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美崎綾莉先輩のぼけらぴー  作者: 水守中也
2、親切心とカンニング
4/16

1、


 放課後。生徒会室に行くと、珍しいことに橋本会長が机に置かれた用紙を見て悩んでいる様子だった。珍しく仕事をしているのだろうか。まぁ競馬予想していても今更驚かないけど。

「上原君か。君も暇だね」

 僕の気配に気づいて、橋本会長が顔を上げた。

 特に会議の予定もない生徒会室には、僕たちのほかに誰もいない。こちらはいつもの光景だ。

「橋本会長も何だかんだで、ここにいますよね」

 僕は同じ意味の言葉を会長に返した。少し皮肉を込めたんだけど、会長からの反応はなかった。あれ? 本当に難しい仕事なのかな。

「何をしているんですか? 手伝いましょうか」

 僕が言うと会長は少し考えて返した。

「うむ……それより、君の方はどうなったんだね? 例の哲学部の調査。報告を受けていないのだが」

 うっ。

「えーと、その、現在調査中と言いますか……」

「……ほう。君らしくない、えらく歯切れの悪い言い方だね。いつもの君なら、迅速に仕事をこなしそうなものだが」

 ううっ。

 哲学部の調査が邪魔だった僕を追い出すための口実だったとしても、哲学部が毎年春に提出しなくてはならない活動報告書を提出してないのは事実である。調べてみると哲学部以外にも名前だけの部活が多いことも分かった。

 橋本会長の思惑がどうあれ、確かにこれは改善しなくてはならない。

「だから、その、ちゃんと行って来たんですよ。今もその帰りで……」

「では、どんな状況だったか、報告してもらおうか」

 にやりと頬杖をついて僕を見上げる会長を前にして、僕は仕方なくついさっきのやり取りを報告した。

 

  ☆☆☆


「失礼します」

 挨拶して哲学部の扉を開けると、小さな部室に今日も美崎綾莉先輩が一人でたたずんでいた。

「佐以くん。いらっしゃい。本日はどうされました?」

 入り口側に向いて椅子に座ったまま綾莉先輩が言った。机の上には本も携帯もない。窓の外の景色を見ているならまだ分かるけど、僕が来る直前まで何をしていたのだろうか。気になったけれど、あくまで用件だけを伝えた。

「本日も引き続き、部活動調査の続きに参りました。活動内容を見学させてもらって宜しいでしょうか?」

 一昨日はスカート事件でうやむやに。昨日はお礼を言っただけで大した調査も出来なかった。けれど今日は別だ。

「はい。私はいつも通りですのでご自由にどうぞ」

 許可をもらい、僕は先輩の向かいの席に座った。

 二人きりである。そういえば、一昨日も昨日も綾莉先輩しか見ていない。提出書類がないので部員数は分からない。

「あの、他に部員はいないんですか?」

「はい。私一人なのです」

「一人でどんな活動をするんですか?」

「今が部活中なのです」

 僕の問いに、綾莉先輩がよどみなく答えた。

 なるほど。今が活動中ということなら、目の前にいる綾莉先輩を観察すればいいだけのことだ。

 先輩は本を読んだり携帯をいじったりもせず、ただ黙って前を、ぼーっと見ている。そのため、先輩と僕は見つめあう形になっている。

 先輩はときおり黒い瞳をぱちくりさせながら、僕の顔に向けている。

 人は顔ではないし、好みも千差万別だ。けれど綾莉先輩は、美人として分類されても、誰からも異論はなさそうだ。

 そんな先輩の顔をじっと見ていられるのは役得というか。とはいえ、こちらもじっと見つめられているわけで。こう見つめられていると居心地が悪い。もしかして、新手のいやがらせか。

「私の顔に何かついていますか?」

 何かを言おうと口を開きかけたとき――先を越された。

 やばい。じっと先輩の顔を見ていて、変に思われたか。

「ぼけらぴーしているんです!」

 とっさに覚えたての単語を答えると、先輩は納得した様子で頷いた。

 こうして、先輩との見つめ合いが続く。なんか先に視線をそらしたほうが負けという気持ちになってしまい、顔を動かせない。

 それにしても、綾莉先輩は、ほとんど表情を変えず視線もそらさない。

「……先輩。にらめっことか強そうですよね」

 思わず呟くと、綾莉先輩はやや憤慨した様子で答えた。

「佐以くん、ひどい人なのです。私に変顔しろというのですね」

「いや。そういうわけじゃ」

 奇妙なにらめっこは続く。

「えーと。綾莉先輩の方は、何をしているんですか?」

「こう見えても色々考えているのです。ぼーっとしているようで、脳みその中はフル回転しているのをお見せできないのが残念なのです」

「そうですか……」

 哲学部の活動としては……間違っていないような気がする。

 先輩はじっとして動かない。相変わらず、何を考えているのか分からない。

 なんか、お邪魔しては失礼な気持ちになってきた。

「……それじゃ、僕はこれで」

「はい。お疲れ様なのです」

 綾莉先輩の声を背に、僕は部室を出た。


  ☆☆☆


「……というわけでして」

「君はあれかね。ガキの使いか何かか、それとも思春期の恥じらいというか」

 報告に戻った僕に対して、会長があきれ顔でおっしゃった。気持ちは分かる。自分だって何をやっているんだ、って気持ちだし。

「けど、だからって、女性に根掘り葉掘り聞くのは失礼じゃないですか」

 それにどうもあの人のペースは苦手なのだ。調子が狂う。

「……君は本当に堅物だね。別に彼女に直接聞かなくても、部室の備品を調べることくらいできるだろう」

「それは……そうですね。でも今日また行くのは変ですから、明日にでももう一度、行ってみます」

「そうやって懸案事項を後回しにしてると後でつけがくるよ」

 いちいち正論だけに、反論できない。

「そうだな。せっかくだから口実に作ってあげようか。私もその女子生徒に興味があるね」

「え? 口実って……」

「ちょっとした悩み相談だよ。一般生徒に意見を募るのも悪くはないだろう」

 会長は机のトレイから一枚のプリントを取り出して立ち上がった。




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