戦闘
「てやぁ!」
ゴブリンの攻撃を避けながら両手剣を繰り出す。
「ギャギャァ!」
見事に剣はゴブリンの心臓へと突き刺さり、倒す事ができた。
その俺の戦闘を見ていた父さんが声をかけてくる。
「よーし、中々良い動きになってきたな」
そう言いながら頭を撫でてくる。
「へへ、まぁね。なんたって俺は、父さんの息子だよ?これくらい朝飯前さ」
父さんに向かって胸を張る。
「馬鹿、調子に乗るな。」
そう言って頭を叩いてくるが嬉しそうだ。
そうして話しながらもゴブリンの素材を剥ぎ取り、他の魔物を探して森を歩く。
こうして俺も戦闘に参加しているのは、冒険者になるためである。
あの冒険者になる発言から4年、俺はすくすくと育っていた。
あの日、冒険者になる発言をした4年前。
俺が言った言葉に父さんは喜び、母さんは仕方ないという顔をしながらも心配そうだった。
そんな2人に俺は言葉を続ける。
「けど、冒険者をするのは時々だけ。基本は他の仕事をするよ」
その言葉に2人は不思議そうにする。
俺はその意味を話す。
「確か冒険者の中には、副業として冒険者をしてる人がいるよね。俺はそういう人達みたいに、副業として冒険者をやろうと思うんだ。」
「な、なな・・・エリック、本気か?」
父さんは慌てながら確認してくる。
それはそうだろう。
適性は冒険者、戦闘の才能持ち。
まさしく、冒険者になるために生まれたようなものである。
だが、俺は適正よりも自分の命をとる。
その為には父さんの夢も見て見ぬフリをする。
見て見ぬフリを、したいのだが・・・。
やはり俺の所為で落ち込む姿を見たくない。
そう思った結果、こんな決断になったのだ。
(そもそも、冒険者一筋ってのが無理があるよな・・・)
そう、冒険者一筋で生きていくには、相応の腕が必要である。
父ダリルも、中堅の中でも上の方に居たため生活できていたのだ。
それを俺がやれるとは思えない。
いくら戦闘の才が有るといっても俺自身が向いていないのだ。
日々、危険と共に生きていく。
いつ死ぬか分からない恐怖で死にそうである。
そういった事からも、冒険者を副業とし、本業は別にしようと思ったのだ。
「本気だよ、父さん。俺は冒険者を副業としてやって行くよ」
その言葉を聞いた父さんは、俺の意思を変えられないと分かったのだろう。
凄く残念そうな顔をしながら言ってくる。
「分かった。エリックの意思を尊重しよう。・・・だが、訓練は今まで通り続けるぞ」
父さんのその言葉に強く頷く。
この世界で長生きするには強くなければならない。
その為には訓練は続けるしかないだろう。
そんな会話をしながらチラッと母さんを見る。
母さんの顔は先ほどに比べて、少しだけ安心している様に見えた。
「ただいまー」
狩り兼訓練を終えた俺と父さんは家へと帰る。
「おかえりー!」
そんな俺たちを迎えたのは母さん・・・ではなく、金髪で碧眼の小さな女の子だった。
「おお!ただいま、リズ!」
父さんはリズと呼んだ女の子を抱きかかえると、その場で回り始める。
リズも父さんに遊んでもらえて楽しそうである。
「リズ、兄ちゃんにもおかえりは?」
そう聞くとリズは俺の方を向いて、
「おかえり!エーク!」
満面の笑顔で言ってくる。
そう、リズは俺の妹であり、母さんと父さんにとって2人目の子供である。
あれから無事、出産に成功した母さんと父さんは、女の子が生まれた事に大層喜んでいた。
それを見ていた俺は、少しだけ寂しい気持ちになったのは内緒である。
リズはすくすくと元気に育ち、現在は4歳になっていた。
そんなリズは、赤ん坊の頃からの癖で俺をエークと呼ぶ。
(に、兄ちゃんと呼んでくれよ・・・)
そうやって一人悲しく落ち込んでいると、母さんの声が聞こえた。
「皆ー!ご飯できてますよー!」
「はーい!」
その声に元気に返した俺は、リビングへと急ぐ。
そうして、テーブルの席へと腰を下ろした俺の横にリズが座る。
家族全員が席へとつくと食事を始める。
今日もいつも通り質素な食事だがやはり美味しい。
食事を食べ終わると、いつもなら少し休憩してまた、狩り兼訓練へと行くのだが今日は違う。
父さんが村長に呼び出されていったのだ。
それを不思議に思い母さんに尋ねる。
「何かあったのかな?」
それを聞いた母さんは、食器を片付けながらも答えてくれる。
「今日の昼前に『国境なき騎士団』がこの村に訪れたのよ」
その言葉に首を傾げる。
(国境なき騎士団・・・?)
