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県立旭ヶ丘高校 青年消防団  作者: 水鏡 葉蔭
2/2

入団

消防団の勧誘でいきなり僕をダメ人間呼ばわりした瑞枝を思い出すまで正直、結構時間がかかった。

こんなに可愛かったっけ?

沢渡 瑞枝は幼馴染で、小学校の低学年の時に引っ越していった子だ


「藤丸は昔っからヘタレで何やっても続かないんだから。」

いや久しぶりとはいえ最初の一言でそこまで言われたらこちらとしてもムッとくるでしょ。

でもそれ以上になんで瑞枝がここにいるのか、それがわからない。

「なんでお前がここにいるんだ。」

「おばあちゃんのうちに戻ってきたのよ」

そうですか、舞い戻ってきたんですか。

「それはそうとその言い草はないだろう。ひどくね。」

「だって事実じゃない。サッカーだって、野球だって、」

「水泳は続けた。」

「サボってばっかだったけどね。何度私が引っ張り出したことか。」

かなりの部分が本当のことだから幼馴染というのは本当に怖い。

でもね、このポンポン返ってくるのも結構懐かしくて楽しいんだ。

まわりの先輩もあっけにとられた感じだった。


「おふたりはお付き合いされてるんですか。」

林道先輩がキョトンとしながら

「いいえ!違います。」


その時優理先輩が怪しい笑いを見せたのが気になった。

「瑞枝ちゃんは昨日入部希望を出してきたのよ。藤丸君も今日入部するのよね。」

「ダメですよ、こんなヘタレ。」

瑞枝が口を挟む。

「まぁ、でもそうよね。瑞枝ちゃんがいってることが正しければ藤丸君は3日も持たないわよ。まるでヘタレだし、瑞枝ちゃんみたいにかわいい子がそばにいたってやる気を出さないなんて男としてどうかと思う。」

いや、何もそこまで言わなくても、本人が目の前にいるんですよ

「優理先輩、そこまで言わなくても。」

瑞枝がそういった時思わず瑞枝を見てしまった。

お前が最初にダメ出ししたんじゃないのか?

「いや、でもそういったのは沢渡じゃないか」

部長に代弁してもらいました。

「そうですけど、藤丸のことよく知らない人に、そういうこと言われるのはちょっと。藤丸はやればできる子なんです。」

な、なんですと

今までのダメ出しは一体何

「だったら消防団だってやっていけるわよね。」

ちょっと考えて瑞枝は「やっていけると思います。」

何という変わり身の早さ。

「じゃあ、決まりね。」

林道先輩が「加藤藤丸入部っと」

「ちょ、ちょっと待ってください。僕の意思はどうなるんですか。」

「保護者がやれるっていうのよ。そこは男を見せないと。」

「そうよ、藤丸、やる時はやるって見せないと。」

結局、延々と優理先輩と瑞枝に説得され入部することになってしまった。

女は怖い。

でも正直な話、まんざらでもなかったんだ。


そんなこんなで部活動が始まった。

消防団の部活動初日は、やっぱり入団式だった。


部室は理科準備室室にある。顧問が理科の教員だからだ。まずは理科室で待たされる。

林道先輩に促され準備室に入る。

いつになくキビキビした動きの林道先輩。

紺にオレンジの切り返しが入ったツナギを着込んでいる。

入室すると机の上にはツナギと帽子が並んで置かれていた。

部屋に一歩足を入れると号令のもとに部長や優理先輩が敬礼している。軍隊ですか、これは。

思わず軽く会釈してしまう。

「これより入団式を始める。礼!」


着席した後、顧問が紹介された挨拶が始まる。

顧問は藤原先生だ。内容はざっくりいえば、旭ヶ丘高校消防団の馴れ初めから始まった。5年前に設立されたこと。消防団として遊びではなく実際に活動していること。そして年間の活動内容についてだった。


「本来なら労働に対する対価が支払われるのだけれど君達は高校生だ。賃金を払うわけにはいかない。ただし将来、消防士や救急隊員を目指すのであれば出来うる限りのバックアップをしたい。」

つまりは消防士の青田買いなんだ。

形式的なセレモニーが終わり団員紹介が始まった。


まずは3年から

部長の赤川先輩

身長は180を超えそうだ。

「俺は赤川だ。勧誘の時に顔は合わせていると思う。消防団に入った理由は極限まで自分を鍛えたいと思ったからだ。結果的に部活動で消防団が一番鍛えられると思ったから入団した。」

