プロローグ
いつもは静かな銀行
だが、いつもと違い今日は騒がしかった。その理由は利用客や銀行員の前に立つ集団が原因である。
もうすぐ銀行を締める時間になりかけた頃銀行の入口前に止まったワゴン車から集団が駆け入って来たのだ。
集団は全員目出し帽を付けており顔は確認できないが服装や体つき、こそこそ話す声から全員男と判断できる。
「オラァ!騒ぐんじゃねぇ!」
そう言うとリーダーらしき男が銃口を上に向けて一発撃つ。
「ひいぃ!」「南無阿弥陀仏・・・」「大丈夫、大丈夫・・・」
銀行内にいた人々は一箇所に集められて順番にガムテープで口や手を縛られていく。
そして、銀行員の一人を残して全員を縛り終えた。そして、リーダーらしき男は銀行員に向かって仲間を指しながら言う。
「おい、アイツ等が持ってるカバンにあるだけの金を入れろ。いいか?少しでも変な行動みせたらその度に一人ずつ殺していくからな?」
人質の方向に銃口を向ける男。
縛られた人質達は一層怯え出す。
「ま、待ってくれ!わかってる、変な行動はしない。金をあるだけ詰めればいいんだろ」
「そうだ。さっさとしな。・・・あぁ、時間稼ごうなんざするなよ。そん時はお前を殺して他のやつにやらせるからよ」
そう言って男は銃口を銀行員に向ける。
銀行員は冷や汗を流しながらそれに頷くとカバンを持った男たちと銀行の方へと向かう。
その時、
「ちょっと待ったぁ!」
一人の少年が人質の中から出てくる。
これには男も驚き固まってしまう。
なんせ銀行にいた人間は全員拘束したのだ。
拘束を外せるわけがない。
まさか裏切り者がいたのだろうか。
そうやって男が戸惑い悩んでいると、少年は男へと襲いかかるように走りより手元の銃へと手を伸ばす。
そして、銃を奪うと転がるようにして離れ男へと突きつける。
銃を奪われた男は呆然としていたが直ぐに立ち直ると怒鳴りだした。
「テメェ!どうやって拘束を解いた!それにその銃を返しやがれ!」
「・・・」
しかし、少年は答えない。
否、答えられない。
それは何故か。
その理由は男が発砲した時まで遡る――――
パァン!
乾いた銃声が聞こえる。
まるで自分は銃だよ、と主張するかのようだ。
そんな光景を呆然としながらどこか他人事のように見てしまう。
他人事とはいっても人質には変わりないため拘束されて床に座らされる。
すると、脳がだんだんと現実を理解し始め体が震えだす。
(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!銀行強盗じゃん!ここここれって逆らったら死ぬよね!?どうしよう!)
まさしく一大事である。
なぜ兄ちゃんと晩飯の外食のお金のために銀行によって
『すまん、カバン忘れた』
と言われ取って戻ってくるのを待っているとこうなってしまったのか。
これならめんどくさがらずに一緒に行けば良かった。
てか、もうすぐ締まるんだからカバン忘れるなよ。
そうやって過去を悔やんでいると、一人の銀行員が金をカバンに入れるように指示されている。
(えっ?銀行員さんの行動次第でこっちから一人ずつ死んでくの?ぎぎぎ銀行員さん大人しくしてね!)
そんな風に考えていると、視界の端がプルプル動く。
見てみればまだ小さい男の子が母親に寄り添って震えている。
まだ小学1、2年だろうか。
その幼さでこんな事態に巻き込まれるとは、なんとも可哀想である。
強くなれ、と思いながら目を正面に向ける。
すると突然、自分の体の震えが止まり、鼓舞されたかのように気持ちが高まってくる。
先ほどまで震えていたのが嘘のようだ。
今なら戦える。
そう思わせるほどである。
(え?なんでこんなにやる気が出てくるの?無理だよ、無理!あいつ銃持ってるからね!)
