【庭には二羽、鶏がいます】あなたの知らないニワトリ生活
お隣さんが鶏を飼い始めました。
タイトル通り『(隣家の)庭には二羽、鶏』がいる状態です。
地方都市とはいえ、住宅街で鶏を飼うことに異論はある方もいるでしょうが、少なくとも周囲は問題なく受け入れております。
自分自身も無問題。と言うのも、実家暮らしの時には2羽どころではない数の鶏たちと暮らしていたのですから、雌鶏2羽ごときカワイイもんです。
とまれ、その経験も踏まえて隣家に飼育アドバイスなどしているうちに、懐かしさからカワイイ鶏たちのことをつづってみたくなりました。
『あなたが知らない(と思われる)生活をしている鶏たち』の姿、一部ですが紹介します。
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【0.飼育背景】
まず我が家(実家)は養鶏家でも無ければ農家ですらない、ごく普通の田舎自営業者でした。あくまで「鶏の飼育」は母の趣味というか娯楽・愛玩の範囲です。よって今回語る内容は、専門家から見ると変だったり間違っているところも多いかと思います。
また我が家で飼育しているのは主に「烏骨鶏」でして、性質など普通の鶏と異なる部分が多いこともお断りしておきます。(普通の鶏や矮鶏も飼ってましたが、絶対数は烏骨鶏の圧勝でした)
現在は5羽程度に落ちついたようですが、自分が実家にいた頃の最大値は確か4ハーレム(群れ)35羽、他種の鶏も合わせて40羽ほど。個人の趣味を飛び越えている気もしますが、当時はあまり気にしていませんでしたね……『田舎の常識は世間の非常識』だったかも。
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【1.気性に関する話】
鶏の性格、ですが基本的に「面倒くさいヤツら」です。
気性が荒い品種が多いですし、もしくは無茶苦茶臆病な性質で、「懐く」なんて夢のまた夢です。「触れ合うペット」ではありません。戦う相手です(笑)
そしてヤツらは仲間内での階級がシビアです。同じ群れ内でも平気で喧嘩します。否、喧嘩じゃなくって「イジメ」があります。
実家で飼っていた烏骨鶏はそれなりに気性が荒い子が多く、群れ内でイジメ抜かれて衰弱死した個体は複数ありました。(気づいた時点で人間が保護隔離しますが、手遅れのこともあります)
これ、オスなしメスだけの群れでも発生します。たった2羽でも、順位付けします。
飼育に関しては、ケージ飼いは2羽程度が限界だと思います。それ以上を檻に閉じ込めて飼うと、先述の通りイジメの被害にあいやすくなります。別々の群れから保護隔離した4羽を一緒のケージに入れて、その中でイジメ流血沙汰が発生したこともありました……。
鶏は全体的に、他の生き物に対しては臆病ですが、気性が荒い個体は人間への攻撃も辞しません。実家では放し飼いでしたので、庭への洗濯物干しや取り入れは結構「戦い」でした。油断し隙を見せたら、脚が蹴られ、突かれ、流血沙汰です。(『動物のお医者さん』の“ヒヨちゃん”タイプは珍しくないです。当たり前です……涙)
『鳥頭』とか『3歩歩いて忘れる』などと称されますが、記憶力のいいヤツは執念深いです。
実家でプロパンガスの交替時に抱卵(卵を抱いて温める行為)を強制終了させられたある雌鶏は、その後ガス屋さんが来るたびにいずこともなく姿を現し、蹴りを食らわせていました。彼女にとってガス屋さんは「卵泥棒」だったようです。濡れ衣なんですけどね(汗)
(元々勝手にプロパンガスボンベの隙間で抱卵していたので、ここぞとばかりに家人が卵を撤去したのです。ガス屋さんは無罪(笑))
自分自身も特定の個体に嫌われていて、彼(烏骨鶏のオスでした)からは、ほぼ毎日攻撃されていました……他の家人には近づきもしなかったのに。未だ原因不明です。私が何をした……ま、私も反撃しましたけどね、竹箒で。
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【2.卵の話】
