れた。なぜかシエルも俺に倣って一緒に勉強を始めた。
そうして何年かの月日が流れ、聖アルテミス学園の一般試験の日となる。試験は実技と筆記と面接だった。実技と面接は大丈夫だろう、しかし魔族である俺は聖なる力を持たない。魔力は持つが使うと魔族であることがバレてしまう。この日までに鍛えた体術でどうにか乗り切った。後は試験結果を待つのみだ。
張り出される大きな紙に自分の名前があるか順に探す。…名前があった、これで無事学園に入学できる。ふと隣を見るとシエルが張り紙を見て何かを探している。
「あっ私の名前もあった!これで同じ学校に通えるね、リオン♪」
..シエルも試験を受けていたのか。俺より全然勉強時間はとっていなかったはずだが、頭の作りが違うようだ。シエルは俺よりも少し年下だが双子だと誤魔化して試験を受けたらしい。この数年で人化の能力も段違いになり、もはや誰が見ても紛うことなき人間だろう。シエルはここ数年で大人びた外見となり、もはや俺の姉と言っても皆信じるレベルとなっていた。
「でもこれであの村の人達ともお別れだね..」
聖アルテミス学園は全寮制であり、入学すると学生は全員寮生活となるらしい。そのためこれまで過ごしてきた村を離れなくてはならない。
「今生の別れという訳でもないさ、また卒業したら会いに行けばいいだろ」
別れとは寂しいものである。あの日のように頭を撫でるとシエルは涙を浮かべながらも笑顔で頷いた。
この数年間で俺にも心の変化があった。それは村の人達の優しさに触れたからだ。戦いの中でしか人間を見てこなかった俺は人間は全て醜いものだという認識だった。しかしそうではなかった、心の優しい人間もいるのだ。村の人達はそう俺に教えてくれた。
人間が憎くなくなったわけではない、だだ全員が復讐対象ではないということだ。だからこそ、俺の家族を殺したもの、裏切ったものが絶対に許せない。
そう、ここから俺の復讐が始まるのだ。
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