表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

終わりきった世界の中で

終わりきった世界の中で

作者: ビニール袋

嫌になるほど暑いあの日のこと

テレビではニュースキャスターが避難を叫んでいる

ありとあらゆる警報が鳴り響き

命以外は全て捨てろとそう言われている気がした。

パニックに陥る人間と裏腹に動かない入道雲が映るテレビ画面の嘘のような本当を嫌にはっきりと覚えている。


「おきて!」と哀羽(あいは)が僕を呼ぶ

何か、懐かしい夢を見ていたようだった

眠い目を擦りながら彼女が作った料理が置いてある机に向かう。

「なにか悪い夢でも見てたの?うなされてたよ?」

彼女は僕のことを心底心配していたのだろうその表情に不安が見える。

「ちーくん?」

「…大丈夫だからとにかくその恥ずかしい呼び方をやめてくれ、僕達もうアラフォーなんだから」

「アラフォーなんて死語なんだけど」

「そうなのか…」

朝からたわいのない会話をする、今朝の夢は何だったんだろうか…そう思ったが思い出すことは出来なかった。

今日は定期検診と、ヒーローとしての初出撃の日だ

いってくると、彼女に告げて指定された時間より早く着くように家をあとにした。



世界が終わってから19年が経った、高校生だった僕達はいつの間にか大人になって、終わった世界の壁の中で人類はまるで葉の後ろに群がる虫のように寄り添って生活をしている。

19年も経てば世界を終わらせた原因の「ヤツら」から身を守るぐらいのことはできるようになった、壁は三重に円を描くように出来ていて1番中心から1区、2区、3区、そして壁の中に入れなかった人達と建造中の壁がある第4区に別れている。

僕達は2区に住んでいる、1区ができた時には入れなかった、1区については謎が多く未だに何が中にあるのか分からないが噂では政治を司っているらしい、

前の世界と大きく変わったことと言えば、壁の存在と「ヤツら」と、ヒーローの存在ぐらいだ。

「ヤツら」の本体は飛来してきた隕石にたまたまくっついていた体長1センチほどのシャクトリムシのようは生命体だ。

始まりは小さな事件だった、ある国で女性が惨殺された状態で見つかった、そしてそれは街から州や国、やがて大陸全土にまでゆっくりとした速度で広まっていった、最初の事件から10年が経とうとしていたある日、初めてヤツらが人間の前にはっきりと姿を現した、ヤツらは白昼堂々繁華街の中へ現れた、最初は映画の撮影だと思っていた人々も1人目が頭から食われるのを見て蜘蛛の子を散らすように走り出した。

事態を重く見た政府は主要都市を囲むように壁を造った、僕らの街は少しずつ壁に囲まれていった、当然人々はそこに集まったが、国民に番号を振っていた政府はランダムに数字を呼び出し抽選で壁の中へ入れる権利を与えた、ただそれが始まったのは二枚目の壁以降の話だ、壁の中に入る権利は譲渡することができ、醜い争いの発端となったことは言うまでもない、

「ヤツら」の厄介なところは寄生した生物を強化させるところにある。

たとえば、海鳥に寄生したとするなら肉食性で凶暴な海鳥が出来上がる、そして動物を食べた場合その動物の特性や特徴を引き継いだキメラになる。

奴らにとって動物とはエサでしかなく人間もその例外ではなかった、壁を保つことでなんとか身を守っているのが現状だ。

当初は空からの攻撃も考えられたが捕食を繰り返すことで巨大になっていく体で30メートルにもなる壁を超えることはできなかった。

ただ、ぼうっとなんとなく色々あったなぁなんて考えていると、彼女の待つ家にたどり着いた。

いつもどうりドアを開け、短い廊下を歩き左側の部屋に入る、診察室には少し汚れた白衣を着た金髪の軽くウェーブがかった髪を腰のあたりまで伸ばしている少女が丸椅子に座っていた。

