内鵜仁、おっさんを説得する
「嫌や、どこの馬の骨とも知らん奴に会うのは。リスク高過ぎんねん」
「でも協力してもらえば携帯電話を直せる可能性が断然高まるんだ。絶対に信頼の置ける人だから。会うだけでも会ってくれよ」
「そんなこと言うて、ワシを捕まえて解剖しようとしてるんちゃうやろな? もう怖いで。ワシの仲間が前におんなじような手口で捕まりかけたちゅうねん。間一髪のところで、猛ダッシュして宇宙船に乗り込んで、なんとか難を逃れた、って言うとったで。せっかくここまで親切にしてもろたあんたんこと疑うわけやないけどなあ、こればっかりは慎重にせなあかんのや。なあ、だから他の方法考えてんか?」
「他に方法はない、断言する。オレは確かに頭がいい。オレほど頭のいい奴は先生にだってほとんどいないだろう。だけど携帯電話に関しては素人であることは否定できない。だからここはその道のプロに任せるのが一番近道なんだよ」
「なんや、最初は威勢のいいこと言うとったのに。結局他人に頼らんと何もできへんのかい。あんたの言う頭がいい、って何の役に立つねん?」
コ、コイツ。ムカつくなあ。こいつのためにこっちは協力してやってんだぞ。もうこんな奴、相手にしなくてもいいか? だいたいこのおっさんが自分の星に帰れなくたってオレには何の不都合もないんだからな。
「おっさん、それが人に物事を頼む時の態度か? おっさんがそういう態度に出るならもうオレは知らねえぞ。せっかくこの携帯電話を直してやろうとしてんのに。もう知らねえ。まあ、オレのことを他人に頼らないと何もできないって批判するぐらいなんだから、おっさんならひとりで何でもできるよな? じゃ、オレ帰るわ。皆野さんには会えなくなったって謝罪しとくよ」
「そないな剣幕でまくしたてんかったってええやん」
お、おっさん落ち込んだぞ。さすがにいまの説教はこたえたか? うつむいちゃったよ。
「びええええええ!」
お、おい、いい歳したおっさんが赤ん坊のように泣き出したぞ、大丈夫かコイツ?
「おっさん、いくつだよ? そんなふうに泣きじゃくりやがって」
「ヒック。じゅ、十万と三十四歳やけど、ヒック」
悪魔か。人間に換算すると、いくつ相当なんだろうな? 少なくとも精神年齢はオレより下だ。
「な、泣くなよ。なんでもやってみなけりゃわからない。まずは可能性に賭けて皆野さんに会ってくれよ。そうすればおっさんが自分の星に帰る道が開けるかもしれないだろ。外部におっさんの存在が漏れないように、最大限の注意は払う。まずはやってみようぜ」
「ヒック。ヒッ、ク」
おっさんはガキンチョのようにべそをかきながら、首を縦にコクンと振った。はあ、やれやれ、予想以上に手こずったけど、これでようやくおっさんと皆野さんを会わせることができるわけだ。
後は皆野さんがどこまで頑張ってくれるかにかかっている。はあ、それにしてもなんでオレ、こんなにおっさんのために神経すり減らしてまで頑張ってんだろ?
まあ何にせよ、昨日今日といい暇つぶしにはなったな。ふたりを引き合わせたら、あとはオレの手から離れることになるだろう。
「皆野さんが来るまでもう少し時間あるから、少し休もう。それまでにその情けない顔どうにかしとけよ」
そういうとおっさんはこちらを振り向き、クシャクシャな顔で微笑んだ。なんだ、こう見るとどことなくかわいらしい顔してるかもな。惚れることはないけど。
『ブゥブゥ、ブゥブゥ』
おっ、豆井戸さんからLINEだ。皆野さん、到着したかな?
「どうやら皆野さん、駅に到着したらしい。迎えに行ってくるから、おっさんはここでおとなしく待っててくれ」
「そないなこと言われんでも、どんちゃん騒ぎしながら待ってるつもりはないで、安心せいや。ほなここで待っとるさかい」
取り敢えず待ち合わせ場所の校門に向かおう。そういや駅まではあの女と二人か。他の人に見られなきゃいいが。学内一の天才が女にうつつを抜かしてるから二位になったんだ、なんて言われたくないしな。
この続きは3/11 17:00更新予定です。お楽しみに!




