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エピローグ

「いやあ久し振りやのお。元気やったか?」


「おっさんも元気そうだな」



数年振りの再会にしばし握手をしたまま、互いに懐かしんだ。



「なんや、結局姉ちゃんが一緒どころかもう一人連れてきたんかい。ま、なんにせよめでたいこっちゃ」



何の因果か、オレはいつの間にか豆井戸美麗と結婚し、男の子をひとりもうけていた。


どこでどうして、こうなったのかの記憶が定かではないのだが、いま幸せか不幸かと問われれば、『幸せ』なので、まあよしとしよう。



「もう学生は卒業したんやろ? いま何しとるんや?」


「皆野さんの下で、園路さんたちと一緒に無線機器の開発をしてる。おっさんの携帯電話、いつ壊れても直してやれるよ。おっさんの方は、調子はどう?」


「まあ、ぼちぼちっちゅうとこやなあ。兄ちゃんの親父さんと握手したけんども、国同士の話っちゅうのはまた別やさかいな。無期限の休戦協定までは結んだんや。まあそれでもかなり進展した方と思うけどな。いまんところ平和や。やっぱ平和が一番やな」


「親父が役立たずで、終戦まで持っていけず、休戦止まりで申し訳なかったな」


「いやいや、ホンマ感謝してるで。休戦でもいままでに比べたらえらい進歩や。お陰で毎日のんびり暮らせとるしの」



オレが


「ふっ」


と鼻から抜けるように微笑むと、一瞬沈黙が流れた。静寂の中、突然奥の部屋から赤ん坊の鳴き声が聞こえてきた。


すぐそばにいる息子は美麗のおんぶ紐にぶら下がって、すやすや寝ている。



「そや、今度はわしの娘紹介したるわ。太路美、太路子連れてきいや」



すると奥の部屋から少しイライラしたような声が聞こえてきた。



「いま手離せないんだから、あんたがこっち来たらいいでしょ?」



オレたちはお互いに顔を見合わせ、苦笑いをした。どこの家庭も小さな戦争はポツポツ起きているようだ。ただそういった戦争の火種は赤ん坊の顔を見た瞬間に消えてしまうのだが。


みんなで隣の部屋に移動すると、そこではすっかり主婦と化した太路美が太路子のおむつを替えているところだった。



「太路美? すっごいやせたじゃあん」



息子を抱えた美麗が太路美に駆け寄った。


太路美はおむつ替えの作業をしながら、こちらに振り返る。こちらを見ながら、横目で最後のマジックテープを器用に貼りつけた。おむつ技術は若干地球の方が進んでる感じだな。



「エクササイズなんてしなくても、赤ん坊の相手してるだけでどんどんやせてきちゃったわ。美麗はもともとがやせてるから大丈夫? やせ過ぎてペラペラにならないように気をつけなさいよ」


「太路美、口調が完全にお母さんね。ふふっ」



その後は、赤ん坊二人をそばで寝かせ、ユニを含めた五人で旧交を温めた。


あの日の話はもう完全に笑い話と化している。当時は命を賭けるほど真剣だったのに、不思議なものだ。


命を賭けるほどのことが、今後もあるかどうかはわからない。それでも、それくらい真剣に取り組まなければならないことは、これからいくらでもあるだろう。


でもあのとき、たくさんのドアを蹴破ったような力を発揮することはもうない。


みんな、手を取り合って、笑顔でいられる。


一度この快感を味わった者は、もうあの頃には戻れないのだから。



          完


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