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内鵜仁、親父と話をする

『ガチャリ』



背中越しに鍵が閉まる音が聞こえた。ブルっと身体が震える。


部屋の中にいまいるのは、オレとおっさんに人魚、ユニ、園路さん、美麗、母さん、そして親父とその部下。


人数だけなら親父に勝てる。しかし嫌な予感がした。



「そこまでだ。母さんとの約束でこの人魚と会わせてやることまでは承知したが、ここから出すわけにはいかない。これは警察としてそうせざるを得ないんだ」



母さんの顔をチラッと見た。なんだか申し訳なさそうな顔をしている。



「仁、派手にやらかしてくれたな。これをなかったことにするのはなかなか難しいとは思うが、なんとかして今日のことは見逃してやる。しかし、既に勾留中の三人は、お咎めなしというわけにはいかんのだよ」



親父が自信満々、勝ち誇った表情で言い放つ。


続いて母さんがすまなそうな表情で告げた。。



「仁ちゃんごめんね。さすがにこの人たちを開放して、とまでは言えないわ。それなりに捕まっちゃった理由があるからねえ」



オレは周りを見回した。みんなオレのことを見ている。どうすればいいんだ……



「おっさんとユニは大した罪じゃないんだろ? どれくらいで開放してもらえるんだ?」



オレが降りたことで、親父の表情はさらに勝ち誇った自信満々の顔つきになった。



「オレが決めることじゃあないが、まあ多くて二、三日といったところだろう。こいつらがきちんとすべてを正直に話せばだがな」



そこで起訴されなければ、という条件付きということか。くそっ、だけどここはどうしようもないのか?


ん? 妙に視線を感じる。誰だ? ああ、美麗か? なんでオレをジロジロ見てる?


そうか、人魚のことについても言及してほしいんだな? ああ、わかる。わかるよ。オレには美麗の言いたいことが手に取るように。仕方がない。オレの口から聞いてやるか。



「人魚はどうなる?」


「まだ何とも言えんが、器物破損、街を混乱に陥れた罪は軽くない。裁判に持ち込まれる可能性が高いな」



事実だけに反論できない。万事休すか。



「あなたローレル共和国の方ですよね?」



突然話しかけたのは園路さんだった。親父は勝ち誇った表情から驚愕の表情に一転した。


園路さん、揺さぶり作戦か? たしかにこれは、現段階で最も有効な手段かもしれない。



「よく地球の警察組織に忍び込みましたね。お見事です。何のために、地球でこんなことをし始めたんですか? まさかスパイ、じゃないですよね?」



ふっ、園路さんもスパイだからお互い様だろうけど、どうやら賭けに出たようだな。園路さんの正体は、オレたち以外の誰も知らないはずだから、こちらが有利に違いない。


どうだ、あの親父の動揺っぷりは。



「スパイであるあなたに、この者たちを逮捕する権限はありません。開放していただけませんか?」



動けない親父に見兼ねたか、母さんが園路さんの方を向いて、話し始めた。



「たしかにこの人はローレル共和国から来た人だよ。あんたらがクラウン王国から来た人たちだってのも、私は知ってる。そして、ローレル共和国とクラウン王国が冷戦状態にあることも聞いてる」



そうか、母さんは全部承知していたんだな。その上でオレたちを助けにきてくれた。



「だから、この人はあんたらを捕まえることに必死になってる。この人が地球に来たのは、いまみたいにあんたらがのこのこやって来て、網に引っかかるのをずうっと待ってたんだよ」



母さんの目を見るとうっすらと涙が浮かんでいる。



「若い頃はこの人の国を思う純粋な気持ちに惚れたのよね。でもね、歳を経るにしたがって、いろんな世界のニュースを見る度にだんだんと考えが変わってきた」



ため息をつく。その一瞬後、カッと目を見開き決意の表情に変わった。



「もう止めましょう。争ったってなあんもいいことなんてないんだから。勝って得するのは偉い人たちだけ。庶民は大して恩恵受けないどころか、負けたら生きるのも大変な状況になる。いいことなんか何一つないの」



母さんはおっさんの方に向き直り、さらに続けた。



「あなたクラウン王国の王子でしょ? 雇われの身のこの人と和解したところで、何の解決にもならないかもしれないけど、取り敢えず握手しよ。ね」



最後は睨むような目だった。


母さんの話が終わると、しばらく沈黙が流れた。その沈黙を破ったのはおっさんだった。



「たしかに、わしら、何のために争っとるんやろな?」



蚊が鳴くような頼りない口調だった。しかし、次の言葉を発する瞬間、親父の顔をキッ、と見据え、力強い口調に変わった。



「お前がスパイとして、この地球に来てからどれくらい経つかは知らん。だけんども、この兄ちゃんがたしか十七っちゅっとったから、少なくともそれ以上は地球で暮らしとるわけや。その間、細かいいざこざはあったかもしれん。けど、今日までここで暮らすことに何も問題なかった。つまり、あんたがローレル共和国の人間です、って言わへんかったら、争い事なんて起こらんわけやな」



おっさんはそこまで言って、一つ大きな溜め息をついた。そして、一呼吸置いた後、再びしゃべり始めた。



「いつ頃から、住む地域だけで人間を分け始めたんやろうなあ? 同じ人間やん。そんなもん、住む場所で分ける必要あらへん。人はひとりひとり皆違うんや」



おっさんの目に光るものが見える。



「こいつらとは馬が合わんでオレらが懲らしめて考え方を更正したる、なんて上の奴らのただのエゴやないか。なんかバカらしなってきたのお。なあ、もう止めよか。そしたらあんたもスパイなんてする必要のおなるで」



親父はおっさんを見据えたまま黙っている。何か言えよ。こんなときでさえ何も言えないのか? 他人に命令をするかバカにするかしか発言できないようにインプットされたロボットじゃねえんだろ?


親父はおっさんから視線を逸らすように下を向いた。その後、再びおっさんの方に顔を向け直し、口を開いた。



「そうだな」



沈黙が流れた。それだけかよ? それ以上言うことはないのかよ? 頭悪過ぎんぞ。何も言えないんだったら、握手求めるくらい自分から行動起こせよ。



「じゃあ、ふたりとも、仲直りの握手して。ハグでもいいわよ」



母さんだった。


結局この母さんの発言で、親父とおっさんはようやく握手をした。これでローレル共和国とクラウン王国の冷戦状態は解消されるのだろうか?


とはいえ、親父はただのスパイだ。これですべてが解決というわけにはいかないだろう。しかし人類の貴重な一歩であることは確かだ。こいつらが人類かどうかという議論は別にして。


この続きは4/21 16:00頃更新予定です。お楽しみに!

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