「鶏、飼いたい!」という動機の半分くらいを占めるんじゃないかと思う、卵。
確かに新鮮な卵は美味です。卵がけご飯、万歳!です。
しかし、採卵目的での飼育は、あまり気軽に考えるべきではないという話。
お隣さんが飼い始めた鶏はボリスブラウンという種類でして、比較的温厚な性質であり丈夫なうえ良く卵を産む品種です。ほぼ毎日産みます。つまりお隣さん家は、毎日2個ずつの卵を消費する必要があるんですよね。
大家族やお菓子作りなどが盛んなお宅は別として、最初のうちはともかくその内消費しきれなくなって、ご近所に配り歩く羽目になります。よって普通の家族構成のお宅が飼うなら、3〜4羽以内が限界でしょう。(採卵鶏として一番有名な白色レグホン種も同じ)
ペット感覚で飼うなら、身体が小さくて気性も大人しい矮鶏がオススメです。卵、小さいけど。
新鮮さとかはともかく、即物的に考えるとコストパフォーマンスでは割りに合いません。
おおざっぱに卵一パック200円とすると一個20円。一方、鶏は大体1日に150g程度(2/3カップ位が目安)の飼料を消費します。一般的な配合飼料の価格で考えると、1日あたり餌だけで10〜15円位。原価率50%超えます。餌のロスも多いので、トータルコストだと原価割れすることもあるでしょう。
よって、卵は「ペットとして鶏を飼った役得!」くらいに考えた方が気が楽です。後は「わたし、新鮮な卵食べてる!」という自己満足。
さて、実家で飼っていました烏骨鶏。巷では高級卵として有名ですね。(卵1個500円位することもあるとか)
それもそのはず、ヤツらはあまり卵を産みません。元々一ヶ月くらい産卵しやすい時期を過ぎると、一~二ヶ月ほど全く産まなくなる(休卵期)性質で、産卵期でも毎日は産みません。平均すると週2~3個産めば御の字。
なお、産卵シーズンでもすぐサボります(笑) 真夏や真冬はほとんど産みませんし、大雨や台風の後など自然が荒れた後の日もあまり産みませんでした。また、ヤツらは個々に抱卵せず、代表者(代表鶏?)がまとめて複数の卵を抱きます。よって、他の卵が巣箱にあると次の鶏が産まなかったりします。
結果、季節によってはメスが20羽いても1日に採れる卵が1個だけ、何てこともザラにありました。
後、食べるなら要注意なのがサルモネラ中毒。鶏は排泄器官と排卵器官が接合しているので、卵は糞尿と同じ場所から出てきます。産みたて卵には細菌がいっぱいです。(しかも温かいから増殖しやすい)
冷蔵庫にしまう前には必ず卵の表面を洗って、また自分の手もしっかり洗わないと、食中毒の原因になります。気をつけてください。
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【3.鳴き声の話】
鶏は鳴きます。いつも鳴きます。朝だけじゃありません、四六時中鳴いてます。
メスだと鳴かない、と言うのは誤解です。いわゆる『コケコッコーー』鳴きをしないだけです。
メスの鳴き声は『コッコッコッコッ……』のエンドレス鳴きか、『キョワーッ』だの『クコーーッ』だの『ギョーーーッ』だのと言った変な叫び声。ヒナがいる時には『キャッキャッギャッ』みたいな威嚇声もありましたね。
で、鶏は常に鳴きます。起きている時間の半分は、音量の大小こそあれ鳴いてます。『コッコッコッコッ』鳴きは小さく呟きみたいなもので、慣れれば気になりませんがエンドレスです。
叫び声タイプは、何か常ならない事態が発生した時に発しますが、この「常ならない事態」がとっても些細。隣に別の鶏が来ただけとか、風が吹いて梢が揺れただけで発することもあります。そして複数飼いの場合、誰かが鳴けばつられて他の子も鳴き出します。ぶっちゃけ耳が慣れるまでしんどいです。
ですが、慣れすぎて放置すると、外敵が来ていたりするので油断禁物。実家は放し飼いのため、野良猫・イタチ・ヘビなど、外敵には事欠きませんでしたので、結構神経遣います。
またメスは産卵時にも叫び鳴きします。この声を聞いたら、卵回収の合図。
