初依頼
冒険者登録をした次の日、俺は父さんと2人でギルドへと来ていた。
朝のギルドは多くの冒険者がおり、とても騒がしかった。
人ごみの中を父さんの後を追って歩いていく。
着いたのは依頼書が貼られた奥の壁。
そこで父さんが説明をしてくれる。
「いいか、エリック。昨日も言った通りここから依頼を選んで、受付で受注するんだ」
「うん、わかってる」
「よし・・・。それで、今回俺たちが受けるのはここにある依頼じゃない」
父さんは依頼書の前から離れギルドの外へと出る。
そのまま街の門へと向かう。
その道すがら説明をしてくれる。
「今回俺たちが受けるのは常駐依頼。普通の依頼と違っていちいち受注する必要がないんだ」
「常駐依頼・・・どんなのがあるの?」
「そうだな・・・今回やる予定のはゴブリンやコボルトの討伐依頼だな」
「ゴブリンは戦ったことがあるけど、コボルトはないな・・・」
村の周辺にはゴブリンくらいしか出てこない。
コボルトは犬が二足歩行しているような魔物だ。
10歳の時に神託を受ける際、護衛の冒険者が戦っているのを見たことがある。
「ははは!心配するな。ゴブリンを軽く倒せるんだ。エリックなら大丈夫さ」
「そうかな・・・?」
「ああ、自信を持て!お前は俺の息子だぞ?」
「・・・うん。そうだよね」
父さんに励ましてもらった。
(そうだよな・・・。たとえ相手がゴブリンと姿形が違うといっても、只の魔物だ。いつも通り行けば初めてでも勝てる)
そうやって自分でも自分を励ましながら、初めて戦う敵との戦闘に対する緊張を解す。
「全く、エリックは才能もあるんだから大丈夫だろうに・・・」
父さんのその言葉に少しだけ暗い顔になってしまう。
だが、それを父さんに悟られないようにする。
(才能・・・か)
ティアーツさんに、自分が才能を使いこなせていない事を教えてもらったあの日。
あの日から俺は、どうにかしようと頑張った。
まず、父さんの知り合いに才能持ちがいないか聞いた。
「ねぇ父さん」
「どうした?エリック」
「父さんの知り合いに誰か才能持ちの人はいない?」
「いや、いないぞ?何かあったか?」
「う、ううん。ただちょっと気になっただけ」
父さんの知り合いには、才能持ちの人は居なかった。
少しだけ期待していたので残念だったが、気持ちを切り替えよう。
次は、エリール様にもらった知識の中に入っていないか思い出す。
(才能・・・才能・・・才能・・・?)
思い出そうとした結果、全く出てこずに諦めた。
恐らくは基礎知識ではないからだろう。
(ま、そりゃそうだよなぁ・・・)
これはあまり期待していなかったので、予想の範囲内であった。
(けど、本当にどうしよう・・・)
しかし、予想の範囲内とは言っても実際に困ってはいるのだ。
才能の使い方が分からないのならば宝の持ち腐れである。
(ハァ・・・どうしようかな・・・)
才能について悩みながらも時は過ぎていった。
(本当、どうしよう・・・)
あれから長い時間が経っているが未だに解決できていない。
どうにか、少ない冒険者としての活動中に才能持ちの人に会えればいいのだが・・・。
悩みながら父さんと共に門を抜けて近くの森へと向かう。
森の中は陽光が入り明るく、見通しもそれほど悪くない。
「よし、早速魔物の気配を探そうか」
俺は頷き気配察知を始める。
すると、近くに数体の気配を察知する。
(これは・・・ゴブリンかな?)