「そろそろ来る頃だと思っていたわ」

金髪少女はそう言った。




「…久しぶりですね、ライラック先生」

「リリーでいいって言ってるじゃない、それともご主人様でもいいのよ?」

「そうでしたね…俺が先生のことをご主人様と呼ぶ未来はありませんが、改めましてお久しぶりですリリー先生」

「そうね、大体1ヶ月と2日と3時間と46分と26秒ぶりかしら」

「そんなことまで分かるんですか?」

「嘘よ」

彼女は表情を変えずにただ淡々と言った。

「でもまぁ、とにかくよく来たわね、いやここは来ない方がよかったのかしら、まぁいいわ」

何やら意味深なことを言っているが相変わらず先生が考えていることは分からない。

「とりあえず裸になってそこのベッドに横になって」

先生の指示通り裸になってベッドの上で目を瞑る

「始めるわよ」

先生の声が聞こえて様々な機器が僕の体につけられていく。

「終わったわよ」

30分ほど横になっていただろうか

何のデータをとっているのか、その殆どを僕は知らない。

服を着て先生の向かい側にある空席の丸椅子に腰掛けて先生をみやる、なんだか難しそうな顔をしていた。

書類に目を通しながらゆっくりと足を組む少女、年齢とはかけ離れた見た目をしている、彼女もまた異能者だということを思い出させる、基本的に異能者は老いる速度が遅い、バケモノ達と戦っているヒーローたちとは異なるタイプのヒーロー、異常なまでの知能をもつ彼女を頼るものも多い。

「やっぱり異常ね…今回の検査も異常あり」

彼女はそう言った、内心そうだろうなと、思っていた

「身長の割には体重が重すぎる、何よりおかしいのはその心臓よ、普通の人の10分の1以下の心拍数、ヒーローたちに置き換えても平均の遥かに下、つまり構造も筋肉の量もいかれている、そうとしか言いようがない…」

彼女は深くため息をついた、定期検診を始めた頃は装置の故障だと言われていた、それが検査を繰り返す度に全く同じ数値を出していく、だんだんと異常な数値が信憑性を帯びていく、数値が誤っているのではなく自分自身の認識が誤っているのだと彼女が言ったのは4回目の検査の時だった。

先生は先の言葉に続けて言った

「ねぇ、神崎くん、ヒーローになっても無理だけはしないでね、アイツらは本当に強いしトップクラスのヒーローだって油断すれば死ぬこともある、だから…」

俺はそこまで聞いて先生の言葉を遮った

「先生、俺は死ぬなんて言ってませんよ、引く時は引くし、無茶はしない、そう哀羽と決めたんです、といってもそうしないと俺がヒーローになることを許してくれなかったんですけどね」

すこしだけ冗談交じりに笑いながら言った、彼女はもうなにも言わなかった。

最後にいつものように採血をして俺は病院を出た。




ヒーロー本部の場所は頭に入れてある、診療所から20分ぐらい歩いただろうか、本部の場所、いやあるべき場所だと言った方が正しいだろうか、そこにあったのは空き地に巨大なぼろテントを張っただけのものだった、テントの周りには僕と同じように立ち尽くすもの、テントの中へ入っていくヒーローだと思われるものなど様々だった、もっぱら立ち尽くしているのは俺のような新参者ばかりのようだった、まさかヒーロー本部がこんなにボロいとは…基本的に都市の周りに壁を作っているだけなので建物などは殆どが流用されているのに…

「なぁおい、お前が神崎千裕か?」

突然背後から話しかけられた、咄嗟に振り返るとそこにはあるはずのない壁があった。

「おい…上だ上」

目線を上にするとそこには人間の頭部があった、でかい…明らかにでかい…神崎は決して低身長ではない、ただその一瞬壁に見間違えられた男が大きすぎるだけのだった。

「で、お前は神崎千裕なのか?ん?いや名前を覚え間違えたのか?えーとつまり俺が聞きたいのはお前があの試験を首席で出たやつなのかってことなんだ」

男の低い声が上から降り注ぐ、質問に対して大人しく答えるとした。

「そうですよ」

短く答えると周りにいたヒーロー達の視線が集まる、もちろん同期たちも同じように僕を見ていた、なるほどこうなるのかとここまでは想定してなかったなとすこしだけ反省した。


「なるほどお前が…」男はそう言った神崎は一週間前のヒーロー適性検査に出席していた、壁の補強や点検を行う会社に務めていた神崎は明らかな能力者だった

神崎はヒーローにこそなりたかったが、危険が伴うので哀羽が許してくれなかったのだ、だが11度目の土下座にようやくおれてくれた。

試験の結果は合格、身体能力テストは歴代1位、もちろんその会場にいた誰よりも身体能力テストの点数は高かった、だが如何せん神崎は頭が悪かった、バカでも身体能力が高ければ受かるようなシステムで良かったとしかいいようがない。

結果は張り出されるから筆記がしたから数えて2位でも身体能力はトップだから悪目立ちしたのだろう、こうも注目される理由を考えるとそのくらいしか思いつかない、もしかして前の会社の関係者かと思ったが流石に神崎がバカでもこんな大男がいるなら覚えているだろう

