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自分のこと

教会で信託をもらった後は宿をとり、長旅と信託で色々と疲れた俺はすぐに眠りについた。

父さんは冒険者時代の仲間達と会いに行った。

次の日の早朝には、観光もせずに村へ帰るために馬車へと乗る。

ちなみに、馬車に乗るには銅貨1枚である。

そして、2~3日程掛けて村へと向かう。

その道中、俺は自分の特殊な力、いや、スキルについて考えていた。


(全能・・・頭に入って来たのは、条件だけだったな)


そう、頭に入って来たのはスキルの使い方ではなく、条件のみだったのだ。


(それに、その条件も『生命を助ける場合』っていう曖昧なものだ)


仮にスキルの使い方が分かっても、生命を助ける場合というのがわからない。

魔物や魔獣を倒せば間接的に人を助けることになるけど、間接的に助けるときでも力は発揮されるのだろうか?

そもそも魔物や魔獣も生命体なのだから、生命を殺していることになる。


(使い方もわからないし、使えるかもわからない・・・)


もしかして一生使えずに死ぬのだろうか、と考えながら遠くの景色を眺める。

遠くには魔獣のような、只の動物のような生き物たちが草を食べている。


(何も悩みがなさそうだなぁ・・・羨ましい)


等と考えながらも気持ちを切り替える。


(わからないことを考えてもしょうがない。今は、信託でもらった他の情報について考えよう)


そう考えて情報を思い出す。


(確か、戦闘の才っていう才能を持っていたはずだ)


そう、エリール様が転生させてくれる際に与えると言っていた才能は、戦闘の才だったのである。

この才能は、戦闘センスの上昇と、その人の身体に合わせた技術も向上させてくれるものらしい。

才能についてはしっかりと頭に説明があったのだ。


(戦闘センスの上昇か・・・多分、冒険者の人は多くの人間が持ってるだろうな)


冒険者は大抵、戦闘を行い生活をしているのだ。

戦えなければダメだろう。


(エリール様も気を使ってくれたんだろうけど、これじゃエリール様にも冒険者を勧められてるみたいだ)


少し遠い目になりながらも他のことを思い出す。


(・・・そうだ、魔法についてもわかったんだった)


教会での神託では魔法の使い方についても教えられる。

それは、幼い内に魔法の使い方を知ってしまうと事故の原因になってしまうからだ。

過去にも、貴族の子どもが幼い内に神託をもらい、大規模な火事を起こした事があったそうだ。

そんな事があって以来、魔法の使い方も教えられる神託は、成人になる5年前の10歳の時と決まったそうだ。


さて、そんな事は置いといて、早速魔法を使ってみようと思う。

ただし、火や水の魔法ではなく、風の魔法で微風を起こす程度である。


(えーっと、属性は風で、微風、俺の足元をただ吹き抜ける)


そう考えながら魔力を消費する。

すると、


(お?)


足元をフワッと、微風が吹き抜けた。


(おぉ!すげぇ!魔法だ!)


その現象に、先程までの落ち込んだ気持ちも忘れ、微風を出しまくる。


(すげぇ、すげぇ!)


しばらくすると魔力が少なくなってきたのか、倦怠感が出始める。


(やばい・・・魔力を使いすぎた)


慌てて魔法をやめる。

途端に微風は止む。


(フゥ・・・魔法を使えるってのは楽しいな)


少し満足げに景色を眺めるのだった。






夜、馬車の中は静かだった。

皆、寝ているのである。

そんな中、馬車の外には焚き火が一つ。

御者が雇っている冒険者たちである。

そんな冒険者たちが立てる音を聞きながらも考える。


(どうすれば、のんびりと平和に生きれるだろうか・・・)


と。

適正は冒険者と出たが、別にならなくてもいいのである。

適正は適正であり、絶対ではない。

その職が嫌ならば他の職をすればいいのだ。

そもそも冒険者は、血の気が多い者がなると言われている。

自分はそんなタイプじゃない。

自分に冒険者は向いていない、と考える。

だが、


(父さんがすごい喜んでるんだよなぁ)


そう、父さんの喜び様がすごいのだ。

街でも、宿への道中ずっと冒険者のかっこよさを話したり、馬車に乗ってもそれは変わらず冒険者や男のロマンを話続ける。

恐らく父さんは、一緒に冒険がしたいのではないだろうか。

自分の息子と協力し魔物や魔獣を倒す。

そういう事を夢見ているのではないか。

そう考えている。


(けどなぁ・・・)