そうやって自分に言い聞かせるも全く落ち着かない。
今にも飛び出して行きそうな体は、縛られているおかげでなんとか留まっている。
足だけは必死に押さえつけているが・・・
しかし次の瞬間――――
ポトッ
拘束に使用していたガムテープが床へと落ちた。
本当に吃驚した。
キッチリと縛られていた手は開放され、口も自由になる。
何故とれたのか分からずに呆然としてしまった。
すると、今が好奇!とばかりに体が、口までもが、勝手に動いた。
「ちょっと待ったぁ!」
銃を男へと向けたまま固まる。
ここまで体が勝手に動いたのだ。
何か出来るわけがない。
それに、先程までの昂ぶっていた気持ちは嘘のように消え、後には震える体と心だけが残った。
(む、無理だ・・・。助からない。銃を撃てるわけないし、ましてや、人を撃てるわけがない)
絶対に死んだ。
そう思い、ふと銀行員が気になった。
先ほどまで自分の行動で他人が死ぬ状況にあったのだ。
自業自得(?)とはいえその他人が死ぬのだ。
どのような表情をしているのか気になった。
男の後方にいるであろう銀行員を見ると――――
音を立てずに男たちを次々に気絶させていた。
(・・・は?)
驚いた。
ただの銀行員かと思っていたら違うということなのか。
呆然と次々に気絶していく男たちを眺めてしまう。
そんな自分の視線に気づいた男が後ろを振り返る。
そして驚きの声をあげる。
「なっ!?お前ら!」
元は6人程いた男たちも今ではリーダーらしき男一人である。
銀行員が自分に話しかける。
「フゥ・・・。何とか気づかれずにここまで倒せた。君のおかげだ。感謝する。」
自分は何も言えない。
只々、銀行員を見てしまう。
すると男が仲間を倒された怒りで怒鳴りだした。
「テメェ!やってくれやがったなぁ!生きれる思うなよ!」
「お前の方こそ逃げれると思うなよ」
「クソがァ!」
そう言うと男は自分に向かって走ってきた。
否、銃に向かって。
咄嗟に銃を抱え蹲る。
その背中を男が殴り始める
痛い。
だが、奪わせてなるものか。
その一心だった。
銀行員は直ぐに助けようとするが、一人頑丈な奴がいたのだろう。
後ろから銀行員へとナイフを持ち襲いかかる。
銀行員はそれの対処のために足を止めた。
その瞬間だった。
じわぁ・・・と、体が、特に左胸の背中辺りが熱を持ち出した。
最初、理解できなかった。
いや、理解したくなかったのかもしれない。
自分が刺されたことを。
「早く!早く渡せよ!」
男は焦っている様だ。
銀行員がナイフ相手に素手で好戦しているからだろうか。
しかし、もうどうでもよかった。
男はナイフを体中に刺す。
助からないことは明白だ。
自分がよくわかる。
(はぁ・・・。兄ちゃんと飯行きたかったなぁ。そういえば、来週は祭りだったな。どうせ行かないけど)
等とどうでもいいことを考えていると、意識が朦朧としてきた。
(あぁ・・・死ぬんだな)
俺が諦めていると、銀行員の声が聞こえた。
「大丈夫か!?しっかりしろ!」
どうやら男を倒したらしい。
けど、俺の体はもうダメなようです。
意識を振り絞り痛みを耐えながら声を出す。
「ハァ・・・ハァ・・・お願い、いいですか・・・?」
「っ!なんだ、いいぞ!」
「に、兄ちゃんに・・・気にすんなって、俺が決めた・・・ことだからって」
「・・・わかった。君のお兄さんにしっかりと伝えよう」
その言葉を聞いて安心した俺はゆっくりと意識を手放していく。
(あぁ、ここで終わりか・・・。来世はもっと長生きしたいなぁ)
等と思いながら意識をゆっくりと手放していった。