モグラに襲われた
「人間風情が俺様にたてつこうなんで100年早いんだ」
大きさにしたら俺の腰の半分くらいの大きさで黒っぽい毛皮に全身が覆われている。
なぜか目にはサングラスをして、手には身体に似つかないスコップを持っている。
頭には赤いバンダナを巻いている。
「いや、悪かったな。ここに畑を作ろうと思って掘り返していたら当たってしまったみたいなんだ」
「おんどりゃ、謝ってすむと思うなよ。この森のことを良くわかってないみたいだから言っておくが、俺を相手するなら魔獣ケルベルスかケンタウロスでも連れてくるんだな!」
スコップを地面に突き刺しながら俺に啖呵をきってくる。
だいぶめんどくさい奴に絡まれてしまった。
それにしても、この森の魔物は普通に言葉が話せるんだな。
この森の独自の生態系ができてはいるようだが、シルバーラビットも話せたりするのだろうか。
話せるとちょっと食べるのに抵抗がでてしまう。
「なんだこの野郎。俺のこと無視するつもりか? そっちがその気なら俺にだって考えがあるぞ。出て来いお前ら!」
そのモグラが大声をあげると畑予定地から沢山のモグラがでてくる。
「おぅこいつが俺のこと舐め腐っているみたいだから、ちょっとみんなでやってやろうぜ!」
「おぅ!」
集団が一気に襲ってくる!
地面から飛び出し武器を構えるモグラたち。
これだけの数を1で相手するのはなかなか難しい。
「どうしたんだ? ダン。お客か?」
ポチが俺に声をかけてくれる。
「モグラの集団に襲われているんだ。助けてくれ」
ポチが俺の横まで来た時点でモグラの半分くらいは地面の中に消えていった。
撤退の判断が早すぎる。
「モグラに絡まれてしまって。今から俺襲われるみたいなんだ」
「ほぅ。ダンを襲うのか。じゃあ俺がまずは相手になってからだな」
「ちょっと待て、ポチ殿。ここは新入りの私が」
タロスが大きな斧をブオン、ブオンと振り回してでてくる。
「嘘だろ。なんでミノタウロスがこんな奴の言うこと聞いてるんだよ。しかもこの巨大な犬の気配はなんだ。勝てるわけがない」
タロスが横に並んだ頃には、最初に絡んできたモグラ以外ほとんど数がいなくなっている。
「タロスさん、ここは私が行きますよ。無駄飯ぐらいと言われたらかないませんからな」
最後にジャミルがでてくると、数匹モグラが戻ってきた。
どうやら、俺とジャミルはこいつらに舐められているらしい。
「ちょっと、モグラが増えて心外なんですが。なんですかこのふざけた奴らは」
どうやらジャミルのプライドが傷ついたようだ。
「向こうも一斉に襲ってきたから、こっちも全員で戦えばいいんじゃないかな」
「そうだな」
「私の力を存分に発揮しましょう」
「森の民の力を舐めるなよ」
全員が魔力を込め出すと、その威圧感だけで森の木々から鳥たちが飛び立っていった。
最初のモグラは一度穴の中に戻ると白い布を取り出し、ひらひらと掲げる。
どうやら降参らしい。
まぁ弱い者をいじめるのは可哀想だからな。
俺だってこれだけの威圧をくらったらまともに立っているのも嫌になる。
死なないだけさすが終焉の森の魔物ということだろう。
「じゃあや……」
攻撃を辞めてあげようと思ったところでポチが吠える。
「グォォォォォ!」
ポチの魔力が空に向かって放出される。
少し曇っていた空は雲が消え快晴になった。
魔法の振動で地面が揺れる。
「次はお前らに向かって放つ。死にたくない奴らは全員穴からでてきて並べ!」
「ヒャッ―!」
穴から総勢30匹程のモグラたちがでてくる。
やっぱり、目にはサングラスと手にはスコップが握られている。
どうやらデフォルトの装備のようだ。バンダナをしているのは一人だけだった。
でも、若干持っているスコップやサングラスの形がそれぞれによって違う。
「全員ここに並べ!」
ビシッとモグラたちが横一列に並ぶ。
「気をつけ!」
ポチは、街の兵士たちが毎朝やっていた訓練のようにモグラたちを並べる。
いったい何をしたいのか?
「お前らうちのダンに言いがかりつけて襲おうとしたみたいだな。万年Dクラスで甲斐性がないからって、襲うなんていい度胸しているな」
ポチ、俺は万年Cクラスな。しかも甲斐性がないわけじゃないし。
そもそもそんな理由で俺は襲われたくない。
俺がポチの方を見ているとポチはニコリと笑っている。
あれは……ポテチが食われそうだと言っていた笑顔だ。
人によって見え方は変わるからな。
だが、何人かのモグラたちはポチの笑みを見た瞬間、泡を吹いて倒れだした。
極度のストレスを受けたようだ。
最初に俺に絡んできたモグラが俺の前で頭を地面にこすりつける。
「いやー何か勘違いがあったみたいですね。俺っちはここの畑を耕すのを手伝うと思って声をかけたんですが、誤解があったみたいです。なぁみんな」
いきなり言い訳を始め、他のモグラたちに同意を求めたが、他のモグラは誰一人頷くことはなかった。裏切られたようだ。
「どうやら違うようだぞ」
「すみませんでした。生意気いいました。どう見ても弱そうだと思ったので上手く使ってやろうかと思いました」
モグラが正直に俺のことを舐めていたと言って来た。
まぁ仕方がないことだけどな。
「ダン、どうするんだ? 食えるなら飼ってもいいぞ」
「いや、こいつらはどう見ても美味しくなさそうだろ」
「そうです。そうです。食べても美味しくないです」
モグラは俺に同意しながら上下に首を激しく振っている。
「じゃあ殺して畑の肥料だな」
あっさりとジャミルがヒドイこと言ってきた。
よっぽどさっき舐められたのがしゃくに触っているのだろう。
畑の肥料か。埋めて置けば土の中で分解してくれるだろうか?
いや、でもそれはそれで可哀想な気もする。
「どうか、ご慈悲を」
「まぁそうだな。俺たちはここに街を作ろうと思っているから邪魔したり、しないなら逃がしてやってもいいよ」
「えっ街を作るんですか?」
「そうだよ。ここを開拓していいって言われているからね」
「それなら、俺たちもここで働かせてください。畑を耕すのは得意なので」
「別にいいけど、俺を襲うつもりなら辞めてくれよ」
「もちろんです。そのかわり、畑に野菜ができたらぜひ、それを少し分けてもらえればと思うんですがどうでしょうか?」
「それくらいならいいよ。じゃあここの畑は任せるから。植えるのはまずはこの芋から頼む」
「任せてください。必ず役に立ちます」
こうしてモグラたちが仲間になったが、実はこいつらのスキルがとんでもないことを二日後に知ることになった。
面白かったらしたの★とブックマークの方よろしくお願いします。