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魔王クロニカ

「―――貴様が、この身体の主の兄か・・・?」


父さん達のイチャつきに呆れながら部屋へと戻ると、おかしな様子のリズが起きていた。

いや、おかしいのは様子だけではない。

眼の色がいつもの碧眼ではなく黒く染まっていたのだ。


「お前は、誰だ・・・?」


リズではないと思った俺は相手に問いかけた。

すると、黒目のリズはため息を吐きながら言い返してくる。


「ハァ・・・まずは、我の質問に答えてからにしてもらおう」


呆れた目で見られてしまった。

しかし、黒目のリズの言い分はもっともだ。

質問に質問で返すのは俺自身もどうかと思う。


「わ、悪い・・・。俺は、お前が言う通りリズの兄だ」

「ふむ・・・。記憶の解析は問題なし」


俺の返事を聞いた黒目のリズは、顎に手をやり何か呟きながら考え出す。

あまりにも真剣な表情に、少しだけ静かにしてしまったが次は俺の番だ。


「次は、俺の質問だ。」

「・・・っと、そうだったな。なんだったか・・・我が誰か、だったか?」

「ああ、リズの身体を奪っているお前は、一体誰だ?それに、リズに何をした?」

「クックック・・・よかろう、答えてやる」


俺の質問に突然笑い出した黒目のリズは、俺に向かって腰に手をやりながら堂々と胸を張り言い放つ。


「我が名は、クロニカ!魔族の頂点に君臨せし魔の王である!今は理由あってこの身体に居候させてもらっている!」

「ま、魔の王・・・?」

「うむ!歴代最強の魔王とは我のこと!この双眸には数多の魔眼が入っているのだ!」


自信満々に自分の両目を指で開きながら黒目のリズ・・・魔王クロニカは話続ける。

それを俺は少し呆れた表情で見続ける。


「我の魔眼は、様々な能力を有しているのだ!例えば―――」

「リズ?何を騒いでるんだ?」


(やばい!)


クロニカが自分の紹介を続けていると、突然ドアが開き父さんが入って来た。

俺は慌ててクロニカの前に立ち、父さんから見えないようにする。


「と、父さん・・・」

「どうしたんだ、エリック。リズが大きな声を出してたけど・・・」

「い、いや・・・俺がベッドに来るのが遅いって怒ってたんだ」


内心冷や汗をかきながら父さんと話す。


「ああ、なるほどな。・・・いいなぁエリックは。リズは父さんと寝てくれた事ないんだぞー」

「あはは・・・今度リズに、父さんと寝てあげるように言っとくよ」

「おっ、頼んだぜエリック。期待してるぞー」

「う、うん。任せてよ」

「それじゃ早く寝ろよー」

「うん、おやすみ」


ドアが閉まり父さんが離れたことを確認すると、ベッドに近づき腰を下ろす。


(なんとか父さんにバレなかった・・・。けど、危なかったよな・・・)


チラッとクロニカを見ると、此方をジト目で見ていた。


「なに?」

「貴様、なぜ嘘をついた?」

「なぜって、バレたらヤバイでしょ・・・」

「なぜヤバイのだ?我が見られることで何か困ることでもあるのか?」


クロニカは、俺の隣へと座り此方を見上げてくる。

上目遣いする表情はリズそっくりで、なんだか普段のリズと話している気分になってくる。


(けど、今は魔王クロニカだ。勘違いしちゃいけない)


