表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スケープゴート  作者: 時雨瑠奈
悲月殺人事件
9/35

第八話 ~第三の殺人~

 木更津一樹は、今日は仲間と共に

桃香の泊まった部屋や、その周辺を

散策していた。

 一樹が真犯人を見つけたいから

協力してくれ、と言ったところ、

全員は二つ返事で了承したのだ。

 斉藤千鶴には、昨日酷い事を言って

しまった後に謝ったら、馬鹿!と泣き

ながら怒られたが許してはくれた。

 北原大地と八乙女瑠美奈も、泣き

笑いの表情を浮かべながらいいよ、と

言ってくれたし。

 一樹は千鶴達に本当に感謝していた。

昨日は八つ当たりで酷い事を言って

しまったけれど、彼女達がいなかったら

自分はこんなに前向きにはなれなかった

だろう。

 一樹達は以前桃香が使っていた部屋、

つまりは殺害現場の外の芝生に来ていた。

 全員、はいつくばって何か手掛かりはない

かと探している。

 しかし、あるのは草や葉っぱばかりで、

そんな物は全く見つかりそうにない。

 舌打ちしたいのを必死でこらえながらも、

彼らは辛抱強く探していた。

 一樹を助けるため、そして桃香の無念を

晴らすために。復讐を望んでいる訳ではない。

 彼女だって、そんな事は望んではいない

から。

 ただ、何故彼女が殺されたのかという理由が

知りたかった。

 あんなに素直で可愛いいい子を、何故、殺した

のか、と。

「そっち、何か見つかった!?」

 千鶴が疲れたように息をつきながら立ち上がった。

葉っぱがついた栗色の髪をツインテールを、苛だた

しげにふってから問いかける。

 焦ったようなその様子を見る限り、彼女の方には

何もなかったようだ。

 一樹は悲しそうに黙って首を振った。

落胆したような顔になりつつも、千鶴は他の場所を

探し始める。

 と、大地が何かを発見したようだった。

こちらは癖のある茶色の髪が乱れようが、鼻の頭や

髪に葉っぱがつこうがお構いなしなようすである。

「おい、皆、来てみろよ!!」

「何が見つかったの!?」

 一番先に千鶴が彼の手元を覗き込んだ。

続いて一樹、ぱあっと明るい表情になった瑠美奈が

その手を覗き込む。

 彼の手には、白い糸のようなものが握られて

いた。結構長めではあるものの、細くて見えにくい

ので一樹達は目を細める。

「糸……ですか……?」

「何でこんなところに糸があるのよ?」

 全員は糸をじろじろと観察したが、本当にただの糸

だった。

 千鶴が白いゴム手袋をした手で握ってみるものの、

何も仕込んであったりはしない。

 まあ、かなり細い糸だから何かを仕込むのは難しい

とは思うが。

「大方、捨ててあったごみなんじゃないの? ちゃんと

やってよね、大地」

 ふん、と千鶴が鼻を鳴らした。ムッとなって大地が

千鶴を睨みつける。

「俺はちゃんとやってるよ!! 何か見つけたら教えろ

って言ったから、ちゃんと教えたんじゃないか!!」

「二人とも、ケンカするなよ!!」

 いつものようにぎゃんぎゃんと言い合う二人に、一樹が

厳しい声を上げた。

 瑠美奈が今にも泣きそうな顔で糸を見つめている。

「瑠美奈ちゃん、どうかしたのかい?」

「何でも、ありません……。ここに立っていると、どう

しても桃香さんのことを考えて、しまって……」

「瑠美奈ちゃん……」

 青い瞳から涙を零して泣きだした瑠美奈を見て、千鶴と

大地はケンカをやめて罰が悪そうに黙り込んだ。

 今はケンカなんてしている場合ではない。

その後は一樹達は手掛かりを探したものの、何も見つか

らずに食事の時間になったので彼らは室内に戻ったの

だった――。


 食堂にいたのは、全員分の食事を運んでいる崎原葉月、

苦虫を噛み潰したような顔の渚竜也、一人だけにやにやと

笑っている大江川大五郎だけだった。

 睦咲莉子の姿は見えない。

「あの……莉子さんは?」

 開いている椅子に座りながら、瑠美奈が心配そうに

言った。もう二人もここでは死んでいる。

 もしかしたら何かあったのでは、と思ったのだろう。

一樹達も心配になって来て葉月に声をかけた。

「莉子さんはどうなさったんですか?」

「莉子様……?」

 葉月は一樹に声をかけられて一瞬びくっとなったが、

仕事である事を思い出して何も言わなかった。

 しかし、眼鏡の奥の黒い瞳はどこか怯えている。