聞いたことがないその言葉に悩んでいると、母さんが教えてくれる。
国境なき騎士団とは、どうやら国など関係なく各地の村や街を助けて回っている団体らしい。
主な活動は魔物や魔獣の討伐で、その腕は一人一人が国の兵士10人を相手に圧勝出来る程と言われている。
そんな有名な団体が今日、この村を訪ねてきたらしいのだ。
現在は村にある家の数件を貸している状態らしい。
父さんが呼ばれた理由はこの村の周辺状況を説明するためらしい。
「あの人、失礼しなければいいのだけれど・・・」
母さんが少し心配そうに呟く。
そんな母さんを苦笑しながら家を出る。
(父さんがいないんなら、森の近くで気配察知の訓練でもしてよう)
わざわざ1人で森の中へと入る様な危険な行動はしないのだ。
そんな事を考えながら森の近くへと行き、訓練を開始する。
(・・・近くには何にもいないな。・・・ん?)
しばらく気配察知を行うが何も見つからず安心してるいと、小さな気配を見つける。
それはその場から動かず固まっているようだった。
(ゴブリンよりも小さいぞ?)
少し気になりそこまで深くないため、その気配の元へと向かう。
森の中を少し急いで向かうと気配の正体へと辿り着く。
その後ろ姿は幼く、髪は金色で腰まで伸ばしている。
(って、リズ!?)
そう、その後ろ姿は妹のリズであった。
先ほどの食事の後から姿を見なかったが、まさか森の中へと来ていたとは・・・。
家の中で1人で遊んでいるだろうと思っていたが違ったようだ。
恐らく母さんも俺が見ていると思って目を離したのだろう。
その結果、森へ来たと・・・。
(後で母さんに怒られるな・・・)
少し憂鬱な気分になりながらリズの元へと向かう。
先ほどから立ち尽くしたままだったリズへ声をかける。
「リズ駄目だろう、森に入っちゃ。早く戻ろう。・・・リズ?」
リズは俺の声が聞こえていないのか返事がない。
そんなリズを不思議に思いその視線の先へと目を向ける。
「なっ・・・!」
視線の先には、2mを越す巨体が近くの獣の死体を貪っていた。
巨体はゴブリンの物よりも大きな棍棒を持ち、尖った耳と潰れた鼻が特徴的だった。
その巨体の名はオーク。
この森の奥にはいても、こんな場所にはいない魔物である。
(な、なんでオークが・・・。って、そんなことより早くリズを連れて父さんに!)
そう思い逃げようとするがオークの潰れた鼻が動く。
「フゴッ」
一つ鳴くとオークはその目を此方へと、いや、リズへと向けた。
オークは若い女を連れ去り苗床にするという。
(まさか、リズを!?)