「なぁ…神原?神崎?なんだっけか、まぁいいんだがそこのお前、俺と勝負しようぜ」

僕が理解出来たのはとりあえずこの男がさっきまで呼んでいた男の名前を忘れるほどのバカだということだけだった。



俺は流されるままにテーブルについた、反対側には男が座っていた、勝負のルールは単純明快腕相撲だった、流石に街の中で派手に戦うわけではなかったことに安心し、同時に不安が襲っていた男を見やると特徴的なモヒカンだった、背が高すぎてさっきはよく見えなかった、男は見るからに世紀末だった、そしてその男の体にはどこにも脂肪の柔らかさを感じさせる場所はなかった、筋肉隆々とはこういうことをいうのかと、40を手前にして再認識した。

「おぉい!!だれか審判を頼む!!」

男は誰にともなくその言葉を放った、するとこれまたモヒカンの明らかに世紀末の男が出てきた、この男は目の前の世紀末よりは弱そうだがノースリーブから太い腕が見えていた

「準備はいいか?」

審判世紀末が問う僕達は準備をした、

「なぁ、お前はヒーローについてどう思う?」でかい方の世紀末が僕の手を握ったまま口を開いた

「別になんとも」僕は答える

「何言ってんだおまえ、俺たちは選ばれた人間なんだよ、人間の進化の賜物なんだ俺たちこそがこの星の変化に対応できた選ばれし種なんだ」

「そんなことない、僕達が異常なんだ」

「へっ、青いなお前」

「…早く始めようぜ」

俺はこの男のら理論にイラついていた。

「おう、じゃあ審判三本先取で頼む」

「わかった…もう準備はいいんだな…?」

「見たらわかるだろ、俺だってずっとこんなデカブツの手を握っていたいわけじゃない」

「そうか…じゃあ…両者力を抜いて…ようい…始めっ!!」

審判の快活な声が響く刹那僕の手がテーブルに触れていた、木材の丸テーブルにはっきりと僕の手がめり込んでいた

「まずは1本、へへ出し惜しみしてると負けちまうぜ?」



男はいつも通りボロテントに出勤してきた、見飽きた街の中で、壁に覆われたままで一生を終えることは男にとって死を表していた。退屈していた、だからヒーローになろうと思った、外の世界はゴーストタウンだったがバケモノとの戦いの中で死を覚悟したことも幾度となくあった。それでも安全が保証された壁の中でのうのうと生きるよりましだった。今日の日程なんて頭には入っていない、いつも通り外に出て物資を集めてバケモノを殺す、それ以上のことはしないがそれが何よりも楽しかった。

おかしいな…男は呟いた、いつもよりボロテントの周りの人が多い気がする、そうかと自分の中で納得した、男は新人ヒーローが入隊する時期だったことを思い出した、テントの前に立ち尽くす人々を1人ずつ見ていった、それは紛れもなく探すためだった、新人最強の人物を、でもそれはやけにあっさりと見つかった。なぜなら明らかに纏う覇気が違ったからだ、俺は今年も新人最強に挑むことにした。なに、負けるわけはない、入隊して以来新人には負けていない、年上には俺より強いのがごろごろいるが、それでも俺は強い、慢心ではなくそういう自負があった。




手の甲をテーブルに叩きつける音がしたのはこれで三回目だった。ただ、叩きつけられている手は神崎のものではなかった。

「よし、勝ったぞ」

「ありえない…なんなんだお前は!!俺はなぁ!!選ばれた人間なんだよ!!」

「俺は、人間だよ」

「うるせぇ!!お前が人間のわけあるか!!」

「お前は選ばれた人間かもしれないけれど、ここにある事実はただの人間に負けたってことだけだよ」

うなだれる男を背にして俺はテントの中へ入っていった。俺はあの男の手を破壊した。あいつもヒーローなんだからきっと回復は早いだろう。

「何してるんですか!!バカなんですか!?新人の癖にあんな騒動起こして!!」

テントに入って早々怒られてしまった。

「まぁまぁ、そう怒るなよジーナちゃん、後で俺の分の配給ジュース上げるからさ?ほら機嫌治して?」

「ジュースは貰いますけど機嫌は治りません!」

「ほらほら、まぁこいつも新人だし、仕方ないとこだってあったと思うんだ、ほらなぁお前もとりあえず謝って!」

怒る知らない女とそれをなだめる知らない男、とりあえず俺は男の言う通りあやまることにした。

「ごめんなさい」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