表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

匂いの糸

作者: 銀狼

春の、甘い匂いがする。


匂いの記憶は強烈だ。


鼻がつんとするほど冷たい冬の匂いは、君と初めて出かけた季節の匂い。

むっとする情熱的な夏の匂いは、君に抱かれて眠った日々の匂い。

香ばしくて切ない秋の匂いは、君とお別れした日の匂い。


そして、甘いくせにどこかひんやりとしたこの匂いは、春の匂い。

永遠を誓った日の、匂い。


雨の匂いからは君と歩いた商店街を、カラっと晴れた午後の匂いからは君の背中を、思い出す。


匂いの記憶は強烈だ。



君がくれた匂いの記憶と、二人で育てた時間の記憶が重なって、混ざって、つながって、一本の糸になる。

糸は、君と僕とを、つないでく。


でも、君はきっと忘れてしまうから。二人で育てた時間を忘れてしまうから。

そうしたら糸はきっと切れてしまう。

ほどけて、ほつれて、バラバラになってしまうから。


だから僕は忘れない。


いつかまた君に会ったとき、この匂いの記憶が、君が僕を見つける助けになるのなら。

今はただ辛くても、君のために僕はたくさんの匂いを拾っていくね。


君と僕とをつなぐ、糸。

その糸を色づかせるのは、いつだって君のシュッとしたシトラスの匂いだった。


今、色なんてない、か細くて弱弱しいこの糸が、いつか再び色づく日が来ることを願って。


今は、ただ、紛い物のシトラスが、幻想を見せる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