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豆井戸美麗、事件の真相を知る

ああ、変なところで着信があったわね。せっかく仁と手を繋ぐチャンスだったのに。いったい誰かしら? こんな最悪のタイミングで連絡してくるなんて。きっとロクな奴じゃないわね。


それにしても仁、美麗みたいな美少女とふたりきりっていうシチュエーションに緊張してるみたいだわ。もう、どこまでもかわいいんだから。


あああ、結局何もしない内に私の家に着いちゃった。お休みのキスでもしてあげようかしら?


でもそんなことしたら固まっちゃって、仁、自分の家に帰れなくなっちゃうかもね。


大丈夫よ、仁。太路美が自由になったら思う存分チュッチュしてあげるから。



「じゃあ、明日、作戦が決まったところで連絡するよ」


「うん、わかった」


「じゃ、おやすみ」


「おやすみなさい、仁」



そうかそうか、明日も私に会いたいか。それならそうとハッキリ言えばいいのに。まあでもいままで勉強ばっかりしてきた仁には無理だろうな。ま、そこがかわいいんだけどね。


明日いよいよ作戦決行かあ。いったいどんな作戦でいくのかしら?


太路美、足がないからどうやって助けるか、問題よね。でもまあそこは仁がきちんと考えてくれてるはず。なんかデビュー前から映画の主人公、ヒロインに抜擢された気分ね。緊張してきちゃった。


まだ台本ももらってないからどんなストーリーになるのかも想像つかないけど。これは絶対に将来、映画の題材になる話よね。


その時は当然美麗が主役抜擢に違いないわ。豆井戸美麗の鮮烈なスクリーンデビュー。んもう、美麗ちゃんの人生、あまりにも順調すぎ。『挫折』という言葉は、美麗ちゃんの辞書にはないのかしら?



「ただいまぁ」


「美麗ちゃん、お帰りなさい。もうママ心配しちゃったわぁ。美麗ちゃんまで一緒に捕まっちゃったんじゃないかって思ってぇ」



ママ、明らかに泣きじゃくった後の顔ね。ずっとここで泣いてたのかしら? 細野美恵は……まだ放心状態でイスに座ってるわね。



「太路美ちゃんはどうしたの?」



ママが心配そうに聞いてきたので、これまでの経緯を洗いざらい話した。



「仁が中心になって太路美救出作戦を決行してくれることになったの」


「え? あの仁ちゃんが協力してくれるの? それは頼もしいわね。美麗ちゃん、いい幼馴染みがいてよかったわね。仁ちゃんなら太路美ちゃんのこと何とかしてくれるわよね」



それにしても何で太路美はあんな風に突然暴れ出したのかしら? 美麗が着替えてるほんの一瞬の出来事だったもんね。



「ねえねえママ、なんで太路美は突然暴れ出したりしたの? いったい何があったの?」


「それがね……」



ママはロダンの考える人よろしく腕を組んだ状態で右手を顎に当てた。



「思い出してみても何が原因なのか、さっぱりわからないのよね」



そう言ったきり、そのままのポーズで黙り込む。



「最初に何をしたら怒り出したのか、思い出せない? ママがこういう発言をしたら突然怒りだしたとか、太路美に対してこういうことをしたら怒りだしたとか。何でもいいから思い出してみてよ」


「そうねえ……」



顎に当てた右拳をさらにグイグイと押し当て、必死にその時のことを思い出そうとする。その拳が二重顎に埋もれそうで、笑いが込み上げてきた。ダメダメ、ここはこらえなきゃ。



「食事ができて料理を運んでたら、突然怒り出した気がするわ」



夕食はまだテーブルの上に置かれたままだった。



「サンマの塩焼きか。ママが魚出すなんて珍しいわね」


「ヘヘ、ママだって肉料理以外の料理もちゃんとできるんだから。まあ実は美恵ちゃんに来てもらうようになってから、肉ばっかりじゃいけないかな、って思い始めて。それで今日は思い切ってサンマを買ってみたの」



そういえば、太路美が来てから魚料理は初めてかな? 太路美、もしかして魚嫌いなのかな?



「このサンマを見たら、太路美は怒り出したと」



そのひと言にママは何か思い出したのか、ハッという顔をした。



「そう言えば、怒り出す前に両手で顔を覆って、泣いてた気がするわ。泣き出したときに誰かの名前を叫んでたような気がする」


「もしかして……」



私はなんとなく太路美が怒り出した理由がわかった気がした。もしかしてこのサンマは龍宮城で太路美と一緒に暮らしていた仲間ではないのか?


人間で例えれば、クラスで仲のいい友達が、ある日突然給食に出てくるようなものだもんね。うっ、しまった。例えが怖すぎたわ。


とにかく、それは怒り狂い出しても仕方ない気がする。


でも、だからと言って人間が魚を食べるのが悪いわけではないし……難しい問題ね。



「このサンマ、太路美の友達だったのかもね」



私がボソッと、そんなことを呟くと、ママは泣きそうな顔をした。



「そっか、そうよね。太路美ちゃんの前で、海の生き物を食材として出すことは厳禁よね」


「じゃ、明日朝早いからシャワー浴びたら寝るね」



時間はもう十二時を回っていた。今日は長い一日だったなあ。って言うか、夕方以降だけで数日分の体力を使い果たしたような気がするわ。



「ママ、お休み」



まぶたが重い。このまま部屋に戻ってベッドに寝転がりたい気分ね。


でも起きてちゃんとシャワー浴びなきゃ。臭いまま明日仁に会うわけにはいかないもんね。


気替えを用意して、バスルームに向かう。よかった、なんとかたどり着いたわ。


湯船に浸かると一気に緊張の糸が切れ、気づくとバスタブの中で数十分を過ごしていた。


ダメダメ。美麗、風邪引いちゃうぞ。


最後にもう一度だけ気合いを入れ直し、身体を洗う。部屋に戻ってから朝までの記憶はまったくなかった。


この続きは4/13 16:00頃更新予定です。お楽しみに!

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