気配の正体の予想をしながら、父さんを連れて向かう。
父さんも気配察知出来るが、俺の練習のためにしないようだ。
そのため父さんは、何体いるのかも分からないまま付いて来ている。
この森の魔物なら何体いても問題ないのだろう。
父さんの余裕の表情を見ながら、気配がしている場所へと辿り着く。
気配の正体を木の影から確認すると・・・。
「コボルト、だな」
「・・・うん」
見える範囲にはコボルトが4体いた。
近くには獣の死体があることから食事後だろうか。
全員が寛いでおり隙だらけである。
「・・・まずはエリック1人で行ってみるか?」
父さんの言葉にやや緊張しながらも頷き、剣を構える。
そして、静かに木の影から出ると全速力で敵へと接近する。
此方に気づいたコボルト達は、急いで戦闘態勢に入ろうとするが、もう遅い。
一番初めに接近したコボルトの首を、走った勢いのまま剣で貫く。
(まず、1体)
倒したコボルトから剣を抜き、抜く時の勢いのまま回転、横にいた仲間の首を撥ねる。
(2体目)
残った2体を見据える。
「グルルゥ・・・」
2体とも戦闘態勢に入っており、牙を此方へと向けて唸っている。
仲間を倒された怒りもあるだろうが、一瞬で倒した俺に怯んでいるようだ。
一定の距離を空けたまま睨み合う。
(土、沼、動きの阻害)
突如、コボルト達の足元が沼に変わり動揺している。
その間に近づき2体の首を同時に撥ねた。
「フゥ・・・」
無傷での勝利に安堵の息を吐く。
(無詠唱での魔法も無事発動したし、良かった)
倒されたコボルトの傍にしゃがみこみ、素材を剥ぎ取り始める。
「よしよし、完勝だな。さすが俺の息子だ」
父さんが木の影から出てきて褒めてくる。
「まあね」
「いいかエリック、コボルトを倒した後は、討伐証明のために耳を両方持っていくんだ」
父さんは倒されたコボルトの素材を剥ぎ取りながら、両耳も取っている。
それに倣いながら自分も取っていく。
4体全てを剥ぎ取ると、父さんと共に森の外へと出る。
「とりあえず今日は、依頼の報酬とコボルトの素材の代金を受け取って、終わりだ」
「うん、わかった」
「それじゃ、ギルドに帰るか」
「うん」
2人並んで街へと入り、ギルドへと戻る。
中は、朝に比べて人が少ないが、酒を飲んでいる者はやはり居た。
酒を飲みながら騒いでいる人達を横目に、受付へと行く。
担当してくれたのは昨日の女性だった。
(もしかして父さん、綺麗だから選んでるんじゃ・・・)
父さんをジト目で見ながらも、受付の女性に促されコボルトの耳と素材を出していく。
それらを確認すると、女性は奥へと入っていき、トレイの様な物に銅貨を乗せてきた。
「コボルトが4体で銅貨2枚、素材の買取で銅貨1枚、合計で銅貨3枚です」
トレイを自分の前に置きながら説明してくれる。
その説明を聞きながら銅貨を見つめる。
(じ、自分で稼いだお金か・・・)
自分の力で依頼を達成し、お金を受け取る。
まさに、冒険者である。
(これが、冒険者か・・・)
自分が冒険者であることを実感しながらも、待たせては悪いと思い、銅貨をトレイから取り始める。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言いながら取ると受付の女性は少しだけ目を丸くする。
父さんは笑うのを我慢しているようだ。
不思議に思いながら考えると、すぐに理由が分かる。
(そうか・・・。普通、冒険者が報酬とかを受け取る時に、お礼とか言ったりしないもんな)
理由に気づき、受付の女性に声を掛ける。
「えと、自分癖でよく言っちゃうんです。迷惑とかだったら許してください。次からは気をつけるので・・・」
自分の言葉に少し遅れて反応する。
「・・・いえ、そんな事ありませんよ。お礼を言われると、此方もいい気分になりますので」
軽く微笑みながら言ってくる。
その美しさに顔が少しだけ赤くなる。
「そっ、そうですか。なら、気にしないことにします」
「はい。ぜひ、そうしてください」
受付の女性と話し終えるとギルドを出た。
ギルドを出ると街道を歩き始める。
「おいおい~、もしかして惚れちゃったか?」
父さんがニヤニヤしながら言ってくる。
「ち、違う!綺麗だったから緊張しただけ!」
「ん~?赤くしながら言っても説得力がないぞ~」
「うぐぐ・・・」
からかわれて恥ずかしくなり、そっぽを向いて歩き始める。
「悪かった、悪かった。そんなに怒るなよ~」
「別に怒ってないし!」
「そうか~?」
またもニヤニヤしながら見てくる。
「うぐぐ・・・もう!俺、観光に行くから!」
「あ、ちょっと待てよー。エリックー」
そうやって街道を騒がしく歩きながら、観光へと向かった。
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