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飛び込んだ先は、幸せな未来世界でした。 作者:南郷 兼史

1章 序章

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第1話 奈落の底にある過去

2008年5月**日、12時7分、西八王子駅周辺の踏切。
――今日、僕は死ぬことを決めた。


カンカンとけたたましく遮断機が鳴り響き、死への合図を僕に知らせる。
もうすぐ特急がここを通り過ぎる予定だ。

・・・ようやく僕の27年間の人生も終わるんだな。
自分でも不思議なくらいに身も心も軽い。今が生きていて一番幸福な瞬間なのかもしれないや。
あぁ、早く来ないかな。早く僕を死へ誘ってくれ。
体感では、鳴り始めてから3分ぐらい経過しているように感じる。
なのに、なぜか来ないのだ。

ふと、遮断機を見上げる。
普通赤く点滅しているはずだが、そんな様子はない。
こんなとき限ってに幻聴か。いや、いつものこと(・・・・・・ ) じゃないか。
ははは、いつになっちも自分というものは愚かだ。
誰かこの愚かな自分を笑ってくれないかな。普段と同じように(・・・・・・・・)

『惨めだな下河。お前が死んだら笑ってやるよ』
突如、同じ中学の水泳部だった**が話しかけてきた。
「死んでからじゃないと笑ってくれないのか」
『笑う価値もないわ。あんたなんて元々死んだようなモノでしょうよ?』
『男なのに、チビでバカで気持ち悪い面してたらキモくない?笑えないほどキモいわー、ないわー』
中学2年生の時にクラスメイトだった***と**だ。
「・・・僕は、どうして虐められなければならなかったんだ。君たちに何も危害を加えていないのに」
『先生のクセにそんなことも分からないのですか?こんな先生に教えられている息子の身にもなってくださいません?もし息子虐められていていたとしても、その気持ちが分からないなんて言えるんですか!』
今の小学校にいる*君の母親の**。いわゆる、モンペと呼ばれるものだ。
「・・・・・・論点がずれています」
『はぁ?あんだ、気の狂っちいるんじゃなかと?』
僕の父親だ。失踪してもう死んでいるはずなのにね。
お前の声など二度と聞きたくもなかったのに、まさか死ぬ直前に聞くとはな。
「黙れ愚か者の。にしゃらんしぇいでおれん人生は滅茶苦茶だ。二度っち現れるなっ!」

幻聴というものは、どうも僕を肯定してくれない。
いつだって僕を貶し、嘲笑し、死ぬように仕向けてくる。
こんなんじゃ、生きる気力なんて湧いてくるはずもない。
どんなマゾヒストでもこれには耐えられないだろう。それは偏見か?
・・・なんやか馬鹿馬鹿しくなっちきよった。
しょんなかな。ぼぐん戯言ばってん聞いてくれ。

察しがいい人は気づくかもしれないが、僕は福岡出身だ。
若干方言が混ざっているだろう。普段話すときは滅多に出ないのだが、心の中で考えているときは時々出てしまう。
東京に越してきたのは小学5年生の夏のことだ。父親の転勤で一緒に行かざるを得なかった。
そう、それがすべての始まりだった。あの凄惨な日々を送る羽目になったのは――

僕は、男性でありながら163㎝と背が低い。小学生の時は140cm台だったので、女子に負けることも多々あった。
そして、そこまで顔が良いとは言い難いし、成績も大したものではない。
何より東京の人にとっては、福岡は田舎で治安が悪いというイメージがあるらしい。散々それをネタにされた。
それらが転じてか、僕は彼らの普段の鬱憤や憎悪を他にそらすための身代わり、『 贖罪の山羊(スケープ・ゴート )』となってしまったのだ。

それからの出来事は思い出したくもない。何も良いことなんてない。
給食が抜かれたり、あったとしても異物が入っていたりと食べられたものじゃなかった。
何せ許せないのは、担任がそれを見て見ぬフリをしていたからだ。むしろ楽しんでいたようにも見える。
持ち物を目の前で裂かれたり、地べたに這いつくばせて靴を舐めさせたり、ウサギ小屋に閉じ込めて帰れなくさせたり・・・まだまだあるが、なんとなく察してくれ。

中学になった時には少しは良くなると思っていた。
だが、現実はすぐにその希望を裏切った。ますます酷くなったのだ。
半ば強制的に水泳部に入らされ、入った当日から過度な走り込みをやらされた。
夏にはプールに入るが、泳ぐのではない。沈めさせられるのだ(・・・・・・・・・ )。肺活量を鍛えるという名目で。
ほぼ殺人行為だということは言うまでもない。けれど、それを普通(・・)に行う。
もちろん、それを課されるのは僕だけだ。
先輩方が僕の上に乗り、無理矢理沈めバカ騒ぎしている。
どうしようもないほど苦しくて、何度も失神しかけた。
決められた秒数を達成できなかった時は、殴られ蹴られやりたい放題だった。
時には性的なことも強要された。尿を飲まされたり、性器を咥えさせられたりと僕にとっては屈辱だった。

逃げれば良かった、今思えばそうだ。
それにも関わらず、そんなことを考えさせないほど思考が奪われていた。
辛い、辛い。ただただ辛い。けれどそれが僕にとっては普通(・・)のことだったから疑わなかった。
誰にも助けを求めない。求めてしまったら負けだからだ。
親に学校のことは一切話さなかった。どうせ、どうにもならないことは分かっていた。

・・・何とか底辺の高校に入り、隠れるようにして過ごしていたが、やたら話しかけてくる生徒がいて恐怖でしかなかったな。
それ以外は特に何もなく、1浪してから大学に進学した。
大学も言っちゃ悪いが底辺だ。それでもその大学内ではそこそこ成績が良かった。
そして、何よりも記憶に残っていることがある。


――そう、僕に告白してきた生徒がいたのだ。
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