次はまだ初対面の先輩

「御手洗です。副部長やってます。消防士志望です。」

そして優理先輩

「平優理です。私は救急隊員、と言いたいけれど、看護系の学校につきたいと思ったから入団しました。」

続いて2年生この人も初めて見る人だ。

「速水です。僕はインフラの整備に興味があって防災の観点からインフラ構築を考えて見たくて入団しました。」

すいません、言ってることが難しいです。

林道先輩は

「林道です。俺はミリオタなんだ。消防団も元は軍隊組織を真似てるんで趣味が合うんだ。」

3年に比べて2年生は変わった人が多い、この時はそう思っていた。


「僕は加藤藤丸です。」志望理由なんてない

なんと言おう。

「なんとなく入団しました。」

いや、だって本当のことなんですから。

「沢渡瑞枝です。私は、私は消防士になりたいです。」



顧問としては、藤原先生が主任

平先生は女性で優理先輩の実姉ということだ。

あとは須賀先生の三人体制ということだ。


そのあと消防車を紹介された。


そう旭ヶ丘高校には消防車があったんだ

ちょっと驚いた。

「まぁ、消防団の払い下げで古いポンプ車なんだけどね」

それでもやっぱりすごい。まさか消防車を持ってるなんて

でも誰が運転するんだ。

「だから顧問が三人もいるんだよ。」

なるほどね。理解しました。




翌朝、朝練があるというので早めに通学してみた。集合場所は消防車前なのでトレーニングルームの前を通っていくことにした。ふと中を見てみると部長がベンチプレスをしている。一体何キロあげてるんだ。100近くないか?

「藤丸か、」やっぱり部長だった。「まだ早いだろう。」「部長こそ何時からやってるんですか?」

「この時間が一番空き時間が長いんだよ。」

そういって筋トレを続けている。

「じゃあ、俺先行きます。」


トレーニングルームから出ると声をかられた。

「君は消防団の人?消防団の部長すごいね。暇さえあれば筋トレしてるよ。もうはっきりいって筋肉バカだね。」彼はウェイトリフティング部らしい。そんな人からそう言われるなんて一体部長は何なんだ。

後日部長に何で筋トレ好き何のにウェイトリフティング部とか入らなかったのか、聞いてみたことがある。

「ウェイトリフティングじゃ生き残れないだろう」真顔で答える部長に、この人は一体何を目指しているんだろうと思った。


消防車前に部長が来た頃には大体全員集まりランニングから始まり、自重による筋トレが始まる。つまりは腕立て伏せや腹筋運動なんだけど速水さんは、運動が苦手らしくすぐに潰れてしまう。その横で肩腕立て伏せをしている部長。オーバーワークじゃないかと不安になる。


男性陣は本当に変わった人が多い。唯一まともそうなのが御手洗先輩だけのような気がする。

夕方の練習は消防操法訓練の基礎練習となる。

ホースを担いで走ったりホースの接続の練習をする。

ただし水は通さずに行っている。水を通すには広い場所も必要だし後片付けも大変なので普段は

そういえば、消防操法と言われても思い浮かばない人がほとんどだろう。僕も知らなかった。


ウィキペディアによると「消防操法は常備の消防職員や消防団の訓練の一つであり、基本的な操作の習得を目指すための手順であり、小型可搬ポンプ操法と、ポンプ車操法がある。設置された防火水槽から、給水し、火災現場を意識した火点(かてん)と呼ばれる的にめがけて放水し、撤収するまでの一連の手順を演じる。防火水槽・火点の位置、台詞、動きがあらかじめ決められている。全国規模で大会(郡市大会・都道府県大会・全国大会)が行われ、ポンプ・ホースなどの操作を速く正確に行うとともに、動きの綺麗さを競う。」とある。

競技中の動画をみていると例えば同期の仕草とか本当に実際必要なのか、と思わないでもないけれど速水先輩が言うには実際の現場ではこういった動きを訓練することでちゃんとした行動をとることが初めてできるのだそうだ。体に覚えこませて初めて現場に役立つのだそうだ。

こうした体力系に加えて資格も勧められた。

危険物を取れという。夏休みは乙四の勉強会らしい。


最初この訓練がとても辛くてかなりバテたよ。

男の僕でも正直厳しいかなって思ってたんだけど瑞枝が苦しい顔を見せながら弱音を吐いていないことを考えると、負けてはいられない


ゴールデンウィーク近くになると疲れはピークに達した。

昼下がりの授業はやっぱり眠い。

それでもそれを我慢して授業を受けている。

平和だ。本当に平和だ。

刺激はないけれどこうやって授業をまどろみながら受けていることは幸せなんだろうと思う。


ふと耳に電子音が耳に入る。防災無線のようだ。

「火災発生、火災発生」

火災、火災って、火事のことだな。

火事か、大変だなぁ。


火事!火事だと!

ふと我に帰る。


突然、クラスのドアを勢いよく開ける音がする。

「藤丸、いくよ!」

瑞枝が僕を呼んだ。

「お、おう。」席を立つとペンケースが机から落ち派手な音を立てた。

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