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内鵜仁、おっさんの自己紹介を受ける

あれは何だ? そういや前にウィキペディアで見たような気がする。たしかアダムスキー型UFO、だよな?


あのおっさん、まさかあれに乗ってここに来たのか? あ、まずい。こんな所でめまいが。危ない危ない。屋上から落っこちるところだった。


それにしても、もしおっさんが宇宙からあの物体に乗ってやってきたのだとしたら、あまりにもベタだ。ベタ過ぎる。


あ、おっさんが再び現れたぞ。UFOが現れたり消えたりするのはどうやってんだ? そんな技術が宇宙にはあるってのか?



「はぁ、えろお、待たしてすまんかったのう、はぁ」



おっさんは小走りしてきたせいか、息を弾ませている。この距離でそれって、体力なさすぎないか?



「これなんやけど」



ポケットから何やら取り出してオレの方に差し出した。おそらくこれが直してほしいという機械なのだろう。


何だろう、これはいったい? 薄っぺらな人差し指程度の金属板に、ひょろっとした糸状の何かが出ている。上から見ても、下から見ても、横から見ても全然わからん。



「どや? 直せそうか?」



直せる直せないの前に、いったいこれは何なんだ? まずそれがわからなければ手の施しようがない。答えようがないよ、おっさん。



「やっぱムリかぁ。他に誰か直せる奴おらへんかいなあ、はぁ」



ひとりごとにしては声が大きい。オレが無能みたいな言い方でなんかムカつく。



「なあおっさん、直せる直せないの前に、これはいったい何なんだ? こんなのはいままでに見たこともない。そもそも何をするものなんだ?」


「なんや兄ちゃん、これ見たことないんか? 話にならへんなあ」



こんなの誰でも知ってて当たり前だろう、と言わんばかりの口調だ。こいつ、やっぱりムカつく。とはいえ見たこともないモノであることは覆りようがない。屈辱だけど縦に首を振るしかない。



「携帯電話やで。なんや兄ちゃん、地球には携帯電話っちゅうもんが存在しいひんのか?」



なんなんだ、このおっさんは? ホント、ムカつく。


そういや、いま『地球には』って言ったよな? なんか引っかかる。まあそんなことはどうでもいい。本当の携帯電話、スマホというものを見せてやる。ほら、これでどうだ。



「ほら。携帯電話に関してはおっさんよりよっぽど詳しいと思うぜ。これLINE。知ってるか?」



 ふん。どうやら知らないらしいな。ポカンとしてやがる。勝ったな。



「兄ちゃん、何しとんの?」


「何って? これが本当の携帯電話、スマホだよ。おっちゃんにはわからんかも知らんけど、これでメールも打てるし、LINEもできるし、電話もかけられる」



おっさんは口を半開き状態にしてスマホをながめ回している。そんなに珍しいかね?



「いまどき、電話すんのにわざわざ手使うんか?」



こ、こいつは何を言ってるんだ? 頭おかしいんじゃないか?



「もちろん音声入力という手段はある。だけど人前でスマホに向かってしゃべりかけるのも恥ずかしいだろ? だから基本、手で操作するのが一般的だよ。どうやって操作すると思ったの?」



するとおっさんはオレがもう片方の手に持っていた携帯電話という名の金属板を奪い取り、一八〇度回り背中を向けた。そして金属板をおもむろに自分の首筋にブスリと突き刺した。



「お、おい。おっさん、何してんだ?」



オレは一瞬目を背けた。視線を元に戻すと、既におっさんはこちらに向き直っている。表情は先ほどまでとまったく変わらないようだ。あんなものを首にぶっ刺して、何ともないのか?



「どや、これだけやで。これであとは相手のこと思い浮かべるだけで、相手の携帯電話がビカビカ光るっちゅうわけやん。まあこれ壊れてもうてるから実演できひんのが残念やけどな。兄ちゃん若いのに、そんなことも知いへんのか?」



そ、そうだったのか? いまどきの携帯電話って首にぶっ刺して使うものなのか? それよりも、おっさんは平気なのか?



「う、後ろ見せてもらってもいいですか?」



無意識の内に声が震えていた。言葉も丁寧になっている。おっさんが後ろを向くと、先ほど金属板をぶっ刺したと思われる場所からアンテナらしき紐がちょろりと出ているのが確認できる。何とも奇妙な光景だ。



「痛く……ないんですか?」


「何がやねん?」


「な、何がって……首」


「そんなもん痛いわけあらへんがな」


「これ、ちょっと取っていいですか?」


「別にええけど」



オレは震える手で、おっさんの首筋から金属板を取り出した。



「あ、穴、空いてる!」


「はぁ? そんなもん当たり前やがな。まさか兄ちゃん、背中に穴ないんか? ちょっと見せてみいや」

おっさんは俺の後ろに回り、強引にオレのうなじをかき上げた。


「うわぁ、何こいつ! 穴ない!」



え、マジ? 他の人はみんな穴あるの? オレだけ? 穴ないの。



「お前、穴なくてどうやって充電するん?」


「充電? 充電、って、何を充電するんですか?」


「な、何を? ってお前自身に決まっとるやないか」


「オ、オレ自身を、ですか?」


「当ったり前やないか、充電せえへんかったら動けんくなってまうやろ。だってこの前地球のドラマ見とったら、『はぁ、温泉でゆっくり充電できたわ』なんて言っとったで。つまり地球人も充電は必要なんやろ? なっ? なっ?」



こ、こいつイカれてる。このおっさんとこれ以上やり取りすることは時間のムダだ。オレまで頭がおかしくなりそうだ。もう帰ろう。



「おっさん、地球人だとか、その変な金属板が携帯電話だとか、おっさん自身に充電が必要とか、頭おかしいのか? おっさんは何もんなんだ? もう時間のムダだからオレは帰るぜ」



