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神託

「起きろ、エリック」


そう言って父さんが肩を軽く叩く。

それに応えるように瞼をゆっくりと開く。


「ん・・・なに?」

「ほら、見てみろ」


父さんは前方を見るように促す。

言われた通り前方を見ると、


「お・・・おぉ、おおお!」


そこには巨大な石壁で囲まれた大きな街があった。


「と、父さん!あれが・・・」


驚きながらも父さんに聞く。


「あぁ、あれがお前の行く教会がある街『ベトリール』だ」






力がわからないと悩んでいたあの頃から、早くも2年が過ぎていた。

どうやらあの頃は8歳だったようで、2年経った今はめでたく10歳になっている。

そして、10歳になったということは教会に行き力を知れるということである。

村から馬車で約2~3日程の距離を行くと見えてきた街、ベトリールこそがその教会があるところらしい。

ここに来るまでの数年間は長かった。

毎夜、魔力量が上がるかどうか分からずに、馴れておこうと魔力を放出し続け倒れるまで練習したり。

父さんに頼んで少しずつ剣の練習をしたり。

子供にしては、なかなかに頑張ったと思っている。

最近では、父さんの狩りに見学で連れて行ってもらったりしている。

その時見たのは、ゴブリンだけで、父さんがあっという間に倒した。

ゴブリンは薄緑色の子どもの様な体型をしており、棍棒を持っているのだが顔は驚くくらいブサイクである。

そんなゴブリンを父さんは軽く倒した。

しかし、倒されたゴブリンの死体がかなりグロテスクだったため、気分が悪くなり1回目の狩りはすぐに帰ることになった。

その後、父さんは母さんに叱られて拗ねていたが、内緒である。






そんな日々を送ってきたが、遂に待望の協会である。

ワクワクしながら馬車から見えるベトリールを眺める。

石壁の高さは8mほどあり近づくにつれその大きさが実感できる。

日本にはこれより高いものが沢山あったが、この世界でこれほど高い人工物は初めて見た。

石壁の感じからベトリールは、石壁に丸く囲まれた街であることが分かる。

その石壁の周りには畑が広がっており、多くの人が仕事をしている。

自分が乗っている馬車は、畑の中を通るように門へと真っ直ぐに伸びた道を走る。

まだ日は出たばかりの早朝である。

そんな時間にも関わらず門兵は既に立っており、御者から入街税を受け取っている。

さすがにまだ眠そうであるが・・・。


御者が入街税として渡していたのは貨幣である。

この世界はどうやら、中世のヨーロッパに似たようなものが、魔法によって独自に発達したような世界であり、紙幣はなく、貨幣で買い物や交渉等をしているようだ。

貨幣の種類は、


銅貨・銀貨・金貨・大金貨・白金貨


が、ある。

国家間や大きな取引などでは、大金貨や白金貨が使われるが、一般人ではあまり見ない物だ。

普通の農民の平均年収は、金貨約2~3枚程である。

その中から生活費などで引いていくと、手元に残るのは、良くて銀貨1~2枚程である。

先ほど御者が支払ったのは銅貨5枚である。

馬車の大きさにも依るが、一定の人数までは金額が決まっているのだ。

そのため、本来ならば銅貨5枚以上の人数でありながら、銅貨5枚ですんだのである。


そうこう考えている内に街の中へと入れたようである。

ベトリールの中は、早朝にも関わらず活気に満ちていた。

門から広場へと続く道は多くの人と馬車が行き交っている。

そんな中を、父さんと自分を乗せた馬車は、教会へ向かって進んでいく。






「これが、教会・・・」


今、自分の目の前には、前世でも見たような白い教会が聳えていた。


「ほら、エリック。行くぞ?」


父さんに連れられ教会へと入っていく。

中に入ると前世の教会のように長椅子が並び、奥にステンドグラスがある。

長椅子には多くの者たちが座って祈っている。

子どもや老人、冒険者まで祈っている。

小声で父さんに話しかける。


「凄く信仰されてるんだね」


父さんも小声で答えてくれる。


「この教会は『生命の女神フェルニ』様の教会だからな。命について考える者たちの多くはフェルニ様を信仰してるんだぞ」


・・・少しだけドヤ顔だったのは気にしないことにする。


(あれ?生命の女神ってことは、エリール様もいるのか?)