自分で自分に注意をしながらクロニカの問に答える。


「いいか?父さんはリズのことが大好きなんだ」

「うむ?」

「それはそれは大好きだ」

「う、うむ」


困惑した表情をしながらも聞き続けてくれる。


「そんなに大好きなリズを、クロニカが奪っていると父さんが知ったら・・・」

「知ったら・・・?」

「俺とクロニカ、2人合わせて生き地獄を見せられるかもしれない」

「い、生き地獄か・・・」

「ああ、きっと死んだほうが楽と思えるような・・・」

「な、中々に怖い父親だな」


クロニカの、父さんに対する評価に無言で頷く。

それが真剣な様子に見えたのかクロニカは少しだけ顔が固くなっている。


「ならばバレぬように居候しなければな」

「そうだな・・・って、居候?」

「うむ、居候だ」


クロニカの口から出た言葉を、思わず繰り返してしまう。


「あれ?リズの身体を奪ってるんじゃ・・・」

「そんなこと一度も言ってないぞ」

「え・・・」

「我は初めに言ったはずだ。理由あって居候させてもらっていると」

「そ、そうだっけ?」

「・・・」


呆れた目で見られ思わず顔をそらしてしまう。

てっきりリズの身体を奪っているのだと勘違いしていたのだ。


「・・・居候してるってことはリズ自体は無事なのか?」

「うむ、今は寝ているために我が出ているにすぎない。リズの意識は奥底にやっているのだ」

「リズに危害を加える気は・・・?」

「ない。だが、記憶等を見させてもらったりはするがな」

「記憶を?」

「ああ、あまり人間たちの事は詳しくないのでな。参考程度に見させてもらう」

「それに危険性は?」

「もちろん無い」

「そうか、なら良かった」

「・・・クックック」


俺の安心した表情を見たクロニカは、顔に笑みを浮かべ軽く笑う。

その行動が少し感に触った俺は、怒ったふうに言葉を放つ。


「なんだよ、俺の顔はそんなに面白いのか」

「クック・・・別にそうではない。ただ、父親だけでなく兄である貴様もリズを好きなのだなとな」

「なんだ、そんなの当たり前だろ。俺の自慢の妹だぞ?」

「クックック・・・そうかそうか」


楽しげに笑うクロニカの顔はリズの容姿ということも相まって無邪気に見える。

そんな笑顔を見ながら気になっていたことを聞く。


「ところで、居候するはめになった理由ってのは何なんだ?」

「・・・」


俺がそう聞くとクロニカは笑うのを止め、何も答えずに窓から外を眺めだした。

その横顔はどことなく悲しげ顔だった。


「あ・・・悪い」

「いや、気にするな」

「やっぱり勇者に殺されたんだよな。魔王だし・・・。察してやれなくて悪かった」

「な・・・違うわ!あんな雑魚ども何人来ようとも関係ないわ!」

「え、違うの?」

「違うに決まっておろう。我は歴代最強の魔王だぞ?」


きっと魔王だから勇者に殺されたのだと思っていたが違ったようだ。


(だったら、なんでだ・・・?)


「まあ、殺されたという線は悪くない」

「じゃあやっぱり勇者に・・・」

「だから違うと言うておる!」

「なら誰に?」

「・・・それは教えられん」


これ以上はもっと失礼だと思ったので止めておく。

クロニカと俺の2人しか居ない室内は静寂に包まれた。

少しだけ、先ほどのやり取りはやりすぎだったかと思った俺は、空気を変えるために話題を変える。


「そういえば、魔眼を沢山持ってるんだよね?」

「・・・うむ、持っている」

「例えばどんなの?」

「そうだな・・・」


先程も説明しようとしたら父さんに邪魔をされてしまったためにできなかった、クロニカが所有している魔眼について説明してもらう。


「例えば、未来を予見する魔眼や相手の運勢を見る魔眼、食べ物に毒が入っていないか確認する魔眼など様々だ」

「未来を、予見・・・」

「それはな、戦闘などで相手の0.5秒先の動きが見れるのだ」

「0.5秒って・・・使えるの?」

「ああ、もちろんだ。戦闘において一瞬でも相手の行動が分かるのは大きなハンデだ。ま、我には必要のないものだがな」

「どうして?」

「予見せずとも全て避けることができるからな」


自信満々の顔にそれが本当なのだと理解させられる。


(けど、未来を予見か・・・)


もし、その魔眼を持っていたら戦闘を安全に戦える確率が上がるかもしれない。


「ねえ、クロニカ」

「ん?」


クロニカの顔を窺うようにしながら話しかける。


「その・・・魔眼ってさ、誰かに与えたりって出来ないの?」

「ふむ、可能だが?」

「おぉ!」


思わず声が出てしまった。

だが、それも仕方あるまい。

今話していた予見できる魔眼が手に入れば、俺が長生き出来る可能性が僅かにでも上がるのだから。


「貴様、まさか・・・」


俺の顔を見ていたクロニカが、何かを悟った様に顔を顰める。

しかし、そんなの関係ないとばかりに予想されているであろう言葉を言う。


「俺に、その魔眼を譲ってくれ!」

「無理だ」


そのあまりにも早い返答の言葉は、暗い部屋に心なしかよく響いた気がした。

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