というのも、鶏は「食卵」といって、自分たちの卵を自分たちで食べてしまうことがあります。一度でも何かの拍子に壊れた卵を味わったりすれば……今度からは自分で割って食べます。自分が産んだ卵であっても、他鶏が産んだ卵であっても。さっさと回収するに越したことはありません。
そしてオスがいる場合。
朝も早よから『コケコッコーー』です。で、この雄叫び、朝だけじゃありません。日中でもいつでも気が向けば鳴きます。しかも夜中に鳴くこともあります。自分の経験では、熟睡時間と思われる夜十時頃〜夜中二、三時頃は余程のことが無ければ鳴きませんでしたが、夜明け前の朝四時から鳴くのはデフォでした。夏場はもとより、冬場でもです。
進学後、都市部出身の友人が夏休みに泊まりに来た時、彼女たちは毎日睡眠不足になってましたね……朝四時には鶏の声と蝉の大合唱で叩き起こされ、寝られなかったようです。申し訳ない。(自分や家人は慣れきっていて熟睡)
実家は自家繁殖で個体数が増えてゆきましたので、ヒヨコから成鶏への過程を常に見守っています。
ヒヨコは『ピヨピヨピヨピヨ……(やっぱりエンドレス)』ですが、オスがその後『コケコッコーー』と立派に鳴けるようになるまでの過程は、ある意味面白く、一方で結構なストレスでした。
『ピヨピヨ』期の終盤になると、『ビョッ』みたいな濁った音が混ざり始めます。そして『ギャキャッ』とか『キョーーッ』とか鳴き始めます。オスはこの辺りから「ひと息が長い発声練習」を始めます。
ここからが人間のストレス開始。要は下手なんです、鳴き方。
第一ステージ『コーーーーーー(息が続くまで)』
第二ステージ『コッケーーーーーー(やはり息が続くまで)』
第三ステージ『コケーーーーーーーーーーコ(そろそろ息の限界)』
第四ステージ『コケコーーーーーーーーーー…………(このままフェードアウト)』
第五ステージ『コケコーーーーーーーー……コオッ!』(フェードアウトに見せかけたフェイント)
第六ステージ『コケコォーーーーッコ!!」(本人は自信満々だが明らかに変)
これらの期間を過ごしてようやく『コケコッコーーーー(フェードアウトする美しい鳴き声)』 にたどり着きます。
第三ステージ辺りから聞いていてハラハラしますし、第四・第五ステージは無茶苦茶気になります。
どうも『コケコッコーッ』の最後のひと息『ーッコォ!』は、我が家の鶏たちにはとても難しいようです。練習期は最後の音が上がる(高音発声・アクセントが最後に来る)になりやすく、力一杯言い切ってくれましてフェードアウトしないのです。聞いていてハラハラ、ドキドキ、イライラの元だったり。
これが大体半年強、続きます。そして立派に鳴くようになって安心した矢先に、次世代が練習を始めます(笑)
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【4.飼育の話】
で、飼う場合のあれこれ。
鶏は「ハーレム」を築きます。雌雄で3羽以上を飼う場合、オスは1羽だけにしましょう。卵パフォーマンスの面でも、泣き声の面でも、イジメ防止のためにも、複数オスはトラブルの元です。
ただ、繁殖を前提とする場合や、うちのように放し飼いで10羽以上飼う場合はまた別です。
実家では、大体オス2羽+メス6~7羽程度で1ハーレムを構築させていました。オスが複数いるのは繁殖効率(有精卵の孵化率)を上げるためと、外敵からの守り手としてです。
ハーレム内のオスは、外敵(別ハーレムの鶏を含む)が登場すれば、メスを守って闘います。結果、「名誉の負傷」や「名誉の戦死」もあるわけで……。実家では間引いたりしていませんでしたが、最終的にいつもオスの数はメスの数の半分以下になってしまいます。
田舎の外庭での放し飼い、外敵には事欠きません。強敵はイタチとヘビ。抱卵中のメスに絡みついているヘビを振り解いて救出した経験は、枚挙に暇がありません。最近は外来種のアライグマやハクビシンまで登場するそうです……。
なお、大概のオスは勇敢に外敵に立ち向かいますが、何事にも例外はあります。うちの初代ハーレム主は、イタチが出た際メスを置いて真っ先に飛んで逃げました(笑)