「何よ、一樹は人を殺してなんていないのに!」

「お、落ち着けよ千鶴!」

 千鶴の目が怒りに燃え、今にも葉月に殴りかかりそうに

なるのを大地が必死で押さえていた。

 自分をかばってくれるその気持ちは嬉しいものの、少し

一樹は苦笑している。

「そういえば、遅いですね……」

 大五郎は何食わぬ顔で食事を続けていたけれど、瑠美奈の

問いかけに葉月が心配そうな顔になった。

 竜也も彼女の事が心配なのか、食事する手を止めている。

「あ、私が見て来ます。皆様は、先に食事をしていて

ください」

 葉月はそのまま莉子以外の食事の配膳を終えると、白い

清潔そうなエプロンをはずし、紺色のメイドの服を揺らし

ながら部屋を出て行った。

 とりあえず一樹達も席につき、手前に置かれた食事の

皿に目を移す。

 今日の食事は、香ばしいローストチキンを挟んだサン

ドイッチとブラックコーヒー、ちいさな切り分けられた

チーズケーキだけだった。

 いつ出られるか分からないので、食料を節約しているの

だろう。

 一樹達はゆっくりを食事をしながら葉月達を待つ事にし、

サンドイッチを取り上げた。

 千鶴が勢いよく齧りついて美味しい――っ、と喚き、

大地に呆れられている。大地は千鶴にちづ、うるさいと

言いつつも、齧ったサンドイッチは美味しかったのか

笑顔になっていた。

 醤油ベースのタレを塗って焼かれた鳥肉は、よく味が

しみ込んでいて素晴らしい味だった。サンドイッチに使

われたパンもふわふわで柔らかい。

 一樹と瑠美奈も同時に齧り、美味しいねと言いたげに

顔を見合わせた。

 ブラックでは飲めないので、コーヒーに一樹はミルクと

角砂糖を一個、千鶴はミルクだけを入れ、瑠美奈は角砂糖を

三つ入れていた。

 大地だけはいつもブラック派なので何もいれなかったが。

「食べられないんですか? 竜也さん」

 瑠美奈が何気なく言った。大地が彼の席に目をやると、

竜也はサンドイッチをじろりと睨みつけただけで、全く手を

つけていないのだった。

 不安そうに扉を眺めやっている。

どうやら莉子が心配で食事が手につかないようだ。

 それが変わったのは、瑠美奈が彼のそばに近寄った時

だった。

「――食べられないんですか?」

 若干低めの声で瑠美奈が呼びかけた瞬間、竜也がびくっと

震え出した。彼の肘に当たった白い陶製の小さなミルク

ピッチャーががしゃん、と音を立てて割れる。

「た、食べるよ? ちょっと睦咲さんが心配でね」

「それはよかったです」

 竜也は何事もなかったかのようにサンドイッチを掴むと、

食べ始めた。瑠美奈もにこりと笑って食事を再開する。

「きゃああああああっ!!」

 ごちそう様、と手を合わせた大五郎が食器を重ねて立ち

上がる。

 竜也がコーヒーカップに、一樹達がチーズケーキに手を

伸ばした瞬間、葉月の絹を裂くような悲鳴が上がった――。



「葉月さん!?」

 一番先に竜也が立ち上がったのは竜也だった。

続いて、一樹もチーズケーキに伸ばしていた手を

引っ込めて立ち上がる。

 瑠美奈、千鶴、大地もすでに立ち上がっていた。

五人はそのまま食堂の扉を開け、葉月の悲鳴が

聞こえた莉子の部屋へと急ぐ。

 はぁ、と一つためいきをつくと、おっくうそうに

大五郎は食器を一端テーブルに置いてから幾分緩慢な

動きで彼らの後を追いかけた

 葉月は莉子の部屋の前でへたりこんでいた。

体が青ざめて震えており、赤ぐろい血が紺色のメイド

服に付着している。

「あ……あ……あ……」

 彼女の声は言葉になっていない。

「大丈夫ですか葉月さん!?」

 瑠美奈が心配そうに葉月に駆け寄った。

大五郎がふむ、これは彼女の血ではないようだ、と

顎に手を当てて考え込むような顔になる。

 竜也は慌てていたのか、葉月を押しのけるように

中へと入って行った。

 一樹達はよろよろと立ち上がり、ふらつく足取りで

よけるように歩き出す葉月を心配そうに見る。

 しかし、中の様子が気になるのでためらいながらも

中に入った彼らが見たのは、絶命する睦咲莉子の姿

だった――。

 手掛かりがないかと探すが、何も

見つけられないまま昼食に帰る一樹

達。しかし、第三の事件が発生して

しまって――!? 

 まだ事件は続きそうです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