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内鵜仁、皆野譲治を説得する

皆野さん、混乱してるようだ。ここは助け舟を出さないとな。



「おっさん、まずおっさんの名刺を皆野さんに渡した方がいいんじゃないかなあ。それからおっさんの星や国のこと、地球に来た目的、いま困っていることを順に説明してほしい」


「そやな」



お、案外素直だな。ま、名刺もらっただけじゃ何が何やらわからんだろうけどな。



『ローレル星 クラウン王国王子

           コスモ ポリタン』



「す、すいません、このローレル星、というのが会社名ですか?」


「そんなわけあらへんがな。そんなけったいな名前の会社がどこにあるっちゅうねんな。ローレル星言うてんやから星の名前に決まっとるやろ。M79星雲にあるクラウン星のことやで。兄ちゃんそんなことも知いへんのか?」



皆野さんがそんなこと知るわけないだろ、おっさん頼む側として分をわきまえろ。



「内鵜くん、ちょっとこっち来てもらっていいかな?」


「は、はい」



皆野さんはおっさんに聞こえないようにひそひそ話を始める。



「あの人の頭は確かか? 私には無理問答してるとしか思えないんだけど。だいたいローレル星だとかクラウン王国だとか何なんだ?」



半ば呆れたと言った風だ。仕方がない。グチられてるオレだってまだ百パーセントおっさんを信じ切ってるわけじゃない。でも、ここは皆野さんには無理矢理にでもいいから信じてもらうしかないだろう。


とにかく皆野さんの気分を害することだけは避けないとな。



「にわかに信じがたいとは思うんですが、いまは信じてやってくれませんか? さっき見ましたよね? UFOみたいな乗り物から降りてくるあの人の姿。その後その乗り物自体見えなくなってしまったのを。私もすべてを信じているわけではありません。でも強引にでも信じないと説明がつかないことばかりなんですよ」



皆野さんが小さくうなずいたそばで、おっさんがイラついた調子で文句を言ってきた。



「何やねん、早よしてや」



おっさんのためなんだから少しは我慢しろよ。オレがイラっとする中、皆野さんはひそひそ話を続けた。



「物を透明にするのは、プロジェクションマッピングだとかいまの技術でできないわけじゃない。三六〇度あらゆる方向にカメラを設置して、反対方向のカメラの映像を乗り物の側面に映せば、透けているように見せられる。仮にあの人が宇宙人だとしても、人間が技術的に不可能なことは、宇宙人にだって不可能なはずだ」



皆野さんの言うことは至極最もだ。例え魔法というものが存在したとしても、最終的には科学で証明できるものであるはずだ。



「首筋の穴。それにいまの技術で実現できる、できないにかかわらず、あの乗り物で誰にも気つかれずに、こんな学校の屋上に降り立つ。不可解なことは一個や二個じゃないんです」



皆野さんは真剣にオレの話を聞いてくれている。オレはさらに続けた。



「だから、我々にとって不可解なことが解明できない間だけでも、彼の言うことを信じてやってもらえませんか? 僕はそうしようと決心しました。もしかしたら彼らの技術からすごいことがわかるかもしれませんよ」



皆野さんはオレの顔をじっと見つめながら三十秒ほど押し黙った。しかし突然意を決したかのように相好を崩し、ひとこと言った。



「わかった」



続いて、オレの肩越しにおっさんの顔をチラッと覗いて話しかけた。



「コスモさん、これからあなたの言うことすべてを信じることにしました。だからあなたも決して嘘をつかないでいただきたい。ひとつでも嘘をつけばその時点でお互いの信用はなくなるものと心得てください」


「ええでぇ」



おっさんは陽気に両手を頭の上に掲げ、丸を作った。



「言っとくけんど、ここまでもわしゃひとことも嘘なんかついとらせんぞ」



皆野さんのこれまで硬かった表情がようやくニコニコ顔に変わった。その刹那だった。



「誰かいるのか?」



地上からだ。屋上から下を覗くと、警備員が懐中電灯を持ってこちらを照らしている。オレはとっさに右手人差し指を口の前に持っていき、ふたりに向かって黙るように指示した。



「すいません、すぐ帰ります」



オレは警備員に叫んだ。



「こんな時間までそんな所で何してるんだ? 今日のところは許してやるからいますぐに帰れえ。今度また見つけたら担任に知らせるぞ」


「ありがとうございます。以後早く帰るようにします」



カツカツカツ、と靴の音が遠ざかっていく。



「すまなかった」



皆野さんが小声で謝った。



「なんやねんあの男。時々見回りに来るみたいやけど、ホンマ目障りなやっちゃなあ」



おっさんは文句を言い続けていたが、声は抑えてくれている。



「取り敢えずここを出ましょう。今後ここで会うのは危険です。これからは別の場所で会うことにしましょう。おっさん、あの乗り物動かせるか?」


「動かせるか? 言われても、わしの宇宙船どこ持ってけばええねん? もうここ戻って来れへんのやろ?」


「オレのマンションの屋上に行こう。警備員が巡回することもないし、住民が上がってくることもない。管理会社の人が来る可能性はあるけど、事前に住民に通知があるはずだ。通知を見逃さないように気を張っておけば大丈夫だと思う」


「よしゃ。そうと決まったら善は急げや。あんたん所のマンションまで乗せてったるわ。どうせお前ら宇宙船乗ったことないやろ? ワシが乗せたるわ。カモン」



皆野さんは冷静さを保ちながらも嬉しそうだ。



「さすがにあなたを全面的に信用するほかありませんね」 


「なんや、さっきわしのこと信用する言うとったのに、嘘やったんかい」



皆野さんは慌てて首を横に振った。おっさんは怒っているのかと思ったら、皆野さんが首を横に振る姿を見て嬉しそうに笑っている。おっさんの笑顔を見て皆野さんも笑う。二人の信頼関係は急速に縮まったようだ。よかった。これで一歩前進だ。


当然オレもウキウキしている。なんてったって、人類史上初の宇宙船搭乗だ。実際には公表されていないだけで、本当は人類初じゃないかもしれないけどな。けど、それはどうせ表に出ない話だから事実上の『人類初』と言えるはずだ。


オレには『人類初』という言葉がよく似合う。これからはオレを言い表す際の枕詞になるに違いない。なにせ他の奴らとは比較にならんくらい優秀な人間だからな。ただオレのキャラ的に、ここではしゃぎ過ぎるわけにはいかない。皆野さん以上に冷静にならなくては。


オレらは全員、水道タンクの前で立ち止まった。おっさんがポケットから、例の小さなリモコンのような物を取り出す。次第に暗闇の中に、アダムスキー型の宇宙船、いわゆるUFOが姿を現した。



「ほな行くで」



皆野さんとオレはおっさんの後について中に入った。



「お邪魔しまあす」



皆野さんは律儀に挨拶してから中に入る。さあ、いよいよ冒険の始まりだ。


この続きは3/26 16:00頃更新予定です。お楽しみに!

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