第一章 復讐の炎 プロローグ
1.プロローグ
目の前で俺の家だった魔王城が轟々と燃え盛っている。あの中にはまだ俺の父や母、仲間たちが残って戦っていた。それを俺は逃げながら、見守る事しかできない。この光景をきっと一生忘れることはできないだろう。そうして俺の大切なものと共に魔王城は落ちたのだった。
必死で走る、走る、走る。俺に行く宛などない。全ては魔族と人間の小さな争いから始まった。それは瞬く間に全土に広がり、戦争へと姿を変える。初めは魔王である俺の父が率いる魔王軍が優勢にことを進めていた。相手はただの人間だ、力の差は歴然である。は奢る事なく駒を的確に動かしていき、王国の陥落一歩手前まで人間を追い詰めたのだ。魔王は何度か人間に和平条約を結ばないかと持ちかけたがそれを愚かにも人間の王は蔑ろにした。もはやどちらかが滅びる道しかなくなり、王国に攻め入ろうとした時に突然風向きが変わった。
勇者の登場である。選ばれたものしか抜くことのできない聖剣を抜き、力のある者達を集めた勇者はそのパーティだけでこれまでの劣勢を覆していったのだった。
しかしそれごときで遅れをとる魔王ではない。勇者誕生時こそ隙を見せたがそれからは五分五分の戦いを見せる。戦いが長引けば長引くほど互いに疲弊していく、このままでは共倒れだ。それからも機を見て停戦を申し入れるが尽く足蹴りにされる。苦悩する魔王は自分を信じる部下、民のためにも戦い続けるしかなかった。
そしてついにこの日がやってきたのだった。
魔王城で指揮をとる魔王の元に火急の知らせが入る。魔王城に勇者軍が攻め入っているとのことだった。ここに勇者達がいるのはおかしい、先日の報告からある程度の場所は推測していたがあまりにも早過ぎる、これではまるで…
バンッッ‼︎‼︎‼︎
突然、魔王の部屋の扉が荒々しく開かれる。そこにいたのは魔王を倒さんとばかりに剣を構える勇者達と父の部下だった魔族達だった。
そこで魔王は全てを悟る、自分が裏切られたことに。責めて家族だけはでも..そう思いバレないように城の外に子供達を飛ばす。魔王は自分の妻も逃がそうとするが、妻は決して魔王の手を離すことはなかった。死が二人を分かつまで..二人の誓いの言葉を守るため最後の瞬間まで共に戦うと心に決めていたのだ。たった二人と数名の部下と共に勇者達と対峙する。人間と魔王の長き戦いに終止符が打たれたのだった。
いや、まだだ、まだ俺が生き残っているぞ。崩れ落ちる魔王城を目に焼き付ける。
その光景を見ながら湧いてくる憎しみを抑え切ることができない。この激情をどこにぶつければいいのだろうか。そこで俺は一つの答えを得る。
復讐だ。
人間に、勇者に、その仲間に、そして裏切ったもの達への復讐だ。
それしかこの感情を、憎しみを鎮めてくれるものはないだろう。
俺はこの日の気持ちを忘れないため、魔王城が燃え尽きるまで見続けたのだった。
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