信じたくなかったがそう考えればリズが襲われなかった事にも納得出来るし、俺がリズを連れて行こうとしたため食事を止め此方へと視線を向けたのだろう。
オークは此方へとゆっくりと近づいて来ており、リズを凝視している。
チラッとリズを確認すると尻餅をついて固まっている。
(や、やばい・・・リズは多分、恐怖で固まって動けないんだ)
こんな状態のリズを抱えて逃げれる訳が無い。
(やるしか・・・ない)
決心しリズを守るようにリズとオークの間に立つ。
「フゴッ!」
邪魔をするなという感じに強く鳴くオーク。
その声に後ろのリズが驚き、泣き出しそうになっているのが分かる。
そんなリズの頭を軽く撫でる。
「大丈夫だ。兄ちゃんが必ず守ってやるからな」
そう言っている俺の手も軽く震えている。
だって仕方ないだろう。
今まで戦ってきたのはゴブリンや小さな獣くらいだ。
こんな大きな敵は初めてである。
震えない方がおかしい。
「フゴオオォォォ!」
リズの前から鳴いてもどかない俺に、怒ったオークは此方へと棍棒を振り上げながら走ってくる。
俺はその攻撃を迎え撃つために前へと歩み出る。
オークが近くへと来る。
その巨体にビビリながらも、棍棒の攻撃を防ぐために剣を構える。
棍棒が振り下ろされる。
次の瞬間、体に来る衝撃。
それをなんとか耐えると痺れた腕を使い棍棒を弾き返す。
「フゴッ!?」
まさか耐えるとは思わなかったのだろう。
驚きの声と共に隙ができた腹へと蹴りをかます。
「うぐっ・・・ぅらあ!」
あまりの重さに声が出るが脚に力を入れてオークを蹴り飛ばす。
「プギャァ!」
蹴り飛ばされたオークは地面を転がり木へとぶつかる。
「ハァ・・・ハァ・・・」
腕の痺れを気にしながらもオークから目を離さない。
木にぶつかったオークはゆっくりと立ち上がり此方を見てくる。
その目には攫うのを邪魔した俺への殺意が満ちていた。
後ろのリズも殺意にあてられまた泣きそうになっている。
「・・・へっ、来いよ。次は鳴けなくしてやる」
強がりを言って自分の心を保つ。
「プギィィィィィィ!」
そんな俺の言葉を理解したのか分からないが、今までで一番強く鳴いたオークは全速力で此方へと迫ってくる。
(次は、受け止めきれない・・・)
オークの突進を見据えながら冷静に考える。
このまま攻撃を受ければ確実に死ぬ。
ならば、どうするか?
(・・・そんなの決まってる。こっちからも攻撃してやるだけだ!)
剣を構えオークの動きを見極める。
幸いオークは激昂しており動きは突進だけと単純だ。
ならば、それに合わせるだけである。
ぐんぐん近づいてくるオーク。
(まだだ・・・まだ、まだ)
剣に力を込めながらオークを待つ。
(まだ・・・今だ!)
そして、オークが攻撃範囲に入ると同時に剣を繰り出す。
それはゴブリンを倒したのと同じ心臓への突き。
剣先は、オークの心臓へと吸い込まれるかのように向かっていく。
「くらえぇぇぇぇ!」
剣先はオークの心臓へと深々と突き刺さっていき、体を貫く。
だが、オークはその勢いを止めることなく突き進み、俺ごとリズを通り過ぎ木へとぶつかる。
大きな音が森に響いた。
「ガハッ・・・!」
肺の中の空気と共に口から血が出る。
オークはその殺意の満ちていた目から、光をなくしていき最後には剣を刺したまま横に倒れた。
俺は木からズルズルと落ちると、木に体重を預けながら地面へ座り込む。
(な、なんとか勝てた・・・)
勝てた事に安堵しながらリズの方を見ると、泣きながら此方へと向かって来ていた。
(ったく、リズには勝手に森に入らないように怒ってもらわなきゃ)
そんなことを考えていると、
「・・・リズ!、エリック!?」
父さんが遠目に走ってくるのが見えた。
(良かった・・・。あとは、お願い、父さん・・・)
その姿に安心すると、朦朧としていた意識を手放した。