内鵜仁、エンジニアの皆野譲治を味方につける
そうだ。明日皆野さんに会う前に予備知識くらいはつけといてもらう方がいいかもしれない。それになんか明日会う目的を勘違いしてるっぽいしな。誤解をちゃんと解いておかないと。
『皆野さん、ご連絡ありがとうございます。明日、お会いできるのを楽しみにしています。ところで初対面で図々しいとは存じますが、皆野さんに協力していただきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか? というのはある無線機器、携帯電話を修理していただきたいのです』
写真もつけてっと。よし、OK。
それにしても、いきなりこんなこと頼んじゃって大丈夫かなあ? オレだったら『失礼な奴』って思うよなあ。あ、返事きた。
『修理してほしいものというのは、この写真のものですか?』
『そうです』
『この写真のものは、携帯電話なんですか? 見たことのない機種ですね』
『ええ。私も最初見たときはこれが携帯電話だなんて、にわかに信じられませんでした。明日、皆野さんにはオレ以外にもう一人会ってほしい人物がいるのですが、これの詳しい説明は、その人と一緒にさせていただきます』
『わかった。なんだかおもしろそうだね。楽しみにしているよ。』
明日大丈夫だろうか? おっさんのあの首筋の穴を見て、皆野さん、倒れないかな? あれ見たらすっげえビックリするだろうな。
あれ? 皆野さんからまたメッセージ来たぞ。
『やっぱり、予備知識をつけておきたいから、いまわかってることを、僕が理解できなくてもいいから説明してくれないかな?』
やっぱり皆野さんはエンジニアだな。一円にもならないことでもぐいぐい食い込んでくる。取り敢えず分解写真を全部送っておくか。
『中身を見れば見るほど携帯電話には見えないな。これは本当に携帯電話なのか?』
『はい。持ち主はそう断言してます』
『筐体の中にはアンテナらしき部品。それに繋がった大きなICが一つだけ。そこからパターンが出ていて、外部に何か繋げるようになっている。ICの内部がどうなっているのか想像ができないけど、あまりにもIC以外の部分がシンプル過ぎて、これで通話ができるとは、にわかに信じがたい。そもそも通話に必要なマイクとスピーカーがどこにも見当たらないじゃないか』
さすが優秀なエンジニアだ。オレが送った写真だけで問題点を的確に指摘してくる。ここはおっさんと実際に会ったことを正直に話をした方がいいだろう。どうせ明日には皆野さんとおっさんを会わせなきゃいけないわけだし。
『これから私が書くことに絶対に怒らないでいただきたいのですが、よろしいですか?』
皆野さんは『OK』と描かれた犬のスタンプを返してきた。大人もスタンプ使うんだな。
『にわかには信じがたいのですが、この携帯電話を使う民族は口で会話をする必要がないのです』
しばらく反応がなかった。さすがにどうリアクションすべきか向こうも困っているのだろう。オレだったらバカにするのもいいかげんにしろと、スマホを投げつけるに違いない。ここはオレから次のメッセージを送った方がいいだろう。
『彼らは電話するとき、口で会話をせず、脳波で会話をするようなんです』
まだ反応がない。
『あくまでも私ひとりが見ただけなので、一〇〇パーセント確信が持てるわけではありませんが、この機械の修理を依頼してきた方の話しを伺っていると、そのように考えるのが妥当な気がしています』
ここまで一方的にメッセージを送るとようやく皆野さんから返信があった。
『わかりました。いや、本当はまだよくわかってませんが。あなたが『携帯電話』と言っているものは、その方が使っていたものだというわけですね?』
『ええ、そうです』
本当にこんな話を信じてもらえているのだろうか? だけど信じてもらわなければ話が進まない。
『この携帯電話を使っている男に実際にお会いしていただくのが一番いいかと思っています』
皆野さんはここで意外にもリラックマが『OK』ポーズをするスタンプを送ってきた。お茶目だ。
まあ結果オーライ。取り敢えず約束を取りつけることができた。
あとは明日、皆野さんが来る前に、おっさんに皆野さんと会ってもらうよう説得しなくちゃな。まあおっさんが嫌だと言っても、強引に合わせるだけだからあまり心配してないけど。
『ありがとうございます。明日お会いできるのを楽しみにしております。ところで、明日は何時ごろ来られそうですか?』
『明日は藤沢の関連会社に強引に用事を作ったので、遅くても六時半ごろまでには江ノ島駅に到着可能です。駅に着くころにこちらのLINEに連絡します』
さすが優秀なエンジニアは抜かりがない。
『かわいい義妹のお婿さんにふさわしいか厳重にチェックさせていただきますので、覚悟して臨んでくださいね』
メッセージと共にサングラスをかけた顔の絵文字が送られてきた。だから違うっつうの。豆井戸美麗があることないこと吹き込んでいるに違いない。どうせいつものことだろうから、皆野さん、わざと勘違いしたふりしてオレをからかってるんだろう。
『お婿さん候補ではありませんが、こちらこそ明日はよろしくお願いします』
「ふうう」
メッセージを送り終えた瞬間、オレは無意識に大きく息を吐いていた。
よかった。これで少しは進展がありそうだ。今日はぐっすり眠れる。
おっさん、待ってろよ。必ずおっさんの星に帰してやるからな。
この続きは3/5更新予定です。お楽しみに!




