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話し合い

晩御飯を食べ終え、リズを部屋のベッドに寝かせた後。

テーブルの席には、俺、父さん、母さんの3人がついていた。

普段なら自分も寝ていてもおかしくないが、今日は既に体を綺麗にした後に寝ている。

なので、夜遅い時間でも起きていられる。


「えと・・・どうかな?」

「メリア・・・」


父さんと2人して、昼間のリズの様に不安げな顔で母さんを見つめる。

現在は、母さんに旅に出たいことを伝えて返答を待っている状態である。


「・・・」


俺の話を聞いた母さんは、目を瞑りずっと黙っている。


(もしかして却下されるかな・・・?)


段々と不安になってくる。

元々母さんは、冒険者にもあまりいい顔はしていなかった。

それなら危険度が上がる旅は却下されてもおかしくはない。


「・・・あなた」

「お、おう」


突然話しかけられた父さんは、少しつっかえながらも返事をする。


「エリックが旅に出るのは、強くなるためですよね?」

「ああ」

「それは、あなたの訓練では駄目なのですか?」

「駄目だ」

「・・・なぜ、ですか?」


自分の問に即答された母さんは、少し目を見開いたあとに尋ね返す。

その顔には困惑の表情が窺える。

恐らく母さんの中では、父さんの訓練だけで十分だと思ったのだろう。

実は俺も強くなるだけなら、父さんに鍛えてもらえれば良いんじゃないかとは思っていた。

が、父さん自身が否定するとは思わなかった。


(どうしてだ?俺が旅に出たいって言ったのは、フェルニ様の神託があったからなんだけど・・・)


別に父さんの訓練が物足りないと思ったことはない。

日々強くなったと思っている。

けれど、父さんは自分の訓練では駄目だと言っている。


「エリックは、俺のことも助ける人のうちに入ってると言ってくれた。つまり俺より強くなるつもりでいるんだ。だったら、俺が鍛えるだけじゃ駄目だ。俺より強くなれない」

「そんなことは・・・」

「いや、きっとそうなる。・・・ちっぽけなプライドってやつだな。息子に対してずっと強い存在でいたいってのは・・・。いつかエリックが俺を超えそうになった時、そのとき俺はエリックを鍛えることを止めるかもしれない。いつまでもエリックにとっての強い存在でいるために」

「あなた・・・」


(父さん・・・)


まさか父さんが、そんなことを考えていると思っていなかった。


「だからこそ俺は、エリックに旅に出てほしい。多くの経験を積んでもらうために。色んな人と出会ってもらうために。なにより、俺より強くなるために」

「・・・」


父さんの真剣な眼差しを受けた母さんは、もう一度考え始める。

このまま息子が危険な旅に出るのを認めるか、却下するか。

夫は息子の意見に賛成で、できれば息子の意思を尊重してあげたい。

けれど、母親として我が子を危険には晒したくない。

きっと母さんはそんな風に悩んでいるんだろう。


(母さんの気持ちは嬉しい・・・けど、却下される訳にはいかないんだ)


「母さん」

「・・・なに?エリック」

「俺は、旅に出たい」

「・・・」

「けどそれは、ただ旅に出たいっていう理由だけじゃないのは説明したよね?」

「ええ、旅に出て強くなりたいんでしょ?そして、色んな人達を助けたい。そうでしょ?」

「うん、そうだよ。俺は、強くなって色んな人を助けたい。そして、自分を変えたいんだ」

「自分を、変える・・・?」


首を傾げながら問い返してくる。


「・・・今の俺は、何もできない無力な人間だ。誰も満足に助けることができない・・・」


リズをオークから助けた時もギリギリの勝利だった。


「それどころか助けられる始末。このままじゃ何もできないままだ。・・・だからこそ俺は、旅に出て変わりたいんだ。強くなってどんなことでも助けられるような人間になりたいんだ」


