豆井戸美麗、ママを海に連れ出す
あ、そうだ。明日学校で仁に会ったらお礼のチュウでもしてあげないとね。学校一の天才には刺激が強すぎるかな?
『わあい、ありがと。お礼に明日チュウしてあげるね♡』
えへっ。楽しみ楽しみ。
あ、そうだ。譲治兄ちゃんに明日仕事帰りにこっち寄ってくれるようお願いしとかないとね。
『譲治兄ちゃん? 美麗のお願い聞いてほしいの。明日ね会ってほしい人がいるから仕事帰りにこっち寄ってほしいの?』
ふふっ。譲治兄ちゃん、美麗のお願いは絶対聞いてくれるもんね。すっごく優しいんだから。あ、返事だ。
『美麗の頼みなら断れないな。明日、仕事帰りにそっち夜から駅で待ち合わせしよう。ところで美麗の会ってほしい人ってどんな人?』
『わあい、ありがと。譲治兄ちゃんかっこいい! あのね、明日会ってほしい人はね、内鵜仁くんっていって、学校一の天才なの。譲治兄ちゃんに紹介するね。あ、念のためLINEの連絡先教えとくね』
いよいよ美麗と仁の二人のカウントダウンが始まるのね。ああ、明日が待ち遠しいわ。
あ、そうだ。人魚の話も進めとかないとね。明日細野美恵が家に来てくれるわけだし、その前にママに人魚に会ってもらっとかないといけないわね。
「ねえママ。ママに会って欲しい人がいるの」
「何? それは細野美恵を家に連れてくることと何か関係あるの?」
「うん、多いに関係あるの。実はさ、ママにいまから会ってもらう人に細野美恵を紹介してほしいの」
「だったらその人が明日、私と一緒に体験レッスン受けに行けばいいんじゃないの?」
「そりゃあそうなんだけどさ。ちょっと理由があって、彼女、レッスン会場まで行けないんだ」
「何よ? どういうこと?」
「会ってもらえば、絶対ママも私が言ってること納得するから。だからお願い、取り敢えず彼女にいまから会ってくれないかな? すぐそこにいるから一〇分だけ時間ちょうだい」
「な、何? いまから外、出かけるの?」
「どうせ誰も見てないからスウェットで大丈夫よ」
「だって人に会うんでしょ? 化粧くらいはしてかなきゃ」
「大丈夫だってば。そんな気い使う人じゃないんだから」
「ううん、わかったわよ。だあれえ? そんな急いで会ってほしい人って。しかも近所に住んでてママの知らない人なの?」
「ゴメン、説明が難しいんだ。でもその場に行って彼女に会ってもらえればわかるから」
「パパぁ、ちょっとだけ出かけてくるわね。ん? 寝てるからいっか。じゃ、遅くならない内に行きましょ」
「ママ、ありがと」
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『ザッパーン』
「美麗ちゃん、こんな所に一体誰がいるっていうの? あれ? そんな穴ん中入ってくの? 待って待って。ちょっとママ足下見えなくて転びそうよ。もうちょっとゆっくり歩いてちょうだい」
もう、ママいちいちうるさいなぁ。人魚が私以外の声に震えてこっちに出てこなくなっちゃうじゃない。
仕方がない。いったん外で待っててもらった方がよさそうね。
「シィィ、ママ。ちょっと静かにしてて。彼女びっくりしちゃうから」
「だって突然そんな穴ん中入ろうとするんだから、誰だって不安に思うじゃない。ねぇ、そんな所に誰がいるのよ」
「シィ。ママはちょっとここで待ってて。美麗が彼女を呼んでくるから。絶対ここ動かないでよ」
「わかったわよ。できるだけ早く戻ってきてよ。ママ、こんな所でひとりぼっちにされたら怖くて泣いちゃうかもしれないじゃない」
「泣くときは声をおし殺して泣いてね。絶対に声張り上げちゃダメよ。いい?」
微かな月明かりの下、ボンヤリと見えるママの輪郭が、わずかに首を縦に振るのが見えた。
「じゃ、ほんのちょっとの間だから、おとなしくして待っててね」
よし、これで人魚を怖がらせる材料が減ったわね。あの人魚、すぐに出てき来てくれるかな?
この続きは3/3更新予定です。お楽しみに!




