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帰宅

「はぁ!」

「ギャァ!」

「・・・ふぅ」


襲ってきたゴブリンの群れを倒し終え息を吐く。

ベトリールを出発して3日目。

もうすぐ村へと到着するという所で魔物との戦闘があった。


「大丈夫かエリック?」

「うん。大丈夫だよ」

「そうか、良かった」


父さんはこうして戦闘が終わるたびに聞いてくる。

体に異常はなく大丈夫だと言っているのに、何度も聞いてくるので呆れながら答えている。

決して父さんの気持ちが分からない訳ではないが、めんどくさいのは変わらないのだ。


「さ、馬車に戻ろう」

「そうだな」


2人で馬車の後部へと乗り、馬車が再び走り出す。

馬車の揺れを少し気にしながらも、外を眺めながら気配察知の訓練を行う。

しばらく訓練をしていると、父さんが話しかけてきた。


「なあ、エリック」

「なに?」

「戦いを見てて思ったんだが、なんか動きが良くなってないか?」

「やっぱり、そう思う?」

「ああ」


父さんが言うとおり俺の動きは良くなっている。

ビリティに殺されかけてから変わった自分の動きに、父さんは疑問を持っているのだろう。

そして、その理由を俺に聞いている様だが・・・


「えーっとね・・・」

「・・・」

「実は、俺にもよく分からないんだよね」

「・・・は?」


父さんは間抜けな顔をしているが仕方ない。

本当に分からないのだから。

いや、正確には、分かっているけど説明出来ないのだ。


(可能性の話だからなー・・・)


父さんには言えないが、フェルニ様と話して目覚めた後から変な感じがあった。

まるで頭の中に新しい知識が入った様な感じだったのだが・・・。


(何度か魔物と戦闘して何となく分かった。恐らく戦闘の才のことだ)


戦闘の才についての知識を、フェルニ様が与えてくれたと考えると納得出来る。

フェルニ様と話すまでは全く分からなかった使い方が、話した後から分かるようになったのだ。


(フェルニ様は多分、このままの俺を旅に出させても駄目だと考えたんだろうな・・・)


そのため、俺が分かっていなかった戦闘の才の使い方を教えてくれたのだろう。

だから話した後から分かるようになって、戦闘の動きが良くなったのだ。


「感謝しなきゃ・・・」

「ん?なんか言ったか?」

「ううん。なんでもない」


景色を見ながらフェルニ様に感謝した。






「よし、ついたー」


ベトリールから出発して3日目の昼。

ついに村へと到着した。

馬車を村の空いている場所に留めて家へと向かう。

1週間と少しの間離れていただけなのに懐かしく感じる。

村の人達は、休んでいる人や働いている人など様々だが、気づいた人は手を振ってくれる。

それらに手を振り返しながら歩いていく。


「リズと母さん、元気にしてるかなー」

「あの2人のことだ。元気にしてるさ」


父さんと2人の事を話しながら家へと向かう。

久しぶりの我が家である。


(早く母さんのご飯が食べたいな・・・)


そんな事を考えながら家の前へと着く。

ドアを見つめながら深呼吸をする。


(母さんには、旅の事について話さなきゃいけない。きっといい顔はしないだろうけど、なんとか説得しないと・・・)


そうして気合を入れて、父さんがドアを開けるのを見ていると・・・


「―――ぶっ!」

「父さん!?」


突然開いたドアに、父さんの顔がぶつかり変な声を出した。

それに慌てながらも、ドアを開いた人物に目を向ける。


「あなた!?」


そこには、母さんが驚いた顔をして立っていた。


「あいた~。いきなり開けるなよ、メリア」

「だ、だって居るとは思いませんよ・・・」


父さんが鼻を押さえながら立ち上がる。

それを母さんは心配そうにしながらも弁明を行う。


(うん。母さんの理由はごもっともだ)


1人頷きながら母さんと父さんの2人を眺める。


「俺が居ない間何もなかったか?怪我とかしてないか?」

「フフッ・・・大丈夫ですよ。あなたこそ大丈夫ですか?怪我はないですか?」

「俺は大丈夫さ!」

「フフフッ・・・」


2人とも久しぶりの会話を楽しんでいるようだ。

ただ・・・2人が楽しいのは嬉しいが、ここは家の前だ。

周りの人の注目が集まっている。

はっきり言って恥ずかしい。


「と、父さん。早く入ろうよ」

「ん?ああ、そうだったな」

「あら、ごめんね。エリック」


2人とも申し訳なさそうな顔をしながら家へと入っていく。


(ていうか、母さんは何か用事があったから出ようとしたんじゃないの?)


