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スケープゴート  作者: 時雨瑠奈
お伽話殺人事件
31/35

第七話 ~気弱な心と叱咤する者達~

 この間と同様、木更津一樹は「お前が犯人だ」と言

わんばかりの警察官の行動に消沈していた。

 この間の警察官である大江川大五郎は明らかにやる

気がなかったものの、この警察官はアニメ主人公のよ

うな熱血さがあるので余計に性質が悪かった。

 一樹を更生させようと自首を迫ったり、奥さんのた

めに本気で怒ったりしているのだ。

 一樹の事も、悲しんでいるあの奥さんの事もただ救

いたいだけなのである。

「俺は……!」

 悪気がない分、俺はやっていない!と叫ぶのも気が

引けて一樹は自然と口数が少なくなっていくのだった。

 それが余計に彼の救いたいという意思を煽るのだろ

う、彼はばしん!と力強くテーブルを叩いた。

「いい加減にするんだ木更津君!」

 少しだけ長めの黒髪に、切れ長の黒い瞳を持つ警察

官――名前は日方蒼ひかたあおというらしい――は、

真摯な表情で一樹を睨みつけていた。

 びくっとなって身を竦ませる一樹に、はっとなった

ようにすまない、と悲しげに告げる。

「でも、俺は君の事も救いたいんだ……。どうして、

君がこんな事をしたのかは俺には分からないけれど…

…でも、何か理由があるんだろう? 話して欲しい」

 一樹はぎゅっ、と拳を握ってうつむいた。

彼は優しいだけなのだ、自分を傷つけようとはしてい

ないのが分かるだけに、信じてもらえない事が余計に

悲しく感じられた――。



 北山大地、斉藤千鶴、ノール・フェイトンは心配

そうに尋問が行われている部屋を見つめていた。

 ノールはともかく、いつもは喋っていない事の方が

珍しいほどの大地と千鶴が黙り込んでいるのは何だか

痛ましい。

「……何でだよ」

 いつもより低い大地の声に、千鶴とノールはびくっ

となったように彼を見返した。

 そんな二人に気遣う事すら出来ないほど、大地は怒

っていた。

 血が出そうになるほど拳を握りしめ、唇をきつく噛

む。

「何で……一樹がまた疑われなきゃなんないんだよ、一

樹は何もしてないのに……っ」

「大地……」

「もういいだろ、幸せになったっていいだろ、一樹は…

…っ、一樹は幸せになっちゃいけないってのかよ……なぁ

神様」

「駄目……」

 血が溢れたその時、ぐっ、と大地の手を握った手があっ

た。今にも泣きそうな顔をした、千鶴である。

 いつもならば馬鹿!と怒鳴りつつブッ飛ばしそうな物だ

けれど、今日はいつもとは少し様子が違うようだ。

 そんな二人をノールは黙ったまま見つめている。

「そんなに強く握ったら……怪我しちゃうよ、一樹やモモ

だってそんなの望まないよ……!」

「ちづ……」

絆創膏ばんそうこうはいるかしら~?」

「姉さん、空気読んでください」

 と、暗い空気を吹き飛ばすように塩瀬海と汀の姉妹が現

れた。

 海はこんな時だというのにほわほわした笑みを浮かべて

絆創膏を差出し、汀は姉の行動に頭を押さえている。

「――坊ちゃん、行きますよ」

「静……」

 今日は珍しくそばにはいなかった、家庭教師の美香山静

に声をかけられてノールはほっとしたようにそばに寄った。

 長瀬夫人――夕子という名だった――を宥めるため、今

日は彼女の部屋に行っていたのだ。

「あの……長瀬さんは?」

「まだ気落ちしているようです。無理もありませんね」

「そっか……」

 ぽん、と軽く静がノールの頭に手を置く。いつもは子供扱

いするな、と文句を言いそうな物だが今日の彼は大人しくし

ていた。

「行きましょうか」

「うん……」

 いつもの大人びた様子が嘘のように、腕を引かれてノール

が静と共にその場からいなくなる。

 その場には四人だけが残された――。



「姉さんは不謹慎です」

 ノールと静がいなくなると、汀は冷たい声で言い捨てた。

いつもは仲がいいはずの姉を、睨むように見つめているが海

は涼しい顔をしている。

「あら~、どうして?」

「何でこんな時に笑ってられるんですか、人が死んでいるん

ですよ!」

「泣いたり悔やんだりしてたら、死んだ人は生きて帰るの? 

 違うでしょう? こんな時だからこそ、私は笑うのよ」

 汀は驚いたように姉を見返した。笑顔の消えた顔で、妹を

見つめながら発言する海に大地も千鶴も声を失う。

 確かに、泣いたり悔やんだりしていても死んだ人は帰って

など来ない。

 何度泣いても叫んでも、彼らと一樹の大切な人であった神

無月桃香が帰って来なかったように。

「もちろん、亡くなった方の事は悼んでいるわ。悲しいと思

っている。たとえ、話した事は少ない人でも知っている方だ

もの」

「姉さん……」

 大地と千鶴は、自分達はこの人を誤解していたのではない

かと思っていた。

 今まで能天気で明るくて、あんまり深くは考えてない人だ

と勘違いしていたのである。

「海って強いな……」

 千鶴に絆創膏を貼ってもらいながら、大地はぽつりと呟い

た。海はにこぉ~、といつもの笑みに戻りながら彼に目を向

ける。

「別に強くなんてないわぁ~、泣いたってどうしようもなら

ないって思っているだけよ~」

 俺も強くなりたい、と大地は思った。一番辛いのは一樹だ。

自分が、悲観的になっている場合ではない。

 これからはもっと強くなりたい、と思っている大地の気持ち

が分かったのか、千鶴が黙って手を握って来たので大地はにっ

こりと微笑んだ――。





 ようやく続きが書けました~。

前回の警察官が酷かったので、今回の

警察官さんはいい人です。

 今回は大地と海メインな感じになって

しまったかもですね。

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