ふと、そんな疑問が出てくる。

エリール様は確か、全能の女神と言っていた。

もしかしたら教会があるかもしれない。

父さんに聞いてみよう。


「父さん。全能の女神っているの?」


そう聞くと父さんは、顎に手をやり思い出そうとしている。

しばらく悩むと、思い出したのか教えてくれた。


「あぁ、いるぞ。いるいる。『全能の女神エリール』様だろ?よく知ってたな?」

「この前、村に来た商人に聞いたんだ」


父さんの質問に答えながら考える。


(いるってことは、教会もあるはずだ。いつか行ってみたいな)


そんな風に考えていると、父さんが近くにいた女性の聖職者に声をかけた。


「すまん。息子に神託を賜りたいんだが・・・」


声をかけられた相手は、こちらを見るとニコリと微笑みながら言った。


「わかりました。こちらへどうぞ」


その人の案内で、教会の中にある個室へと通される。

その個室は床に魔法陣が描かれており、3人が入ると淡く発光しだす。






魔法陣とは、場所を固定する代わりに、通常よりもすごい能力や効果を持った魔法を、使用できるものである。

だが、設置をするためには大量の魔力を消費し、一度設置をすると動かせないため、そう易々と設置できないのである。

しかし、考える者はいて、動かせないなら鎧や本に設置すればいい、と考えたそうだ。

だが、その案は失敗する。

魔法陣自体を描くことはできても、作動しないのだ。

その結果、魔法陣は固定しなければ使えないとされたのだ。






そんな魔法陣が目の前にある。

知識では知っていても実物は初めてである。

思わず声が出る。


「すごい・・・」


その自分の言葉に、聖職者は少し自慢げに、父さんは懐かしむように、こちらを見てきた。

二人の視線に気付くと恥ずかくなり、急いで声を出す。


「さ、さぁ!早速やりましょう!」


そう言うと二人は、はいはい、という感じで準備を始める。


(・・・なんか恥ずかしい。)


そう思っていると準備が出来たようで、父さんが部屋の隅に行き、聖職者は自分と向かい合うように魔法陣の反対側へと立つ。


「神託を受けし者は中央へ」


その言葉に従い魔法陣の中央へと行く。

そして片膝をつき、両手を握り合わせ、祈るポーズをとる。

聖職者が息を吸い、静かに言葉を紡ぎだした。


「スゥ・・・”神の言葉 汝の心に 届き 汝の全てを 示し 未来をも 示す”」


一旦言葉を区切ると、魔法陣が強く光りだした。

そして聖職者が少しだけ強めに発する。


「”全ては 汝がために”」


その言葉と同時、視界が染まる程に魔法陣が光り、頭の中に情報が入ってくる。






名前:エリック

適正:冒険者

才能:戦闘の才

加護:エリールの加護


スキル:全能(条件・・・生命を助ける場合のみ)






(じょ、情報って、これだけ・・・?)


あまりにもさっぱりとした神託に少し戸惑ってしまう。

そうして戸惑っていると光が弱まり元の淡い発光へと戻ってしまう。


(え・・・お、終わりじゃないよね?適性が冒険者とか、嘘だよね?)


そんな俺の思いとは裏腹に信託は終了したようである。

父がワクワクしながら近づいてくる。


「どうだった、エリック?適正はなんだった?才能はあったか?」


その質問に俺は、落ち込んでいることを気づかれないように答える。


「適性は、冒険者。才能もあったよ。」


父は嬉しそうに声をあげる。


「おぉ!本当か!俺と同じ冒険者で才能持ちか!」


今にも踊りだしそうである。

そこへ少し疲れた様子の聖職者が近づいてきた。


「おめでとうございます。才能持ちとは良かったですね。」

「あぁ、本当に良かった。才能持ちなら冒険者でも上手くやっていける」


父さんは敬語も忘れて聖職者と話し出す。


(え、俺の未来、冒険者で決まりなの?)


そ、そんな・・・、と肩を落とす。


何故、俺がここまで冒険者を嫌がるのか。

それは冒険者の危険性にあった。

冒険者は、その名の通り冒険をして生活するものである。

大抵は雑用や手伝いなんかもするが、一番多いのは狩猟である。魔獣と戦い素材を持ち帰り、それを金や装備に変えていく。

他にも、ダンジョンや遺跡の調査なんかもするのだ。

もちろん全部に危険があるわけではないが、他の職業に比べて危険度は高いと言える。

危険度が高いということは、死ぬ可能性も高いということだ。

俺は前世では酒も飲まずに死んだ。

若くに死んでしまったのである。

そんな俺はエリール様に力をもらう時にこう言った。


『周りを助け、自分も助ける力が欲しい』


と。

助けたい気持ちに嘘はないが、この力を選んだ理由はもう一つある。

自分を助ける、それは、長生きをしたいということだ。

前世を考えると、若くに死ぬ可能性は0ではないのだ。

この世界ならなおさらだ。

なら、なるべく危険から遠い所で暮らしたい。

今は、父さんと母さんに守ってもらえるけど、いずれは一人で生きるのだ。

そのとき周りが危険だらけではたまったものではない。

俺は、この世界では、長生きしたいのだ。


そんな俺の思いは露知らず、満足げな顔になった父さんは、聖職者にお礼を言うと俺を連れて宿をとりに向かう。


(ハァ・・・冒険者、やるしかないのかなぁ・・・)


そう思いながら、父に連れられ街を歩くのだった。

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