冒険者は、命がいくつあっても足りないとも言われている。

戦闘の才があると言っても、死ぬ時は死ぬのだ。

そう考えると、やはり恐いと思ってしまう。


(俺の目標は、のんびり平和に長生きすること、なんだけどなぁ・・・)


冒険者は全くの真逆である。

どうするべきか、と考えながらも意識は夢の中へと落ちていく。






遂に村へと到着する。

実に早い帰還である。

街の観光もせずに帰ってきたのだから、当然とも言えるが・・・。

では何故、こんなにも急いで帰ってきたのか。

それは、村に残した家族に理由がある。


「ただいまー!」


父さんが急いで家へと入っていく。

そして、父さんを出迎えに母さんが出てきた。


「あらあら、早いですね。もう少しゆっくりしてきても、良かったんですよ?」


そう言う母さんのお腹は膨れている。

そう、母さんは妊娠しているのだ。

見事に夜の営みが成果をだしたのである。


「ばか、こんな状態のお前を置いてゆっくりできるか」


父さんはそう言いながら、母さんを優しくリビングの椅子へと座らせる。


「フフッ・・・私のためにごめんなさいね。」


そう言っている母さんは少し嬉しそうだ。

もうお腹もだいぶ膨らみ生まれそうである。

時々、俺の時にもいた近所の女性が見に来てくれているが、順調に育っているそうだ。

何故、こんな状態の母さんを置いて街へと行ったのか。

それは簡単な理由である。

10歳で神託を受ける日は、決まっているからである。

どうやら10歳で神託を受け、成人するまでの5年間で力の使い方を覚えろという事らしい。

そして、混雑しないために一人一人受ける時間や日が違うのだ。

あの馬車も教会と国が出す物で、本来なら銅貨1枚ではすまない。

そのため、母さんが妊娠しているこの状況でも、父さんは俺のために街へと向かったのである。

罪悪感があったが仕方ない、俺を生んだのは2人なのだから。






夜になり、家族3人でテーブルの席へと着く。

そうして、一家団欒していると父さんが話し出す。


「そういえば、エリックの神託について話してなかったな」


その言葉に母さんも頷き返す。


「そうでしたね。どうだったんですか?」


父さんは少し硬い表情になりながら話し出す。


(・・・?)


自分に話す時との違いを、不思議に思いながら見る。


「エリックの適正は、冒険者だった」


それを聞いた母さんは、固まってしまった。

父さんが目の前で手を振るが、動かない。

そんな母さんに、父さんは慌てて言葉を続ける。


「で、でも!才能持ちだったんだ!」


それを聞いた母さんは、ゆっくりと口を動かす。


「・・・どんな才能だったんですか?」

「あ、えっと、だな・・・」


母さんのその言葉に、父さんは口ごもる。

父さんは適性が冒険者と聞いてから、才能の事を聞いてこなかったのだ。

恐らく、今話すまで忘れていたんではないだろうか。

父さんが俺の方をチラリと見てくる。

それに俺は、ため息を吐きながら教える。


「ハァ・・・戦闘の才だよ」


それを聞いた父さんは目を輝かせ、母さんは考え込み始める。

多分、父さんは冒険者にさせたいが、母さんはそれに反対なのではないだろうか。

いや、きっとそうだろう。

自分の子どもを危険な職に就かせるなど、親としてはたまった物ではない。

父さんがおかしいのだ。

うん、きっとそうだ。

しばらく悩んでいた母さんは俺を見てくる。


「エリックは、どうしたいの?」


それを見つめ返していると、母さんが俺の意思を聞いてくる。

恐らく母さんは、俺がなりたいと言えば父さんに賛成し、俺がなりたくないと言えば反対するのだろう。

俺は考える。

冒険者には、なりたくない。

けど、父さんの夢を壊すのも憚られる。

じゃあ、どうすればいい?

俺は悩んだ。

その末に辿り着く。


「俺は・・・」


母さんと父さん、2人が見てくる。

その目は真剣だ。

そんな2人に俺は言う。

俺が、どうしたいのかを。






「俺は、冒険者になるよ」

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