少し2人に呆れながら家へと入る。

家の中は、出かけた時と何も変わっておらずいつも通りだった。

その事に何となく安堵しながらテーブルの席に座る。


「2人ともお昼はまだでしょう?」

「ああ、凄い腹が減ってるぞ」

「うん、お腹減ってる」

「フフッ・・・残り物ですけど良いですか?」

「ああ!お前の料理なら何だって美味いぞ!」

「うん、いいよ」

「フフッ・・・」


母さんは、俺と父さんの食べる準備万端の様子を見て楽しげに笑っている。

けれど仕方ないことだ。

馬車の中ではよく母さんのご飯について話していたのだから。


「・・・ん?」


ご飯が出されるのを楽しみしていると、不意に視線を感じた。

気配察知はしていないため、すぐには気づかなかったが、ジッと見られている感じがする。

恐る恐る視線を感じる方を向く。


「・・・なんだ、リズじゃないか」


そこには、物陰から此方を見つめるリズがいた。

リズは黙って此方を見つめており、どこか緊張している様にも見える。


「ん?リズ、どうした?」

「・・・」


いつまでも出てこないリズに、疑問を持ちながら聞いてみるが答えない。

それを不思議に思いながら見ていると、料理を持ってきた母さんが教えてくれた。


「きっと迷ってるのよ」

「迷ってる?」

「ええ。エリックが出発する時に、何も言わずに出て行ったから嫌われたと勘違いしてるのよ。だから近づきたくても近づけないのね」

「えっ!父さんが説明してるって・・・」

「あっ・・・」

「あなた・・・」


母さんと2人、父さんを呆れながら見てしまう。

出発する時は、突然父さんから馬車に乗せられ、何も聞けずに出発したのだ。

母さんとリズに何も言っていないと言うと、


『大丈夫!俺が説明しといた!』


と言ったのだ。

それを信じた俺は、何も気にせずに向かったのだが・・・。


「もしかして、リズに説明した気になってたとか・・・?」

「うぐっ・・・。そう、かも」

「父さん・・・」

「すみません・・・」

「ハァ・・・。いいよ・・・」


過ぎたことは仕方ないので、一応許しておく。

俺の言葉を聞いた父さんは、しょんぼりしながらご飯を食べ始めた。

俺も早くご飯を食べたいが、そうはいかない。

リズをどうにかしなければ・・・。


(とりあえず、違うって教えないとな)


俺は椅子から立ち上がり、リズの前にしゃがみこむ。

リズは不安げに此方を見つめてくる。

そんなリズに優しく微笑みながら話しかける。


「ごめんな。兄ちゃん、リズに何も言わずに出かけちゃって・・・。別にリズの事が嫌いになったとか、そんな事は決してないぞ」

「・・・ほんと?」


俺の表情と言葉を聞いたリズは、小さな声で聞いてくる。


「ああ、本当だ。兄ちゃんは、リズのことが大好きだぞー」


リズの不安そうな顔に笑い返しながら、両頬をムニムニとつまむ。


(すご・・・柔らか~)


そんな事を考えながらリズを確認する。

リズは、不安げな顔から一瞬呆けた顔になったが、すぐに笑顔になりムニムニとされるがままだ。

しばらくムニムニしていると、いい加減嫌になったのか顔を振って手を払う。


「おっと・・・」

「エーク!」


俺の手が離れると、リズはすぐさま飛びついてきた。

それをなんとか受け止めて立ち上がり、自分の席に戻る。

ご飯は準備されているため早く食べたいが、この状態では食べられない。


「リズ、今から兄ちゃんご飯食べるからさ、できれば離れて欲しいんだけど・・・」

「やだー」

「うーん・・・」


困りながら横に目を向けると、そこにはリズがいつも座る席がある。

それを自分の席に近づけてリズに話す。


「ほら、リズ。こっちの椅子に座りな。そしたらくっついてても良いから」

「・・・分かった」


渋々といった様子で隣に座るリズ。


(よし。これでご飯を食べれる)


リズに服の裾を掴まれながらも、ご飯を食べれることに安堵しながら食べ始める。


「うん、やっぱり母さんのご飯は美味しいね」

「フフッ・・・ありがとうね」


母さんの料理に舌鼓を打ちながら完食する。

久しぶりの母の味は、実に美味しかった。


「・・・さて、とりあえず汗もかいたし、体を綺麗にするか」

「そうだね」


村に来るまでに何度か戦闘を行っているため、2人とも汗をかいているのだ。

きっとリズも、抱きついた時は汗臭かったはずである。

それを申し訳ないと思いつつ父さんに催促する。


「さ、早く行こう父さん」

「ああ」


父さんと2人、体を綺麗にしに行くのだった。

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