そう言うと、おっさんは急に真剣な眼差しで背筋を伸ばし、名刺を差し出してきた。



「失礼をしました。自己紹介が遅れておりました。わたくし、こういう者でございます」



名刺には次のように書かれていた。



『ローレル星 クラウン王国王子

           コスモ ポリタン』



「王子?」


「はい、わたくしクラウン王国の王室跡取りの、コスモ・ポリタンと申します。お恥ずかしい話ですが、この度は地球に視察に訪れた際に、携帯電話が故障してしまい、戻れなくなってしまったのです」



このおっさんが王子? このどう見ても工事現場の作業員にしか見えないのが? ちゃんちゃら笑わせるぜ。


しかし待てよ。もしこいつが宇宙人だとすれば、これまで見た数々の光景の辻褄が合うかもしれん。


アダムスキー型のUFOが現れ、再び見えなくなったこと。それにおっさんがオレ以外の誰にも見つからずにこの場にいられるのは、空からやって来たと仮定すれば可能だ。


にわかに信じ難いが、ここはこのおっさんが宇宙人ということで納得してみるか。


それにしても、携帯電話が壊れただけで戻れなくなるってどういうことだ?



「携帯電話が壊れただけで、自分の星に帰れなくなるのか?」


「携帯電話には位置情報を計測するためのセンサーもあって、それを頼りに宇宙を旅しとったからな」


「携帯電話がGPSの役割も果たしていたってわけか」



それにしても携帯電話一つ壊れたくらいで自分の星に戻れなくなるなんて、なんて脆弱なシステムなんだ? 普通ならフェールセーフで、何か一つ壊れても、別の何かが補ってくれるようなシステムになっているんじゃないのか? そもそもUFOそのものにGPSついてんだろ?


あんな現れたり消えたりするUFOを開発できるほどの技術を持った文明のクセに、そんな基本的な考慮がされていないとは。頭がいいのか悪いのかわかんねえ奴らだ。



「携帯電話が壊れただけで戻れなくなるって、ちょっとアホ過ぎないか?」


「なんやと兄ちゃん、アホっちゅう奴がアホなんやで」



いや、やっぱりこいつ宇宙人じゃなくて関西人だろ。関西弁怪しいけど。ま、どちらにしろ、なんかおもしろそうだ。いい暇つぶしにもなりそうだしな。宇宙の通信機器がどういう仕組みで動いているのかにも興味がある。ここはいっちょ見てやるか。



「この携帯電話が直らなければローレル星の仲間と連絡も取れないし、星の位置もわかんないんだろ? 一応電気機器を直すのは趣味みたいなもんだから見てやるよ」


「ホンマか? えろう助かるわあ。この恩は一生忘れへんでえ」



急に調子いい感じになった。現金な奴だ。まあいい、なんだかワクワクしてきた。



「何かわかるかもしれないし、何もわからないかもしれない。まあ、あまり期待せずに待っていてくれ」


「おう、ほな期待せんで待っとるで。せやけど兄ちゃん、わしのためにつこうとる時間あるんか? そもそもこんな場所に何しに来たんや? なんか悩みでもあるんとちゃうんか?」


「心配してくれてありがとよ。オレの悩みなんて些細なものだから問題ない。それに、これ直すのおもしろそうだしな」


「ほっかぁ? せやならええけど。なんやぁ成績が二番になったの、夕陽がどうのこうの、ってブツブツ言っとったで、地球人もいろいろ悩みながら生きとるんやのうと思ってな」



こいつ気づいてないふりして、オレのひとりごとを全部聞いていたのか? 今度からはひとりごとをもう少し小声で呟くように気をつけないとな。それにしても嫌なことを思い出させてくれたもんだ。



「なあ、ホンマに大丈夫なんか? わしの悩み聞いてくれたんやから、あんたも水臭いこと言わんと、悩み打ち明けてもろてええで。わしができることなら何でも協力するさかい」



このおっさん、見た目と違って意外に人情に厚いんだな。まあ、おっさんにオレの悩みを話しても何の解決にもならないだろうけど、逆に害はまったくなさそうだ。



「大丈夫だよ。これは自分自身の問題だ。いままでオレはこの学校の同学年の中で、一度もトップの座を譲ったことがなかった。だけど今回の試験で不覚にも初めてトップの座を譲っちまった。それだけだ」


「なんや、そんなことかい。わし、機械は直せへんけど、勉強は得意やで。なんならわしが家庭教師になったるさかい、そしたらすぐにでも成績トップなんて取り返せるで」


「ありがとよ。でもローレル星と地球の学問が一緒かどうかわかんないから、気持ちだけありがたく受け取っておくよ」



オレの悩みなんて実際問題、些細なものだ。それよりもこの携帯電話を直してやらないことには、おっさんは家に帰れない。オレの問題とは比べ物にならないくらいの大問題だ。



「じゃあ、オレは家に帰るよ。明日また授業が終わったらここに来るよ。その時に解析の進捗を報告する」


「ありがとな。ホンマ感謝するで。おおきに」



おっさんは少し涙を浮かべているようにも見えた。柄にもない。


オレはおっさんに背を向けた。ドアは例の高音を響かせる。ドアを閉める前におっさんのいる方向をチラッと見た。ちょうどUFOに乗り込むところだった。


遠いので表情がハッキリ見えたわけではないが、UFOのドアが閉まる時におっさんもこちらを振り向き、ニコリと微笑んだように見えた。


その一瞬後、UFOは視界から消え、タンクに水を貯める音だけがウンウンと唸っていた。


この続きは2/13更新予定です。お楽しみに!

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