ビリティに殺られそうになって、父さんに助けられた。

ああやって人に助けられるばかりではいけない。


「強く、なりたいんだ」

「エリック・・・」

「お願い母さん。旅に出ることを認めて」


頭を下げて頼む。

母さんが今どんな顔をしているかなんて見ない。

もし、悲しげにしていたら気持ちが揺らぐから。


「ハァ・・・分かったわ」

「!」


思わず顔を上げてしまった。

そこには、仕方ないといった顔の母さんが此方を見ていた。


「そこまで言われたら折れるしかないわ」

「じゃ、じゃあ・・・」

「ええ、エリックが旅に出ることを認めるわ」

「ありがとう母さん!」


(これでフェルニ様の神託を守れるし、俺の望みも叶う)


「良かったなエリック」

「うん、ありがとう父さん」


そうして父さんと2人で喜んでいると・・・


「―――ただし、条件があります」

「え・・・条件?」


母さんが突然条件を言ってきた。


「ええ、条件です」

「えっと・・・一体なに?」


(もしかして、月に1回は顔を出しに来てとか言わないよね・・・?)


ドキドキしながら条件を聞く。


「・・・まず、旅に出るのは15歳になってから」

「うん」

「・・・次に、母さん達より先に死なないこと」

「・・・うん」


母さんが提示してくる条件は、どれも真面目なもので納得ができるものばかりだった。

それら一つ一つに頷きながら聞いていく。


「そして最後に・・・」

「・・・」






「孫の顔は絶対に見せて」

「うん・・・ん?」


真面目な顔で頷き、すぐさま首を傾げてしまう。


「ま、孫?」

「ええ、そうよ。やっぱり孫の顔は見たいわ~」

「ん、それもそうだな。エリック、絶対に見せろよ」

「ちょっ・・・父さん、母さん」


(ま、真面目な空気だったよ?)


一瞬で室内の空気が和らいでしまい、肩の力が抜けていく。


「やっぱり孫は可愛いいでしょうね」

「だな。なんせ俺とメリアの孫だからな」


父さんと母さんは、いつの間にか孫の話に夢中になってしまっている。


(こ、この2人は・・・)


少し呆れ気味に眺めながらも考える。


(もしかしたら、緊張していた俺を和ませようとしたのかな・・・)


だから、あんなことを言ったのかもしれない。


(やっぱり敵わないや・・・)


「で、エリックはどんな子が好みなんだ?」

「えっ!い、いや・・・」

「なんだ~?教えろよ~」

「フフッ。お父さんと同じかしら?」

「おっ!じゃあエリックの好みはメリアか!?」

「もう、あなた」

「はははは!」

「父さん、母さん・・・」


2人のラブラブっぷりを見せつけられながら、時間は過ぎていった。






月の光しか入らない暗い部屋。

その部屋にあるベッドの前に1人の少女が立っていた。

メリアに似た金髪を腰元まで伸ばした少女の名前はリズ。

部屋の主エリックの妹であり、本来なら寝ているはずである。

しかし、リズは現在起きており、外の月を眺めている。


「・・・」


静かな部屋に誰かが近づいてくる足音がする。

リズはそれを敏感に聞き取るも警戒していないようで、今までと変わらず月を眺めている。

そして、足音は部屋の前で止まり、ドアが開かれ人が入って来た。


「ったく、父さん達は・・・ん、リズ?」


入って来た人物は、この部屋の主エリックだった。

エリックは、寝ているはずのリズが起きている事に疑問を持ち、声をかける。


「どうした、リズ。眠れないのか?」


優しげな顔をしながらリズに声をかけるエリック。

その声に反応してリズがゆっくりと振り返った。


「・・・!?」


月に照らされたリズの顔を、正確には眼を見たエリックは驚いた。


「り、リズ・・・その眼はどうした?」


エリックが見たリズの眼は、いつもの綺麗な碧眼ではなく漆黒の黒い瞳だったのだ。

もしかしたら夜のせいかもしれない。

けれど、あまりにも黒い瞳は周囲の暗さとは全く別の色に見える程だった。


「・・・」


少しの間エリックが黙って見つめていると、ついに黒い瞳を持ったリズが言葉を発する。






「―――貴様が、この身体の主の兄か・・・?」

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