放し飼いですが、夜は飼育小屋(産卵巣箱の場所を兼ねる)で休みます。夜の外敵が一番危険なので、ここは鍵をしめて守ります。地面の上ではあまり寝ませんので、人間の腰高以上の高さがあり、鶏がしゃがみ込める幅がある棚が必要です。よって飼育小屋はある程度の大きさ・高さのあるものになります。犬猫や兎などのケージサイズでは無理です。面積には余裕を持たせて下さい。
また、鶏に限らず鳥類は「排泄」は自由奔放です。場所を決めるなんてことはしません。あらゆる場所が糞尿まみれになります。外飼いの場合、雨などで濡れると本当に悪臭を発します。独特の臭いですね。よって掃除はこまめに。ただし元々の糞尿が水分豊富なため、ほうきで掃いて集めるというのは無理です。勢いのある水で流すか、デッキブラシなどでこすり流すか、です。
そして、鶏も土浴び・砂浴びが大好きです。また土をほじくり返して、ミミズやコガネムシの幼虫などのタンパク質を探します。草花の若芽も大好物です。
……つまり、鶏は「ガーデニング」や「家庭菜園」の敵です。実家の花壇は鶏が飼われるようになって以来、土浴び場に変わりました。雑草一本すら生えません(笑) よい肥料ではあるでしょうが、素直に堆肥を買うことをおすすめします……放し飼いや外飼いする場合、ちゃんと行動エリアは網やフェンスで仕切りましょう。
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【5.よもやま話】
ここまでの話で取り上げなかった、総合的な話。
鶏の寿命は10年程度でしょうか。一方、品種にもよりますが5~6年程度で卵は産まなくなります。ですが、その後数年は生きます。
養鶏産卵ビジネスで飼うのでなければ、卵を産まなくなった老鶏(世の中では「廃鶏」と呼びます)の余生を守ってあげられる場合のみ、飼って下さい。これは切実なお願いです。
実家には、そういった哀しい事情を背負って、年取ってから引き取られてきた鶏が複数います。(他にも、鳴き声がうるさい、産む卵が多すぎた、等々の理由で『要らなくなったから』といって実家にやってきたのです。うちから里子に出て、卵を産まなくなってから返された子もいます)
こういった老鶏はなかなか新しい群れに受け入れてもらえず、独り寂しく庭の隅っこにいるか、縁の下など人間の居住区近くで日がな過ごしています。鶏社会のぼっちなだけではなく、彼らは他の鶏からのイジメ対象として狙われやすいので、人間の近くに寄ってくるのです。
「鶏肉として食べる」という選択肢もあるかも知れません。ですが、近年「絞める」ことができる人は少ないでしょう。うちは親族に狩猟免許持ちがいましたので、野鳥を「絞めて食す」ことにあまり抵抗はありませんでしたが、自分自身はやはり生きている子を「キュッ」は出来ませんでした。羽は毟ったけど。
烏骨鶏は肉もおいしいと言われますが、卵を産まなくなったメスは大概食味が悪いです。オスは肉が固いです。イノシシよりマシですが、それなりに臭みもあります。山鳥や鴫の方がよっぽど美味しい。野鳥で一番美味しいのはキジだと思います!(……話が逸れた)
ともかく、最後まで「生命」の面倒を見てあげて下さい。
結構、愛のない表現になった気もしますが、鶏はそれなりに“かわいいヤツら”でした。今でも懐かしくありありと彼らとの生活を思い出せるほどに。今はお隣さんと語ってますが、同じような思い出を誰かと「そうだよね!」と語り合えるといいな、と思います。
(なお、お隣さんは旦那さんが自然共生社会などに関わるお仕事の方なので、全くもって心配なしなのが嬉しい)
『あなたが知らない生活をしている鶏たち』いかがでしょうか。ちょっと身近に感じてもらえると嬉しいです。
実家は犬猫を始め、動物にまみれた暮らしでしたので、鳥類だけでもニワトリ・ウコッケイ・チャボ以外にもキジやクジャクまでいましたが……本当に「田舎の常識、非常識」を地でいっていたウチだったのだと、家を離れてから思います、はい。
そのうち、色々な動物との暮らしの思い出なども綴っておいて、自分の子どもに教えてあげたいなと思います。